スピッツの「オバケのロックバンド」の歌詞と歌割りがえぐい件
もし一組好きなバンドを選べと言われたら、たぶん自分はスピッツと答える。
それくらいにはスピッツが好きなんだけど、そんなスピッツがついにニューアルバムをリリースした。
タイトルは、「ひみつスタジオ」。
どんな楽曲が収録されているかわからなくても、不思議とワクワクを刺激するタイトルである。
ほんと、スピッツって、こういう何気ないワードの使い方が上手い。
そんな「ひみつスタジオ」がついにリリースされたので、解禁直後からヘビロテしている自分。
半分正座になりながら、耳を澄ませるように音楽を貪る。
どんな音が鳴っていて、どんな言葉が使われていて、どんなメロディーが紡がれて、どんなボーカルが響くのか。
アルバムの全体を楽しむように音楽を聴いているのだった。
最初の数曲を聴いて実感する。
ああ、今作も素晴らしい出来だ、と。
これは、2023年のベストアルバムの一枚になりそうだ、と。
そう確信していたとき、事件は起きた。
アルバムの中盤、トラックとしては6番目。
タイトルは「オバケのロックバンド」。
その道中だった。
この歌、古き良きロックバンドという感じの音づかいで、本当にぐっとくる楽曲なのだ。
というのもあるし、今のスピッツだからこそ沁み入りそうなタイトルになっているし、往年のロックバンドよろしくの硬派でソリッド濃度強めのギターが炸裂している。
スピッツは「醒めない」以降、明確にロックバンドであることの自負を強めている。
生涯ロックバンドとして貫くような、そんなトーンとも一致する音の運びに、ニヤリと笑みがこぼれそうになる。
ところで、スピッツって楽曲でしか聴いたことがない人も多いと思うが、実はライブで聴くとさらにその迫力がえげつないことになる。
そこがスピッツの魅力だったりする。
きっとこの歌もライブ化け絶対するんだろうな、オバケなだけに・・・なんてことを思っていると、いつの間にか草野のボーカルが楽曲に加わっていた。
ソリッドで分厚いサウンドに対して、落ち着きと安らぎのある草野の歌声。
良い意味でサウンドとボーカルにギャップがあって、この歌でもそれが炸裂しているから、またニヤリと笑みがこぼれそうになる。
草野のボーカルで紡がれる最初のフレーズが良い。
最初のフレーズだけでも、「物置き小屋」「退屈な膜を破り」「転がり出てきたオバケ」と草野の語録が爆発するのだ。
膜というワードをチョイスするセンスも素晴らしいし、オバケの描写に「転がり出てきた」を使う辺りにも草野の想像力全開って感じがして、ニヤリに加えて自ずとテンションも上がっていくのだった。
さて、「オバケのロックバンド」よ、ここからどんな展開で楽しませてくれるんだ。
己のワクワクが塔のように高くなり、耳の奥の奥も気合いを入れてその音を堪能しようと、さらに丁寧に音源に意識を傾けた、そのときだった。
こぉだぁまぁにそだてられぇ〜♫
は?
こだまにそだてられ????
いや、違う、フレーズはどうでもいいんだ。
誰だ、このおっさんの声は。
そうなのだ。
急に聞き慣れないボーカルが楽曲に加わってきたのだ。
草野の低音ボイスか・・・いや、そんなバカな。草野があんな声を発するわけがない。あれ?この歌ってコラボソングだっけ?ふぃーちゃりんぐは奥田民生か?いや、でも民生にしては声がさっぱりしているぞ。わからないわからないわからない。こんなボーカル、俺は知らない、一体なんだ・・・これは・・・!
突然、聞き慣れない歌声がボーカルに加わることで、脳内は大混乱に陥ってしまう。
でも、「オバケのロックバンド」は、そんなこと、知らぬ顔をして楽曲を進めていく。
サビに入ると、初期のスピッツを少し彷彿させるような、草野のボーカルに合わせて、メンバー全員のコーラスが加わる流れになっている。
ちょっと懐かしい感じ。これはこれで味があるし、メロディーが美しいので、心地よさもある。
だが、意識はサビ半分、あのおっさんの歌声、半分なのである。
だって、スピッツの歌に、いきなり知らないおっさんの声が入ってきたのだから。あのおっさんの声は、一体何だ?
謎が解決されないまま、楽曲は2番に入る。
よかれとおもってもぉ〜お、ことごとくうらめにでてぇ〜
そこで、自分はさらにパニックになってしまう。なぜなら、さらに知らないボーカルが追加されたからだ。
なんだこれは。新手のエフェクトをかけて、草野の歌声に新しい表情を加えたのか。いや、それにしてはボーカルの輪郭があまりにくっきりしている。なにより、十何年、スピッツの音楽を聴いてきたが、こんなボーカル、聴いたことないぞ、「メモリーズ」なんかだと、たまに三輪が低音で草野のボーカルがハモることあるけれど、こんなの、まるで、他のメンバーが歌っているみたいじゃないか。
・・・ん?
他のメンバーがボーカル??
そこで、インターネットに立ち返って、検索する。
「オバケのロックバンド スピッツ ボーカル」・・・。
やがて、この歌はスピッツ史上はじめて、メンバー全員でボーカルを録った楽曲であることに気づく。
確かにユニコーンも奥田民生以外がボーカルを取ることも多いし、スピッツがそういう魅せ方をするケースも、そりゃああるにはあるか、ということで色々と納得したのだった。
・・・にしても、こういう方向性で、スピッツに刺激をもらうとは思わなかった。
さすが、スピッツ。
30年経っても、まだバンドとして進化している。
あと、何気にメンバー全員、ボーカルに味があっていい。
だけど、全員のボーカルに触れるからこそ、草野のボーカルに触れたときの安心感とか心地よさとか半端なかった、ということはあえて記しておきたい。
「美しい鰭」のような透明でピュアな楽曲を歌うかと思ったら、突然思わぬ角度に曲がる変化球を放り投げる。
でも、デモの段階で、草野はこの歌をメンバー全員で歌うものとして、発表したらしい。
確かにメロディーの感じも、言葉の選び方も、そういう魅せ方をするのにぴったりな歌だなと思った。
というのも、この歌、色んな意味で、スピッツの自己紹介ソングって感じがして、往年感がありつつもめっちゃフレッシュさもあって、めっちゃ良いのだ。
オバケのままで奏で続けるバンドが、毒も癒しも真心込めて、君に聴かせるためだけに歌った歌なんだと考えると、なんかうるっとくるというか、不思議な感動に包まれる。
今のスピッツだからこその朗らかさと優しさが全開で、最高な楽曲だなーと思うのだ。
まとめに替えて
・・・というのも踏まえて最後にアルバム全体の話へ。
今作はこういうテイストの楽曲が途中で放り込まれるからこそ、アルバム全体の「濃さ」もくっきりと浮かび上がる。
特に、このアルバムの最後にやってくる「めぐりめぐって」に、全ての楽曲が繋がる心地を覚えるのが、良いのだ。
いや、ほんと、ここの部分だけでも語りたいことがいくつかあるんだけど、長くなりそうなので、その話はまた別の記事で改めてできたらと思う。