YOASOBIの「アイドル」のエグさについて

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よく昨今の歌は、ボーカル始まりのものが多いと言われている。

イントロはぶった斬ってしまって、のっけから歌で勝負するわけだ。

確かに昔に比べると、ボーカル始まりの歌が増えた印象はある。

では、なぜボーカル始まりの歌が増えてきたかというと、サブスクやYouTubeなどで音楽を聴く人が増えてきたため、歌が盛り上がるまでの時間を極力短くした方がいいという”データ”が出てきたから、と言われることが多い。

イントロだって歌を構成する重要な要素でしょ、という指摘はもちろんあるし、音楽のどこに盛り上がりを感じるのかは人によって異なるとは思うが、音楽を売れるものにするためにはライトな音楽好きにも刺さる必要があって、ライトな音楽好きに刺さる可能性を上げるうえで、ボーカル始まりで歌を構成した方がいい、という結論が出たということなのだと思う。

のっけから楽曲のインパクトを強めるうえで、その方策は適切であるというわけだ。

ただ、ボーカル始まりになったら、それだけで歌にインパクトが生まれるのかといえば、そんな単純な話ではない。

歌の開始数秒で、初聴でもたくさんの人の心を掴むほどのインパクトを与えるのは、そう簡単な話ではないわけだ。

しかし、そういう技を軽やかに実現してしまっている楽曲が、2023年にも何曲か発表されている。

その歌のひとつが、YOASOBIの「アイドル」であるように思う。

YOASOBIの「アイドル」の話

この歌もイントロなしで頭からボーカル始まりである。

ikuraの跳ねたボーカルで始まるし、わざと声が裏返るような飄々としたトーンでメロディーを紡ぐ。

この歌はテレビアニメ「推しの子」の主題歌であり、「推しの子」の中でどう使われるのか、ということも相当に意識されながら楽曲が作られているとは思うが、冒頭のボーカルのトーンが良い意味で違和感を覚える作りになっているのだ。

きっとYOASOBIの過去曲に魅了されている人であればあるほど、その冒頭のボーカルに良い意味での違和感を覚えることになる。

この違和感がすぐに”気になる”に変わり、続きを聴きたくなる構成になっているのである。

あと、ボーカル始まり、というのもポイントであるが、一方でリズムの打ち方にもクセがある。

ボーカルが一発目の音を発するタイミングで、鈍くて重たいバスっぽいドラムの音がどーんと響く作りになっている。

そして、どーんどんどん、という一定のリズムでその低音のドラムが響くわけだが、それがより楽曲の良い意味での違和感を増幅させることになる。

そして、15秒を過ぎたあたりで楽曲はすぐに次のフェーズに突き進んでいく。

荘厳かつ邪悪さを感じるコーラスを挿入することで、そのメリハリを強調させていく。

ビートが打つリズムも一気にテンポアップすることで、違和感をもって続きを気になっていたリスナーの多くを、「アイドル」 が持つテンポにのせていってしまうのである。

この流れが秀逸で見事であるように思う。

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Bメロからサビも怒涛

Bメロではたんたんたーんというリズムを取り入れて、手拍子を2回打ったあとに縦に飛び跳ねたくなるようなリズムを楽曲に放り込んでくる。

飛ぶタイミングでは男の掛け声を入れているし、タイミングをみてハンドクラップも入れているし、丁寧なリズムの誘導で楽曲の盛り上がりをピークに導いていく。

声として聴こえるのは、ikuraの歌声だけだし、そのikuraの歌声のバリエーションも見事ではあるんだけど、それ以上にAyaseの”顔”が見えるのが「アイドル」 という楽曲の面白さであるように思う。

一度でも「アイドル」 の世界に踏み入れたら絶対に逃さないぜ、という強い意志を感じるような楽曲構成。

後半の鍵盤のサウンドだけで彩るサビのメロディーとコードの展開も秀逸で、楽曲としては盛り上がりの前のパートっぽい装いなんだけど、一切緩めることなく、ピークへと繋がる次のステップを見つめる流れになっている。

音、ビート、ikuraのボーカルのあり方。

全てがAyaseの計算の中で緻密に構築されている心地を覚えて、それが「アイドル」 という楽曲の凄さに直結している。

そんな風に思うのである。

まとめに替えて

「アイドル」 は楽曲を細かく楽曲を聴けば聴くほど発見がある楽曲である。

そして、それほどに強いエネルギーを宿しているのは、あれだけ売れたYOASOBIの「今」に一切満足せず、Ayaseがどこまでも獰猛に楽曲を<乗れる>ものに仕立て上げ、よりたくさんのリスナーを想定して中毒性のある歌を生み出したところにあるように思う。

好き嫌いとかを超越したところで、2023年を代表する一曲になる。

この時点で、そのことを強く感じる楽曲なのである。

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