前説
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渋谷すばるの「二歳」というアルバムを聴いた。
正直言えば、自分はそこまで渋谷すばるの音楽を丁寧に聴いてきた人間ではない。
歌は上手いと思っていたし、音楽が好きなことも知ってはいた。
とはいえ、ソロアーティストとしてリリースされる1stアルバムにそこまで期待をしていなかった。
だから聴くことも後回しにしていたし、真面目に聴いたのは10月の連休になってからのこと。
聴いて感じたのは、そのふっきれた感だった。
ストレートなメッセージと、飾らない態度で、自分の好きな音楽を鳴らすその姿勢。
全ての曲の作詞・作曲・編曲を自身で手掛けたこのアルバムは、<音楽で表現すること>を志向したアーティストだからたどり着けた、そんな境地のアルバムだったように感じるのだ。
本編
ストレートなメッセージについて
ロックバンドであっても、自分の言いたいことをそのままにして歌うことが難しい世の中になっている。
言いたいことがあっても、本当に伝えたいメッセージがあっても、それをそのまま表現に落とし込むのではなくて、リスナーはどういうものが好きなのだろう?と考えたうえで、表現したいことと求められるものの折り合いをつけながら、作品を作るバンドが多いわけだ。
客商売をする以上、仕方のない話だし、音楽にお金を落とす母数が減っているからこその、やむを得ない決断であったりする。
でも、渋谷は違う。
相手がどうとかは一旦脇において、自分の伝えたいことや、今自分が思っていることを実直に歌詞に落とし込んでいる。
もちろん、こういうことができるのは、すでに認知度のあるアーティストだからだろうし、自分を表現することそのものが作品になるくらいに名を馳せたアーティストだからだ、という前提はあると思うけれど、でも、ここまで媚びることなく、ストレートに、高い水準でやりたいことをやっていると、清々しさを感じる。
渋谷の立場だからできるんだよ、って言う人もいるかもしれない。
けれど、話はそんな単純じゃないだろう?と思うのだ。
渋谷の立場だからこそ、自分が表現したいことを表現するための道は困難だったわけだし、その決断をするまでに、すごくたくさん悩み、苦悩したうえで決断したと思うのだ。
でも、色んな覚悟を決めたうえで決断したからこそ、僕なんかでは想像できないような大きい覚悟のうえでの決断だからこそ、圧倒的にメッセージ性の強い歌を披露し、説得力が高いメッセージソングを生み出すに至ったのだと思うのである。
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作品の話
今回の作品のグッと来るポイントは2点だと思う。
・自分の表現したいことを飾りげなく伝えるメッセージ性。
・自分の好きな音楽を追求したルーツ・ミュージック。
そうなのだ。
聴いて最初に感じたのは、ブルースとロックの臭いがとてもすごいということだった。
ロックと一口にいっても色んなロックがあるわけだけど、渋谷すばるが今作リリースしたロックは、ロックンロールの風味が強い。
端的にいえば、ブルースの臭いが強いロックを奏でているわけだ。
「ワレワレハニンゲンダ」はイントロのブルースハープが印象的な歌であり、ノリの良さよりも、言葉の強さを強調した歌になっている。
「ワレワレハニンゲンダ」に限らず、全編を通して、渋谷すばるが影響を受けた、大好きなロックンロールがふんだんに詰め込まれているわけだ。
シンプルなロックサウンドとブルースハープが印象的なバンドと言えば、THE BLUE HEARTSをイメージする人もいるかもしれないが、今作はTHE BLUE HEARTSへのリスペクトを感じる部分もある。(実際、渋谷すばるは、ヒロトやマーシーを敬愛しているようで、2人が現在所属しているバンドであるザ・クロマニヨンズのライブにも足を運んでいたようである)
「TRAINとRAIN」は、THE BLUE HEARTSの名曲「TRAIN-TRAIN」を踏まえた上で付けられたタイトルであるように感じるし、言葉の強さはTHE BLUE HEARTSと通ずるものがある。
他にも渋谷は、影響を受けたアーティストとしてRCサクセションの名前を挙げたりしているわけだが、いずれにしても、80年代のロックに影響を受けたこと、そういう音楽に対するリスペクトを込めた音楽を作っているところ、先人たちのロックンロールに負けないように、サウンドにこだわり抜いたところをはっきりと感じるのだ。
そしてそれが、このアルバムの大きな魅力のように感じる。
まとめ
つまるところ、12曲収録されたこのアルバムのエネルギーが凄まじいわけだ。
アルバムの感想を一言で言ってしまえば、かっこいいという一言に尽きてしまうわけだ。
元ジャニーズという肩書である以上、こういうこだわりの強いアルバムを出しても、なかなかに理解されなかったり、求めていたものと違うと失望される可能性だってあるし、実際意見は賛否両論あるのかもしれない。
でも、僕はこのアルバムが好きだ。
かっこいいと思った。
今、バンドをやっている人ですらほとんど通っていない80年代のロックンロールを、ここまで屈託なく表現に落とし込んでいる渋谷すばるの作品が、端的に言ってかっこいい。
肩書とかキャリアとか、そういうものは取っ払って、一つの作品として「二歳」を捉えた時、間違いなくかっこいいと思ったのだ。
それだけは、間違いない。
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