キャリア的に中堅と呼べるバンドって、それなりにアルバムをリリースしているわけで、ある程度バンドの色というか、底というか、そういうものが見えてきたりする。
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だから、好きなバンドであれば、新譜が出たら何よりも先に聴き込むし、そうじゃないバンドはどんどんと聴くことそのものを後回しにしてしまって、場合によって時間がなくて、放置してしまうこともある。
BIGMAMAは自分のなかで、わりと後者になりかけていた。
そんななかでリリースされた「−11℃」という今回のアルバム。
正直、聴くまではそこまで期待してなかった。
けれど、聴いてみて一発で感じた。
今回のアルバム、めちゃくちゃ良いやん、と。
なぜ、今回のアルバムを良いと感じたのか?
この記事では、そのことを書いてみたいと思う。
1.サウンドがカッコいい
BIGMAMAの良さって、ロックなサウンドの中に弦楽器が入っているところとか、弦楽器があるからこそ普通のロックバンドにはないアプローチ(クラシック的なアプローチをしたアルバムも過去にはあった)をしたりするところだと思う。
メンバーの演奏技術もあり、色んなアプローチができるため、EDMっぽくしたりすることもあれば、様々なジャンルを取り入れた作品を作ることもできる。
けれど、色々できるということは、煩雑になってしまう恐れもあるわけだ。
特にメジャーデビューしたということは、アルバム制作に対するアプローチが変わったり、もっと間口を広げた音構成を求められたりすることを意味するわけで、下手をすれば、バンドのアイデンティティが崩壊する恐れもあったわけだ。
けれど、BIGMAMAは違った。
今回のアルバムは、「音の方向性」をなるべくシンプルにして、一貫性を持たせているように感じた。
そして、その方向性を言葉にするならば、ロック色がしっかり出ている。そんなふうに言えると思うのだ。
サウンドが攻撃的になっている。
余計な音は入れない。
なるべくシンプルにしているからメロディの良さが際立つ。
かといって、アルバム全体が単調になってるわけではなくて、曲に対して最適なアプローチをしているから、アルバムを通して聴いたときの爽快感がすごい。
そんなアルバムになっているのだ。
ところで、ロック色が出てるってよくアルバム評で言われる言葉だが、これってどういうことだろうか?
もちろん、色んなニュアンスを込めた言葉だとは思うが、個人的にはギターがどういう役割をもつか?ギターと他の楽器がどう関わるのか?というところがポイントだと思っている。
バンド音楽における「ポップス」という評価って、要はギターの存在感よりも、ボーカルが歌うメロディーの方が際立っている、という話だと思うのだ。
今作のBIGMAMAのアルバムは、ギターがきちんと存在感(もちろんそれ以外の楽器も)を出している。
単純にメロディーの良さをお膳立てするための道具としてのギターではなく、ギターの音が良い意味でメロディー以上に存在感を示しているのだ。
先ほどの話にも通ずるが、メジャーデビューしたてのバンドって、一枚のアルバムにあんなパターンの曲も入れよう、こんなパターンの曲も入れよう、となってしまいがちである。
1〜3曲目までは疾走感のあるロックチューンを並べてみるけれど、4曲目で少しミドルテンポの歌がきて、5曲目くらいからは今まで入れなかった音を積極的に取り入れて、無理に変化をつけようとしたり、全然そのアルバムのカラーとは違うタイプの楽曲を放り込んだりする。
聴き手を飽きさせないようにするのが優先事項としてあって、マーケティング的になるというか、あまりにもリスナー視点に立ちすぎるというか、そんなアルバムになってしまいがちである。
それはそれでカラフルになっていてアルバムとしては面白いんだけど、悪くいえば、アルバム作品としての一貫性がなくなってしまいがちで。
そんななか、今作のBIGMAMAはサウンドの一貫性を重視していた。
多少偏ることになるとしても、アルバム全体のサウンドの一貫性を重視したわけだ。
で、そこの一貫性のあり方が「ロック色強め」という言葉で表現できるものであり、結果、アルバム全体がすごくカッコよく仕上がっているわけだ。
確かに「Funbalance」みたいに、ギターの存在感よりもメロディーの方が主張強めの、言うなれば、ポップ色が強い歌も入ってはいる。
また「Jelly Miens」や「Miffy’s Mouth」のように、楽器の音が鳴っていない無音の状態を効果的に使っている歌も収録されている。
が、それも「ロック色が強いアルバム」という一貫性がある中での揺さぶりというか、サウンドの軸足を固めた上での揺さぶりという感覚があるので、アルバムを通して聴いた時の気持ちよさ、爽快感、かっこよさがしっかり伝わるのだ。
むしろ、こういう楽曲を最適な位置に配置するからこそ、アルバムとしてのマスターピース具合が高くなっている。
今作はバンドのサウンドのかっこよさが際立っており、バンドとしてのBIGMAMAの良さが全面に出ているように感じるわけだ。
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2.コンセプトがあってスルっと聴ける
全ての楽曲が身体のパーツをモチーフにして制作したという今作。
まあ、個人的にそのコンセプト自体にそこまでグッときてないんだけど、良い曲をたくさん作ったからとりあえずアルバムを作りましたというわけではなく、頭からコンセプトを決めて制作したというのは、すごく効果的にキマっているなーと感じた。
身体のパーツをモチーフにして作品を作るということもそうだろうが、前述したサウンドに対する一貫性の固め方も大きいと思う。
自分たちがこの作品でどういうアプローチをしたいのか、どういう刺し方をしたいのか、という見通しがすごくしやすいアルバムだから、良い意味でさらっと聴けるアルバムになっている。
ジャンルがごちゃ混ぜだったり、煩雑になっているアルバムって、通しで聴くと疲れるじゃないですか?
けど、このアルバムはそれがない。
世にあるアルバムの中には、アルバム単位ではなくて、好きな曲を掻い摘んでしか聴かないアルバムもたくさんあるわけだけど、今作のBIGMAMAのアルバムは頭から通しで聴きたくなるアルバムになっている。
作品ひとつひとつがガツンと記憶に残るというよりも、−11℃っていうアルバム、すごく良いわ!っていう、アルバム単位としての記憶が残るのだ。
今年楽曲がリリースされたロックバンドのアルバムで、個人的に良いと思える作品って、音としての一貫性がある程度バチっとハマっていて、その中でどういう風に揺さぶりをかけていくか?というものが見える作品が多い。
BIGMAMAのアルバムも、そういう類のアルバムなのだ。
あと、もうひとつ。
自分はループ再生でアルバムを聴くようにしており、最後まで再生されると、自動で一曲目に戻るようにして聴いている。
個人的にグッとくるのは、アルバムのラストが終わって、また頭に戻るときだ。
この終わりと始まりが繋がる瞬間に、なんだかぞくっとした気持ちになる作品は、例外なく良いアルバムという印象を受けるのだ。
「−11℃」というアルバムも、そういう類のアルバムだ。
ラストの「High Heels,High Life」がバラードのしっとりめの楽曲で、クールかつ多幸感のある楽曲になっている。
そして、それと対比した時、一曲目にある「YESMAN」の壮大感、バンドとしての器の大きさ、新しい時代の幕開け感みたいなものが、すごく効果的にハマっているように感じるのだ。
ってか単純に「YESMAN」がすごくかっこいい曲になっていて。
多分これを聴くだけでも、ああこのアルバム、この後もすごい曲が並んでいるんだろうなっていうワクワクを予感させる、そんな曲になっている。
ドラムのスケール感、すげええ!!!みたいな感じ。
いや、ほんと「YESMAN」のサウンドアプローチって、今までのBIGMAMAにはあまりなかったような感じがしていて、だからこそ、最近はBIGMAMAから離れてるわ・・・って人でも、胸を刺さって「やべ・・・かっこいいやん」って気持ちになる。
で、次の曲、もっと先の曲を聴きたくなる。そんな流れになっている。
シングルの既出曲の溶け込み方もすごく良い。
「Strawberry Feels」は、アルバムの中心になるような輝きを放っている。
全体のバランスがとても良くて、それはコンセプトがしっかり決まっているからこそなせることだと思う。
だから今回のアルバム、すごく良いのだ。
3.金井のウンチクが良い感じにスパイスになってる
金井曰く、毎回、アルバムごとに影響を受けている作品があるらしい。
今回の場合、それはジョージ・オーウェルというSF作家の「1984年」という小説作品だったらしい。
この作品にインスパイアされる形で、身体をモチーフにした作品を作ろうと決めたらしい。
その一方で、アルバムのタイトルを温度(−11℃)にしようと決めたのは、アルバム制作の最後の最後だそうで。
これも金井が読んでいた別の小説と繋がる話だそうで。
曰く、最近読んだ小説に、ピカソは自分の画のタイトルを決めたことがない、ピカソの作品のタイトルは、いつも画商が決めていた、ということが書いてあったそうだ。
これを読んで、タイトルってそういうことだと思ったそうで。
曰く、本人は描きたいものを描いていて、最終的にあとで名前がつく。作りたいものがあって、それがまとまって、これが何と言ってるのか?というのがあとで決まってくる。
だから、タイトルは記号として、パッと見て人が見つけやすいものであってほしいと思うし、それだけではなく、BIGMAMAを好きな人と僕らとを繋ぐワードだとも思っていて、そういうふうに楽しんでいただければ。
そんなことを語っていた。
話の内容自体は置いておくとして、ポイントなのは、アルバムのポイントポイントとなる要素に、それぞれ金井のウンチクが反映されているということだ。
これはすごく重要なことだと思う。
BIGMAMAが独特の味わいになるのは、金井のウンチクが担っている部分は大きいと思うから。
今作もそれが見事に冴え渡っているため、ただのロックバンドのロックなアルバムではない、もう一歩踏み込んだ奥深さが宿っているように感じる。
まとめ
まとめてしまうと、音も世界観もコンセプトがしっかりと決まっているため、聴きやすいし魅力が伝わりやすくて、かっこいいし、心にぐさっと刺さる。
だから、このアルバム、すごく良いんだよ、って話になると思うのだ。
一曲一曲を細かく見ていけば、もっと面白い仕掛けや工夫がなされていることがわかるんだろうが、ひとまずは余計な身構えはしないで、頭の「YESMAN」を聴いてほしい。
少し聴いただけで、「あ、このアルバム、かっこいいやつだわ」って感じると思うから。
それだけは間違いないです。
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