前説
スピッツのアルバム「見っけ」を聴いてみた。
今作も紛れもなく良作である。
スピッツ史上ナンバーワンだ!!!みたいなテンションになるわけではない。
けれど、スピッツがロックバンドであるということ、スピッツならではのロックが鳴らされていることがよくわかるアルバムであり、間違いなく2019年を代表するアルバムのひとつとなっている。
この記事では、そんな「見っけ」というアルバムを通して、改めて感じたスピッツのことを書いてみたい。
本編
スピッツという夏の魔物
アルバムを聴いて、開口一番に思ったこと。
スピッツ、なんか、若いぞ、なんだこりゃあ!
スピッツは比較的リアルタイムで追ってきたバンドだから思うんだけど、ここに来て、スピッツはさらに若くなっているような気がする。
元々、スピッツって年の割に若いバンドだと思ってはいた。
でも、ここにきて、その若さがさらにフルドライブしているというか、下手したら不老不死感すらにじみ出てきたようなところがある。
リアル輪廻転生を現出しているというか。
だってさ、スピッツと同年代くらいのバンドってさ、若さとカッコよさを持ち合わせながらも、そこに渋さも滲み出しているじゃないですか?
作品においても、熟達した技術と、長年蓄積したサウンドへのこだわりから、自ずと渋さが滲み出ているじゃないですか?
特にサウンドに足し算はしないで、ロックにこだわるバンドであればあるほど、そのサウンドから渋さって、滲み出てくるじゃないですか?
が。
スピッツはそんな常識を覆す。
音を劇的に改造して、ダンスミュージックにしたというわけでもない。
打ち込みやサンプリングを大胆に取り込んで、バンドサウンドを大きく変化させたわけでもない。
基本はスピッツ4人のサウンドをベースにして、そこにプログラミング足しただけのはずなのに、その歌には妙な渋さは一切ない。
聞こえてくるのは、溢れんばかりの瑞々しさなのである。
これを聴いて、どう思うかという話で。
少なくとも、キャリア30年のバンドっていう雰囲気は全然ない。
優しさと心地よさが全面に出ている爽やかソングという印象の方が強い。
特に、ゆったりとした美しいメロディーが印象的な「ありがとさん」は、スピッツならではのスルメ曲といった感じである。
若い。
ビジュアルも歌詞も歌声もサウンドも、どうみても若い。
夏の魔物とは、スピッツのことではなかったのだろうかと思ったりする。
醒めないスピッツが向かう先
で、今回のアルバムを聴いて感じたのは、スピッツのロック熱の醒めなさ具合である。
アルバムと同タイトルである「見っけ」や、サブスクでは配信されていないボーナストラック「ブランケット」で歌われている内容も、「醒めない」や「1987→」と地続きな気がする。
ロックの衝動に突き動かされた自分たちが、あいも変わらずにロックを鳴らして、素敵なものを君というリスナーに届ける。
そんな意志を表明するような歌だ。
ってか、この年になって、そういうことを歌っちゃう感性そのものが、すでにもう若い。
しかも、その若い感性の表現方法がとにかく若い。
時々入る不思議な擬音語とか、草野ならではの「らしい比喩表現」の全てが若い。
おっさんの書いた歌詞に「可愛い」なんて言うのは変な話だけど、今のスピッツの歌詞は「可愛い」という形容が本当に似合ってしまうから恐ろしい。
亀田誠治とタッグを組んだからこそ、醒めないロック熱を維持しつつも、若々しさも感じさせるサウンドを鳴らすようになったのだろうし、そういう意味でスピッツと亀田のコンビは良かったのかもなーと改めて思ったりする。
スピッツが若い
というわけで、耳タコかもしれないが、今作から感じるのは、スピッツの圧倒的な若さなのである。
ほんと、10代とか20代前半のバンドの歌詞よりも、ピュアに見えてくる不思議さがある。
昔はある種のエログロだったスピッツは、年を重ねるごとにエロとグロが抜け落ちて、手元に残ったのは音楽好きなピュアな気持ちだったという感じだろうか。
ちなみに、個人的に好きなのは「はぐれ狼」。
軽妙なサウンドと、切なさを感じさせるメロディー。
今のスピッツの良さがふんだんに盛り込まれた作品である。
あとは「まがった僕のしっぽ」の、急にテンポが速くなる部分も好きである。
まとめ
最近のバンドのアルバムって半分ベスト・アルバムのような体裁を取ることが多い。
既出曲だらけ、タイアップまみれ、どこをとってもシングル曲みたいな楽曲群。
でも、スピッツのアルバムってシングルはほとんどなくて、既出曲も少なくて、シングル曲みたいな曲すらほとんどなくて、そもそもシングル曲もシングル曲みたいな雰囲気ではなくて、スルメ曲ばかりなのである。
あのNHK連続テレビ小説の主題歌ですら、わかりやすいサビは用意しないで、スルメ感の強い曲を提出したスピッツ。
だからこそ、「見っけ」を聴いたあとの感じて、心地よい読後感なのである。
満腹じゃなくて、腹八分目になるというか。
でも、きっちり今スピッツがやりたいことが伝わる感じ。
スピッツならではのロックが堪能できる作品だし、メンバーもパートも一切変わらない「おっさんバンド」だからこその表現に満ち溢れている。
人によっては、スピッツって「ロビンソン」「チェリー」「空も飛べるはず」の人でしょ?
「優しいあの子」もなんかよくわかんなかったし、アルバムはパス、って人もいるかもしれない。
でも、スピッツの曲って噛んでいると味が出るガムみたいなところがあるし、その味は噛めば噛むほど少しずつ変化していく。
しかも、その味は半永久的に出ていく。
そんな感じなのである。
ついに「場外」へ行ったスピッツの作品を堪能してほしいなーなんて、ファンである自分は思ったりする。
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