YOASOBI「オリオン」は、離れた二人を遠くから見守る歌である。近くに並んで見える星も、実際にはそれぞれ遠い場所にある。その距離とつながりを、キリコ、ゲンジ、ハンゾーの関係へ重ねた。
ここでは歌詞を直接引用せず、『オーバーウォッチ』の短編小説「地に落ちた雀」、オリオン座の三つ星、キリコの視点、琴とドラムンベースが混ざるサウンドから歌詞の意味を考察する。
この記事の結論
結論から言うと、「オリオン」は次のように読める曲である。
- ゲンジとハンゾーの兄弟を、キリコがつなぎ直そうとする歌である。
- オリオン座の三つ星は、離れていても同じ線で結ばれる3人の象徴である。
- 二人の対立を裁くのではなく、互いを思っていた過去と再会の可能性を信じる視点が中心にある。
- 琴の音と未来的なドラムンベースが、東京と『オーバーウォッチ』の世界を接続する。
- 原作を知らなくても、離れた家族や友人を思う歌として聴ける普遍性がある。
YOASOBI「オリオン」はどんな曲?
「オリオン」は、ゲーム『オーバーウォッチ』とのコラボレーションから生まれ、2026年6月26日発売のEP『THE BOOK for,』に収録された楽曲である。
原作はE.C.マイヤーズによる公式短編小説「地に落ちた雀」。YOASOBIはこの物語をもとに、キリコ、ゲンジ、ハンゾーという3人の関係を歌にした。2026年7月にはゲーム内コラボも展開され、A-1 Pictures制作のMusic Videoでは3人の過去と現在がアニメーションで描かれている。
Billboard JAPAN Hot 100では2026年7月8日公開チャートで初登場25位。ゲームと音楽のコラボでありながら、単なるテーマソングではなく、YOASOBIらしい「物語を音楽にする」作品として成立している。
「オリオン」というタイトルの意味
Ayaseは発表会で、オリオン座の中央に並ぶ三つ星を、キリコ、ゲンジ、ハンゾーの関係へ重ねたと説明している。遠く離れている星が、地上からは寄り添って一直線に見える。その見え方が3人の物語の核である。
なぜ、三角形ではなく一直線なのだろう? キリコが中央に立ち、離れてしまった兄弟を結ぶ存在だからだと考えられる。ゲンジとハンゾーは対立し、それぞれ異なる道を歩いてきた。しかし、二人の間には消せない過去があり、キリコはその両方を知っている。
つまり「オリオン」は、3人が同じ場所にいるという意味ではない。距離があっても、ある視点から見ればつながっている。関係を取り戻す可能性は、まだ線として残っているというタイトルである。
歌詞はキリコの視点で何を願っている?
兄弟のどちらかを裁かない
ゲンジとハンゾーの間には、簡単に許し合えない過去がある。外から正しさを決めるなら、どちらかを責めたくなるかもしれない。しかし、歌の視点は二人の間に立ち、どちらも一人ではないと伝えようとする。
これは問題を軽く扱うことではない。罪悪感や怒りが残っていても、相手を思っていた時間まで消えるわけではない。その事実を思い出させることが、キリコにできる役割なのだ。
遠くの星は、過去の光でもある
私たちが見る星の光は、遠い過去に放たれたものである。今は離れていても、かつて一緒に過ごした時間の光は届き続ける。この天文学的な感覚が、3人の幼い頃の記憶とよく重なる。
過去は人を縛るだけなのだろうか? 「オリオン」では、過去は戻れない時間であると同時に、未来へ帰るための目印でもある。幼い頃の絆が残っているからこそ、再会を願うことができる。
「強くなる」は孤独になることではない
キリコは、二人をただ待つだけの存在ではない。自分も強くなり、暗い場所へ入った誰かを見つけに行こうとする。
強さとは、一人で何でも背負うことなのだろうか? この曲が示すのは逆である。離れていても思う人がいると伝えること、必要なら自分から線を結び直しに行くこと。それが孤独を越える強さとして描かれている。
琴とドラムンベースがつなぐ東京と未来
Ayaseは、東京をイメージした新マップとのコラボに合わせ、琴の音を取り入れながら未来的なドラムンベースへ仕上げたと説明している。
伝統的な音と高速のビートは、一見すると正反対である。しかし、その組み合わせ自体が曲のテーマと重なる。過去と未来、家族の記憶と現在の対立、日本の風景とグローバルなゲーム世界。離れたものを一本の音楽でつなぐ構造になっている。
ikuraの声も重要だ。強いビートの上で、祈りのような柔らかさと、必ず見つけるという意志を両立させる。だから「オリオン」は戦いの歌でありながら、最後まで再会を諦めない歌として響く。
『オーバーウォッチ』を知らなくても楽しめる?
もちろん楽しめる。原作を知れば、キリコ、ゲンジ、ハンゾーの関係やMVの場面を具体的に理解できる。一方で、物語を知らなくても、離れてしまった家族や友人を思い、もう一度笑い合える日を願う歌として受け取れる。
YOASOBIの強さは、固有の物語を薄めずに、聴く人自身の記憶へ開くことにある。「オリオン」も、ゲームの設定を丁寧に背負いながら、誰かとの距離に悩んだことがある人の歌になっている。
よくある疑問
「オリオン」は誰の視点の歌?
キリコの視点を中心に、ゲンジとハンゾーの兄弟を思う歌として読める。公式発表でも、この3人の関係が楽曲の核と説明されている。
オリオン座の三つ星は何を表す?
キリコ、ゲンジ、ハンゾーの3人を表す。遠く離れていても、ある視点からは寄り添って一直線に見える関係の象徴である。
原作は何?
E.C.マイヤーズによる『オーバーウォッチ』公式短編小説「地に落ちた雀」である。公式サイトで公開されている。
まとめ
「オリオン」は、壊れた関係を簡単に元へ戻す歌ではない。離れた距離も、背負った過去も消せないまま、それでも線を結び直せると信じる歌である。
星は遠い。しかし、その光は届く。キリコ、ゲンジ、ハンゾーの3人を通して、YOASOBIは「離れていること」と「つながっていないこと」は同じではないと歌っている。



