藤井風、 「workin’ hard」で新たに殻を破っている感
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藤井風の歌って楽曲ごとの表情が異なる。
というか、楽曲ごとに大胆にアレンジを変えてくるし、色んなアプローチで楽曲を輝かせるから当然といえば当然の話である。
「旅路」のように、しゅっとした楽曲もあるかと思えば、「damn」みたいなダンサブルな楽曲もある。
「LOVE ALL SERVE ALL」というアルバムは、そういう今の藤井風の魅力が多面的に展開される作品だったように感じる。
で、今回リリースされたのが「workin’ hard」である。
約10カ月ぶりのシングル曲となった今作は、『バスケットボールワールドカップ』のテーマソングとして書き下ろしらしい。
これまでとは異なるタイアップソングということで、どんな仕立てになるんだろうなあと思っていた。
どんなのアーティストもスポーツのテーマソングとなれば、ライブでも盛り上がりそうなアッパーな楽曲を披露することが多い。
Suchmosの「VOLT-AGE」やKing Gnuの「Stardom」のように、いわゆるわかりやすいアッパーな楽曲ではないとしても、内なる闘志や青い炎が見え隠れしそうな楽曲を歌うことが多い。
では、今の藤井風はどういう温度感の楽曲を解き放つのか。
自分はテレビ番組などで聴いてこなかったので、配信で解禁されたタイミングで耳にすることになったんだけど、「なるほど・・・こう来たか・・・」という不思議な興奮があったのだった。
良い意味で、この歌、スポーツのテーマソングの書き下ろし感がない。
いや、人によってはそう捉えるのかもしれないが、わりと落ち着いたテンポの中でリズムを紡いでいるし、エレキギターやホーンセクションといった、アッパーな楽曲に鳴りがちなサウンドが響いていない。
これまでの藤井風が生み出した楽曲のことを考えれば、そういうアレンジに楽曲をしたて、それを藤井風らしく歌うことだって、できたように思うのだ。
そんな中で、 「workin’ hard」は絶妙な温度感で楽曲が進むのである。
この絶妙な温度感、というのがポイントで、この歌、わかりやすいアッパー感は出していない一方で、チルっぽい空気感で楽曲を構成しているというわけでもないのだ。
集中して聴き入りたくなるような空気感があるし、でも、聴いているうちに不思議と身体がうごいてしまうようなグルーヴも内在している。
もっとも点数の動きが激しく、ゲームスピードの展開も早いバスケというスポーツのテーマソングにおいて、こういう味わい深い楽曲を投じる藤井風の音楽的な面白さが、今作でもいかんなく発揮されているように思うのだ。
また、今作ってこれまでの藤井風のどれかの楽曲「っぽさ」がない。
少なくとも、自分はそのように感じた。
ああ、この曲は前回のあのアルバムのあの曲と似たような立ち位置だね、というものがなくて、新しい藤井風の雰囲気を身に纏っている。
あえて言えば、J-POP感を逸脱して、よりワールドワイド・・・異国情緒あふれる空気感を身に待とう楽曲を生み出したように感じるのだ。
もしかしたら、よりワールドワイドに活躍する藤井風のモードが、楽曲に反映したのかなーなんてことも、ぼんやりと感じる自分がいたのだった。
・・・と感じる一方で、でも、これ、やっぱり藤井風の歌でしかないよなーとも思う自分がいるのである。
なんというか、藤井風の最大の魅力ってそのボーカルにあるように思う。
歌が上手い、の水準をひとつ上にするような歌の上手さが、藤井風のボーカルにはある。
メロディーを伸ばしているときの艶とか色合いとか、リズムの乗りこなし方とかに、どうしようもないほどに藤井風の個性が宿るのである。
「workin’ hard」では、楽曲の後半に藤井風のボーカルが伸びやかに展開されるパートがあるけれど、そこまでのボーカルも輝きも藤井風にしかないものが展開されているのである。
まとめに替えて
スポーツのテーマソングとしても、藤井風のこれまでの楽曲としても、新鮮な空気をみにとまっている「workin’ hard」。
でも、本質は、これまでの藤井風の卓越したボーカルの存在感が際立っている。
なので、新しいはたくさんあるんだけど、らしさはどこまでも感じることができる、そういう不思議な楽曲だなーと感じたのが、今作での現時点の感想。
ここから楽曲を聴き込むことで、よりたくさんの刺激を感じられたらいいなーと思っている自分がいる。
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