Official髭男dismの『Editorial』の感想
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まだ今年のベストアルバムとして、どのアルバムを選ぶのかは考え中である。
ベクトル違いで、自分の中でぐっときたアルバムがいくつもあるから、答えを出すのは大変だ。
しかし、おそらく一年間を見通す上で、すでにこの段階で、このアルバムは上位に入るだろうなーと思うアルバムもいくつかあって。
Official髭男dismの『Editorial』も、そういうアルバムのひとつである。
なんせめっちゃこのアルバムをリピートしている自分がいるし、このアルバムにぐっときている自分がいるからだ。
この記事では『Editorial』のどういう部分にぐっときているのか、ということを言葉にしていきたい。
今のOfficial髭男dismだからこそのアルバム
自分がアルバムをアルバムとして「良い」と思う場合、そのアルバムが単なる良曲を揃えた楽曲のカタマリではなく、アルバムとしての作品性の強度を感じることが前提となる。
もちろん、作っている側からすれば、様々な試行錯誤を行い、アルバムの中に色んなアイデアや想いを詰め込んでいるのは間違いないと思うんだけど、それを自分が作品からひしひしと感じるかどうか、ということが重要になってくる。
で。
『Editorial』って、楽曲の並びだけみると2020~2021年のOfficial髭男dismのヒット・ソングを散りばめて構成された、ある種のベストアルバムのような見え方をするのかなーと思う。
人によっては。
だって、相当数のヒット・ソングがアルバムの中に収録されているから。
「I LOVE…」「HELLO」「Cry Baby」「パラボラ」「Laughter」「Universe」・・・。
確かにこれだけのヒット・ソングがひとつのアルバムに収録されると、ある種のベストアルバムのような輝きを放つことにもなる。
でも、新曲に対して既出曲が多いからアルバムとしての作品性が弱まるということは、まったくない。
むしろ、それぞれの作品に散りばめられていた作品がアルバムとして再構築されることで、既出曲すらまったく違った聴こえ方をして、アルバム全体の中で然るべき輝き方をする、ということもたびたびあるものだ。
近年でいえば、BUMP OF CHICKENの『aurora arc』なんかがそういうアルバムの代表だと思っている。
話が少しずれたが、Official髭男dismの『Editorial』は、たしかに既出曲の破壊力も凄まじいんだけど、この並びの中で収まっていくことで、別の輝きを作り出していくのだ。
何より、「Editorial」から始まり、「Lost In My Room」で終わるアルバムとしての流れ・メッセージ性がどこまでも秀逸なのである。
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「Editorial」の話
Official髭男dismは良くも悪くもたくさんの人に音楽を聴かれるようになったバンドである。
ほとんど音楽を聴かない人との会話で「好きなバンドって誰なの・・・?」と訊かれた場合、「Official髭男dismとかかな・・・」というと、とりあえず「なるほど」みたない空気になって、外すことがない。
自分は20年くらい、あんまり音楽好きではない人にこの質問をされた場合、「スピッツ」といって乗り越えてきたんだけど、自分が好きで且つ、ほとんどの人と名前が共有できるという意味で、Official髭男dismというバンドが登場したのだと気づき、感慨深くなったものだった。
まあそれは置いといて、よりたくさんの人が音楽を聴くバンドになると、ある種のフォーマットに曲を落とし込むのが常であり、(その認識が正しいかどうかは別にして)このバンドってこういう感じだよな・・・という話の中に組み込まれていく。
んだけど、Official髭男dismって、いつもそういう<このバンドの普通>からは鮮やかなまでに脱却していく。
セカンド・アルバムとなる『Traveler』と、サード・アルバムとなる『Editorial』の中での変化としてもそうだし、『Editorial』のアルバムの最初に「Editorial」を配置することで提示する<今>のOfficial髭男dismとしての変化も鮮やかなのである。
<自分たちは、自分たちが良いと思うものを妥協せずに作り上げていく>
・・・・・・そんな美学がひしひしと伝わるような言葉選びとサウンドメイク。
いや、ほんと冒頭の「Editorial」が見事なのである。
この歌はバンドとしてのサウンドは排されて、声とデジタルクワイアだけで楽曲を成立していく。
しかも、『Editorial』というアルバムの世界に今から入り込むという導入の上で、どこまでも芯を食うような歌詞が印象深く響くわけである。
伝えたい だけど語れない
ずっとこの気持ちの正体を
僕は探してる
だけどよそ見ばっかしている
そっちの方が幸せだから
朝日が来るように至極当然なことにも
溢れている 隠れている
思いを形にしたんだ
あなたにも受け取ってほしくて
明確に「僕」=Official髭男dis(あるいはOfficial髭男dismの音楽、「あなた」=今からこのアルバムを聴くリスナー、として置き換えて捉えることができる言葉の集積。
今までのOfficial髭男dismの音楽とはまったく形と構成で、今の<本音>をそこに忍ばせるのだ。
この時点で、『Editorial』に宿るOfficial髭男dismのメッセージ性と、作品としてのこだわりを垣間見ることができて、ゾクゾクさせられるわけである。
そのバトンを繋ぐ「アポトーシス」
だからこそ、その後にひかえる「アポトーシス」の音楽が、どこまでもダイレクトに響きわたるのである。
悲しみみたいなものとしっかり対峙したうえで、だからこそ見えてくる希望を選び取る秀逸な言葉選び。
綺麗事を歌にするというよりは、藤原の本音と向き合ったうえで構築される言葉の数々にすっと引き込まれるのである。
もっと言えば、この歌は言葉だけがインパクトあるのではなく、メロディー構成やサウンドアプローチも他の楽曲にはないもので構築されている。
人生の壮大さだったり、一縄筋ではいかない感じを音楽そのものでも表現しているからこそ、「アポトーシス」の風呂敷広い感じの言葉ですっと胸に落ちてくるのである。
関連記事:Official髭男dismの「アポトーシス」の歌詞から感じる圧倒的なドキュメンタリー性
『Editorial』全体の作品について
以降、今作はひとつも同じタイプの楽曲が登場することなく、アルバムが展開されていく。
毎回カラーが違うので、人によっては「濃すぎる・・・」という感想もありえるのかもしれないが、いわゆる<捨て曲>なく、圧倒的な強度をもった楽曲が異なる魅了を提示し続けるのだから、その聴き心地は凄まじい。
『Editorial』は、藤原の作家性の幅広さを体感するアルバムでもある。
冒頭の「Editorial」はそういう意志表示の作品のように思うし、アルバムを聴けば聴くほどにそこで示された言葉が腑に落ちるような仕様になっている気がする。
「アポトーシス」のように奥深い価値観の中で言葉を紡ぐ歌もあれば。
「ペンディング・マシーン」のような社会性のあるメッセージを痛烈に歌った歌もある。
あるいは、「Lost In My Room」のように内面をある種のストレートに言葉にする歌もあって。
かつ、どの曲も然るべきサウンド、楽曲構成の中で言葉が落とし込まれていることに気づき、ゾクッとさせられるのである。
しかし、『Editorial』は藤原の作家性だけにスポットが当たった作品というわけではなく、あくまでもOfficial髭男dismのバンド全体が色濃く投影されている作品であるからこそ、より広がりを感じるし、ゾクゾクさせられるのである。
各メンバーが手掛けた楽曲も素晴らしいのだ。
ドラムの松浦が藤原とコライトした「フィラメント」、ベースの楢﨑が作詞作曲を手掛けた「みどりの雨避け」、ギターの小笹が作詞作曲を手掛けた「Bedroom Talk」を聴けば、そのことを実感すると思う。
ほんと、良い意味で藤原の楽曲とはまったく違うカラーがそこにあって、それぞれのらしさが見え隠れするのが良い。
特に「みどりの雨避け」は色んな意味で楢﨑らしい楽曲でニヤリとさせられる。
軽妙なサウンドと、景色が見えるような解像度の高い言葉たち。
それぞれの観点と美学で構築されるからこその世界がそこにある。
まとめ
カラー違いの楽曲が揃っているから、アルバムのハイライトになる場所は、人によって違うと思う。
しかし、既出曲や新曲関係なしで自分が好きな歌を選ぶなら、自分の中では「アポトーシス」「Cry Baby」、そして「Laughter」の名前を挙げたい。
勝手なイメージだけど、藤原の歌ってとにかくたくさん迷いながらも、何とかそれを手にする・・・みたいな苦悩の痕跡をダイレクトに感じる歌が多くて、その苦悩の数と濃さにぐっとくることが多いのだ。
「Laughter」の言葉は、迷いの中でそれでもちゃんと何かにケリをつける清々しさがあって、メッセージ性が強い歌が並ぶ中でも、(個人的に)随一の輝きを放っている歌のように思うわけだ。
『Editorial』は、色んな観点で触れてみてもワクワクしか満ち溢れているアルバムだと思う。
ぱっと一周だけ聴いてみて「あ、こんな感じね」で言い切れるアルバムではないと思う。
なので、自分は長い期間を使ってじっくりと味わいたいなーと思う。
この記事は、そんな中間地点の、ひとつの感想として読んでもらえたら幸いである。
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