前説
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なきごとのアルバムである1st Full Album「NAKIGOTO,」がリリースされた。
このアルバムが良かったので、ざっくりとした自分の感想を書こうと思う。
なきごとの「NAKIGOTO,」の魅力
まず、話に入る前にひとつ整理しておきたいのが、「NAKIGOTO,」は2枚組のフルアルバムであるということ。
DISC1とDISC2に分かれていて、それぞれの収録曲をみると、DISC1には新曲や2022年にリリースにされた楽曲が収録されていて、DISC2にはなきごとのこれまでの代表曲や結成当初からライブで披露されていた初の音源化曲が収録されている模様。
なので、DISC1は新譜的な響きがあって、DISC2はある種ベストアルバム的な響きがある印象なのだ。
その一方でDISC1とDISC2がまったく別の作品に聴こえるかというと、そういうこともなくて。
合計22曲で、ひとつのアルバムとして成立しているのだ。
これには幾つか理由があると思ってるんだけど、そのひとつとして、DISC2で選んだ12曲と、DISC1に収録された10曲はどれも、歌も言葉もサウンドも同じ方向を向いているから、のように思う。
例えば。
時期によってジャンルがごろっと変わるバンドだと、時期ごとに収録曲が異なっていると、時代性が際立ってしまう。
でも、これまでのなきごとの作品って、どの楽曲にも通底した価値観と美学がある印象で、故にこういう形式でアルバムを構成しても”まとまり”が生まれる印象。
あえて言えば、群像劇の小説を読んでいるような心地、とでも言えばいいだろうか。
ひとつひとつはもちろん違う話で、違うテーマやモチーフを扱っていて、それ自体が直接繋がっているわけではないんだけど、通底したものがあるので、きちんと同じ線が繋がっている気がする感じ。
これって、なきごとというバンド名の由来ともシンクロしているのかなーと思っていて。
なきごとの歌って、どの歌も内面にある泣き言に寄り添った歌や言葉で構成されていて、だからこそ、自分がアルバムを聴いたときに、そういう聴き心地になるのかなーと勝手ながらに思う次第。
あと、少し話から逸れるけど、水上えみりが紡ぐフレーズって、現実をそのまま描写するのではなく、ちょっぴりフレーズにファンタジー色がある。。
「シャーデンフロイデ」では本当の意味で主人公が冷蔵庫にいるわけじゃないだろうし、「luna」が描く情景も、終始絵本的な色合いがあるように感じる。
歌の向き合い方と、それぞれの歌が持つ想像的な余白の部分が、より歌と歌の<通じ合う部分>を作っているのかなーと、アルバムを通して聴く際にふと感じたことのひとつだったりする。
なきごとのサウンド的な魅力
なきごとって、歌詞とメロディーがすっと入ってくる感じが好きなんだけど、それにプラスして強いと思っているのが、イントロの耳馴染みの良さ。
なぜイントロがぐっと入ってくるのかといえば、岡田安未のギターフレーズが良いからだ。
イントロのメロディーが印象的に残り、そのメロディーが楽曲を時に感動的に、時に躍動感に響かせている印象。
なんなら、ギターサウンドがボーカル以上に<歌う>こともある。
「おわらせたくない」なんかだと、イントロでも存在感をみせたかと思えば、間奏のギターソロでもギターサウンドが雄弁に歌うし、アウトロでも余韻を残すようにギターサウンドが存在感を魅せている。
なきごとの歌って、1番と2番の構成だけのものもあったりするんだけど、そういう歌でも尺でいうとしっかりボリューミーなことが多い印象なんだけど、これはボーカルだけにスポットが当たる構成ではなく、積極的にギターサウンドも<歌う>構成になっているからだと思っている。
要は、ボーカルパートだけではなく、サウンド部分でも聴きどころが多いんだ、という話。
このサウンドの存在感が、どんな歌もなきごとらしさをより強く打ち出している印象である。
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アルバムの物語的面白さ
ところで、このアルバム、DISC1の最後に収録されている「あいかわらず」と、DISC2の最初に収録されている「癖」の世界観が、意図的に繋がるようになっていることに気づく。
「癖」はなきごとの屈指の代表曲であるが、「あいもかわらず」は意図的に「癖」で描いた物語の延長線上のある未来として、描いているように感じる。
自販機のコーヒーや洗濯物の匂いを印象的に描写してみせることで、その時間軸を鮮明に伝えてくる。
また、「癖」でも「あいもかわらず」でも、登場人物の”癖”を印象的に登場させる。
そして、「あいもかわらず」を聴いていくと、「癖」で<空き缶に煙草を捨てること>をあなたの癖と描いてみせたその背景には、<約束破ること>という癖があったことを実感する構成になっている。
ポイントなのは、「あいもかわらず」という歌は、「癖」の舞台からけっこう時間が経っているにもかかわらず、それをふたつの<あい>をテーマにして、変わるものもあったけれど、結局変わらないものがあることを伝える流れにしていることだ。
だから、この歌のタイトルは平仮名表記の「あいもかわらず」なのだろうと思うし、こういう変わらなさにこそ、人の泣き言が集約されているように思うから、こういうテーマはザ・なきごと的な歌なのかなーと思って、聴いていた自分。
ただ、ここから「あいもかわらず」はもう一歩掘り下げた展開をみせる。
変化することと変化しないことの揺らぎの中で生きていたこの歌の主人公は、歌のラストで、
ここで待つのも終わりにするんだ
という意思決定を行い、歌を締めくくるのである。
ここに自分は「おおおお」と勝手ながらに思った。
つまり、この歌は<変わること>を選んで、歌を締めくくったわけだ。
これにより、歌のメッセージが大きく変わる気がするから、なんだかドキドキしてしまったのである。
そこで、ふと自分はこのアルバムのタイトルを思い返す。
このアルバムのタイトルは「NAKIGOTO,」である。
人の泣き言に寄り添うような意味を込められた、なきごというバンドの最初のアルバムのタイトルは”なきごと”でも、”泣き言”でもなく、”NAKIGOTO”というアルファベット表記だった。
しかも、その”NAKIGOTO”という単語の末尾にカンマを付けている。
その意味について、考えてしまう自分がいたわけだ。
これはひとつの変化の意思表示であると自分は考えたんだけど、このアルバムは「私は私なりの言葉でしか愛してると伝えることができない」ことを伝えたうえで、その伝え方に次のフェーズを示すための作品だったのかなーなんてことを思うのである。
留まりつつも、少しずつ変化していくそんな意志が、カンマの中に現れていたのかなーんあてことを勝手ながらに思う自分がいるのである。
まとめに替えて
まあ、後半の自分のアルバムに対する考察はどうでもよくて。
「NAKIGOTO,」というアルバムは、それくらいの自分の色んな感受性をぐわぐわさせてくれるアルバムだったということだ。
正しいとか間違っているというより、前述したように色んな想像力を喚起させてくれたアルバムだった、ということが伝わればいいかなーなんて思いながら、この記事を書いている自分。
にしても改めて、水上えみりのソングライティングのセンスに、岡田安未の感性が融合したなきごとというバンドだからこそ、作り出すことができた聴き心地だったんだなーと思っている。
結論、「NAKIGOTO,」、アルバムとしてとても魅力的な作品だったという、そういう話。
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