BUMP OF CHICKENの『COSMONAUT』に感じる悲しさと切なさと希望

10年代にリリースされたBUMP OF CHICKENのアルバムなら『COSMONAUT』が好きである。

このアルバムが好きな理由は色々あるんだけど、歌詞もぐっとくるものが多いことに改めて気づいた。

なんというか、悲しみとか辛さみたいなものへの対峙が他のアルバムとはちょっと違う感じがするのだ。

本編

モーターサイクルとHAPPY

「モーターサイクル」はBUMP OF CHICKEN屈指の辛辣な歌詞だと思う。

辛辣というか、妙な空虚がにじんでいるというか。

生きる気力みたいなものが限りなくゼロに近い感じのテンションの言葉が躍り出る。

人の死に対してすら鈍感になってしまう主人公の映像が浮かんでくる。

無気力で気だるい様相が浮かんでくるわけだけど、個人的に印象に残ったフレーズがこれ。

わざわざ終わらせなくていい どうせ自動で最期は来るでしょう
その時を考えても意味が無い 借りてきた答えしか出てこない

文脈を考えれば、ここの「最期」とは死だと思うのだ。

そう考えた時、<最期をわざわざ終わらせる>というのは、自殺を示唆する言葉になる印象である。

そう考えると、ラストの言葉って比較的辛辣かつ無気力感があるけれど、その言葉の意味するところは<自殺を検討している人に対して、死ぬな>って言っているように聴こえるのだ。

死という事象にすら鈍感になった主人公に対して、「四の五の言わず飯食えよ」と言ってしまうこのフレーズって、一見冷たいようにみえて、すごい眼差しで背中を押しているように感じるのだ。

「HAPPY」もまた、そういう文脈で読み取れるフレーズがある。

終わらせる勇気があるなら 続きを選ぶ恐怖にも勝てる

どうせいつか終わる旅を 僕と一緒に歌おう

この歌の根底にあるのも、わざわざ今は死を選ばなくてもいい。

どうせいつか死はくるんだから、あえて今は「続き」を選ぼうという言葉に聴こえてくるわけだ。

そのときに<終わらせる勇気>と<続き選ぶ恐怖>の対比と、その言葉に込められた意味にゾクゾクさせられるのである。

こういう視座のエールって下手をすれば、うさんさ臭く感じる可能性がある。

<頑張れ>とか<生きてたらいいことがある>とか、そういう言葉って逆にしんどいものとして響くことだってある。

でも、BUMP OF CHICKENの歌がそういう類の歌と明らかに違うのは、<死>に対する距離感。

もっと言えば、<生きること>は辛いものであり、しんどいことでもあることも受け入れた上で、背中を押す眼差しがあるように感じるのだ。

単なる人生賛美とは違う優しさがあるというか。

一見すると、空気感や世界観が全然違うように見える「モーターサイクル」と「HAPPY」には、<死>に対して近い距離感から、それでもそっと優しいまなざしとエールを送る独特の温度感があるような気がするのだ。

命に対する眼差し

このアルバムには「R.I.P.」という楽曲が収録されている。

R.I.P.は追悼を意味する言葉であり、ニュアンスとしては「ご冥福をお祈りします」というものに近い。

まさしく人が亡くなったときに使われる言葉である。

もちろん、この歌は直接的な誰かが亡くなったというよりも、あるはずだったかもしれない未来だったり、ある種のifの世界に対してのR.I.P.ではあるんだけど、この頃の歌には常に「死への着想」があったからこそ、R.I.P.という言葉が出てきたのかなーなんて思って。

そういう意味でいうと、「モーターサイクル」や「HAPPY」にも通ずるものが投影されているというか。

死へのニオイみたいなものを楽曲からうっすらと感じる。

「宇宙飛行士への手紙」においても、文脈こそ違うものの「死」という言葉が歌詞に登場する。

でも、アルバムは単純に暗いところに潜って終わっていくわけじゃない。

決して強くはない主人公が<君>と出会ったことで生まれた音符と言葉をもって、少しずつ色んなことに<気付いて>いくのだ。

歌の中で出てくる音符と言葉が=アルバム曲として機能するかのように、曲ごとにアルバムの表情が変わっていくのだ。

「セントエルモの火」では、真っ暗な空には星が浮かんでいて、その星が綺麗なことに気付く。

「beautiful glider」では、羽根の無い主人公が、雨雲の中、夜明け前に滑空しようとする。

死にあれだけ接近していたアルバムの世界観は、いつしか不思議とうっすらとした希望に包まれていく。

BUMP OF CHICKENの楽曲って、そういう不思議な魅力が宿っている。

心の柔らかい部分に確実に突き刺しながらも、そっとそこに温かい毛布をかけるような感触があるのだ。

『COSMONAUT』は、そういうBUMP OF CHICKENらしい哲学みたいなものが色濃く滲んでいる気がして、なんだかぐっときてしまうのである。

まとめ

BUMP OF CHICKENらしいロマンと哲学が詰まった『COSMONAUT』。

もしかしたらBUMP OF CHICKENのアルバムの中では語れることが少ない作品かもしれないけれど、自分はこのアルバムがとても好きという、そういう話。

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