「ハロー」で仕留めにかかるBUMP OF CHICKENと藤原基央の話
構える前の防御力ゼロの状態で、想像絶するレベルの、あまりにも規格外なイケボな低音で「ハロー」などと耳元で呼びかけるものだから、あやうく卒倒するかと思った。
はじめてBUMP OF CHICKENの「窓の中から」を聴いたときの話である。
というのも、この歌、ボーカル始まりで歌が始まるのだが、ゼロ距離で仕掛けてくるのだ。
聴けることのできる凶器、と言っても過言ではないレベルの破壊力を全身に受けることになる。
それほどまでに、BUMP OF CHICKENの「窓の中から」の冒頭が容赦ないのである。
BUMP OF CHICKENの不意打ちボーカル始まりのシングル曲といえば、自分的には「ハルジオン」が頭を掠める。
が、「ハルジオン」はボーカル始まりの楽曲といっても、ブレスの存在感が大きく、そのブレスの間にきちんと身構えることができるから、そこまで冒頭の破壊力は高くなかったりするのだ。
何より、当時の藤原のボーカルは癒し成分は必ずしもそこまで高くなかった。
まだまだ荒削りなボーカルであった分、音ひとつでいきなり聴き手を仕留めてしまう・・・というようなことも、なかった印象なのである。
でも、今は違う。
今の藤原は、あの頃の藤原と違うのだ。
完全に自分のボーカルをコントロールできるようになっているし、歌声の感情表現があまりにも滑らかなのである。
特に優しさや温かみを表現するときのボーカルの破壊力がエゲツない。
なので、身構えせずにうっかりまともにそのボーカルを受けてしまうと、良い意味で骨抜きにされてしまうのだ。
なのに、あろうことか「窓の中から」では、優しさが一周まわったようなドSなプレイで、歌い出しの一発で耳の中に藤原のボーカルを一気に注ぎ込んでいき、聴き手の感情を完全に掌握してくるのである・・・!
ほんと、ボーカル始まりの歌い出し、という意味では過去一番の破壊力だったのではないかと思う。
「窓の中から」のボーカルと歌詞が良い
18祭(フェス)のテーマ・ソングの書き下ろした楽曲ということもあり、かなり歌そのものやフレーズひとつひとつの力の入れ方が高い印象。
個人的に、近年のBUMP OF CHICKENの楽曲の中でも随一に”歌”が刺さる一曲だなーと感じる。
確かに歌のテーマだけでいえば、BUMP OF CHICKENが過去に何度も繰り返し言葉にしてきた内容とリンクするものである。
新しいテーマの歌、という感じではない。
でも、それは裏を返せばBUMP OF CHICKENはブレることないテーマで歌を歌い続けてきた現れであると思うし、だからこそ、刺さるフレーズをいくつも見つけることができる。
ここにいるよ 生まれた時から
上記のようなフレーズで歌が始まっていくわけだけど、聴いている人の内側に語りかけるようなフレーズをベースにしながら、目に見えないはずの何かを主人公にしながらも、克明に”人格”を描写していき、同じ眼差しの人に”自分事の歌”として聞き入れていくように話が進んでいく。
そして、内面の世界の描写でありながら、「銀河」や「宇宙」というワードを使うことで、歌の世界の輪郭を丁寧に作り上げていく。
そこから、内面の世界を銀河のように彩るための架け橋として、「歌」や「音符」が登場する流れも良い。
歌い手の内面と聴き手の内面を繋げる架け橋として、音楽というモチーフを登場することで、BUMP OF CHICKENの歌を聴いて心が震えるという今まさに起こっていることと歌詞がリンクする。
だからこそ、歌がどこまでもリアルに響くし、どんどんシンクロ率が高まっていくのである。
こういう、藤原ならではの眼差しと描写力と表現力が圧巻であり、脱帽である。
さらに、各フレーズの表現にも目を見張るものがある。
希望については綺麗事であると言い切ってしまう一方で、絶望はそばにいるものとして描いてみせるのも藤原っぽい眼差しだなーと思うし、「痛くない事にした傷」や「グーの奥にしまった本当」や「化けの皮の下の本当」や「涙になれなかった感情」といった、逆接的な対比の言葉をここぞのタイミングで投じることで、歌の中で宿る感情やメッセージがより克明になってくるのだ。
この辺りの表現方法も藤原らしいし、秀逸なフレーズの連続であるように感じる。
ただ、どれだけフレーズが良くても、それだけで歌の温度は通わない。
メッセージがあるだけでは”刺さる歌”にはならない。
そう。
この歌を、どうしようもないほどイケボな藤原の歌声でメロディーにしていくからこそ、破壊力がえげつないものになっていくのである。
まとめに替えて
BUMP OF CHICKENの歌って、めちゃくちゃ高性能な綿棒のように、普通の歌じゃ届かない感情に綺麗にフィットしてくるのである。
だからこそ、BUMP OF CHICKENっていつまでも不動だし、他のバンドに変わることのない存在として、いつまでも君臨するのである。
「窓の中から」を聴いて、改めてそんなことを感じた次第。
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