
米津玄師「IRIS OUT」の話。歌詞、作曲、メロディーに触れて
導入
米津玄師の16thシングル「IRIS OUT / JANE DOE」(2025年9月リリース)は、劇場版アニメ『チェンソーマン レゼ篇』のオープニング主題歌である。楽曲としてのきちんとしたレビューを書くうえでは『チェンソーマン レゼ篇』を参照にしながら進める方がいいんだけど、この記事ではシンプルに楽曲の魅力にスポットを当てるような書き進め方をしようと思う。
・・・にしても、「IRIS OUT」は米津玄師のクリエイティブが炸裂したような一曲だなーと思う。
高速ビートのボカロシーンで音楽シーンの片隅に強烈なインパクトを与えたときのような。一見すると成立するとは思えないAとBの要素を、ひとつのテーブルのうえで綺麗に陳列させて美しく仕立て上げてしまうような、そういうワクワク感が「IRIS OUT」にはあるのだ。歌詞のワードやフレーズのチョイス、歌の展開のさせ方、1番と2番の対比、メロディーの積み込み方とドライブのさせかた、ボーカルの表情などなどなど。
言い始めたキリがないような音楽的魅力が迸っているのだ。音楽的な実験性もあるんだけど、ちゃんとキャッチーで中毒的。そういう米津玄師だからこその音楽センスが至る所で炸裂しているわけだ。
楽曲構成軸の話
端的に言うと、「IRIS OUT」って構成としてパンク的である。
ダラダラと歌の展開を作るというよりは、明明白白とサビまで至るような清々しさがある。なので、楽曲の尺としては2分30秒ほどと短い。緩急はあるけれど、基本的にはストレースに歌が展開する構成になっている。しかも、フレーズのひとつひとつを衝動的に歌いこなすような痛快さがあって、そういう部分にある種のパンク感を覚えるわけだ。とはいえ、歌としては展開が多様的で歌のパートもあれば、ラップのパートもあるし、メロとサビの緩急も明確だし、1番のメロパートと2番のメロパートでがらっと雰囲気を変えるし。
このビートの乗りこなし方こそが、「IRIS OUT」の魅力に直結しているようには思うし、だからこそ中毒的に歌の世界に誘われることになる。まるで、アクション映画のような迫力。直感的に理解して、直感的にノリノリいにさせるビートの刺激。その中でも、ちゃんとサビのメロディーがインパクトがあって頭に残るという構成。
サウンド軸の話
「IRIS OUT」は電子音楽的な音使いが際立つ。このがちゃがちゃ感に、どことなく「あの頃のボカロ」みを覚える人もいるのかもしれない。しかも、雑多かつ様々なタイプの音がなっているのに、綺麗にそれが収まっているのが米津の真骨頂。うるさくないし、情報過多にも感じない感じ。ノイズすらも美にかえてみせて、ダブステップ的なアプローチも織り交ぜなら、複雑な音楽世界を作り上げる。
低音にエッジを効かせたサウンドメイクと、飛び道具的な上モノの音、様々なタイプのビートメイクの音が融合していき、そこにビターでがなりを要素を強めた米津玄師のボーカルが合流したときの破壊力はもうたまらない。センスがない人がやれば、まちがいなく「耳障り」になる音の集積の中で、高揚感と美しさを兼ね備えた歌を生み出す。歌の流れの中で、緊張と緩和の作り出しも見事で、メロディーパターンとしてそこまで多くない「IRIS OUT」において、フレーズごとに様々な展開を用意することで、次なるワクワクをどんどん投下させることになる。
ボーカル軸
今の米津玄師のボーカルの表現力って半端ない。甘さ際立つアプローチもできると思ったら、こういうがなった歌声でオラオラ的な展開も綺麗にこなしてみせる凄さがある。その歌の世界観にふさわしい表現でスピード感をもって歌の世界を駆け抜けていくのだ。ここぞのタイミングでボーカルにエフェクトをかけて、サウンドと調和しながら自分のボーカルさえも中道的なビートを生み出す要素に転換させる流れも秀逸。なお、今作は2番のAメロのラップの表情づくりがたまらない。語るようにメロディーを紡ぐとは、まさにこのこと。色んな意味で歌に対する没入感を強めていく。
サビのパートのコーラスワークも見事だし、一瞬のファルセットよりの発生するタイミングの使い分けと移行も見事で、息をするように複雑なピッチをコントロールしており、芸術的に音符に色を塗っていく。そして、ボーカルがこういうトーンで進むからこそ、攻撃的かつパンチ力のあるワードがてんこ盛りの「IRIS OUT」の歌の世界とマッチしていくことになる。
歌詞軸
映画の主題歌ということで、歌詞の意味を考える歌では『チェンソーマン レゼ篇』の参照が必須になるとは思う。
ただ、この記事では”意味”を考えるというよりも、ワードのセンスについてスポットを当てながら歌詞をみていきたい。「IRIS OUT」はカタカナワードのチョイスが見事で、必要なタイミングで、気持ちの良い音の響きのワードを採用している印象。だから歌詞そのものがリズムの疾走感をドライブさせるエッセンスになっているのだ。さらに、「ゲロ」や「バチ」など、普通のJ-POPではあまり聴かないワードもメロディーに美しく当て込みながら綺麗に歌いこなすものだから、良い意味で違和感がまったくなくフレーズに組み込まれている。
こういうセンスは、米津玄師の真骨頂だなーと感じる。
なお、何気にフレーズの意味をみていくと、エッジが効いていて荒唐無稽っぽく響くワードにも、きちん内省的な描写が含まれており、原作と切り離して歌詞の意味をもって、歌としての物語を堪能できる構成になっている。あるいはもっと詩的なもの、文学的なものとして昇華することもできるような余白と余韻がフレーズごとに差し込まれている。色んな物語やカルチャーと接続することもできるような広大さを作品そのものに持ったりsている点も「IRIS OUT」の魅力を語るうえで、重要なポイントではないかと感じる。
まとめに替えて
結論。
「IRIS OUT」,魅力が多すぎて半端ない件。
そのうえでも、楽曲構成やサウンド、ボーカルと歌詞のあり方に特に心惹かれたので、そこにスポットを当てながら簡単に言葉にしてみた次第。