MAZZEL「Only You」楽曲レビュー
2025年11月3日にデジタル配信されたMAZZELの4thシングル「Only You」。MAZZELが放つ切なさと甘さが同居したミディアムR&Bナンバーといった印象で、グループの新章の幕開けを感じさせる雰囲気なのが良い。
ということで、リリースからちょっと時間が経ってしまったが、自分なりのノリでこの楽曲の魅力を言葉にしてみたいと思う。
メロディー軸の話
「Only You」の最大の魅力は、メロディーの落差設計にあるよなーと思う。鍵盤の伴奏で始まる柔らかな感じ。肌寒さを感じる季節にぴったりの装いの中、Aメロは抑えた息遣いで静かに始まる。そのうえで、メンバーのボーカルごとの抑揚があって、淡々としているのにメリハリがあるという特別な心地を与えてくれるのだ。Bメロで少しずつ感情を高めていく流れ、秀逸にサビに入っていくわけだが、このぱっと花開くときの快楽がたまらない。あえて言えば飛行機が地上から飛び立つ瞬間のような「あ、ひとつモードが変わったぞ」の感じ。
「この世界の誰よりも 君を愛してる」というまっすぐすぎる強烈なストレート(フレーズ)で歌を届けているからこそ、こういう破壊力がえげつないことになる。どこまでもJ-POPとして洗練されていて、メロディーが研ぎすまれているからこその心地。
あと、この歌って歌詞としては別に”景色”を歌っているフレーズは少ないけれど、不思議と景色が見えてくるのはメロディーの甘さと柔らかさが際立っているからこそのように思う。
サウンド軸の話
90年代後半〜2000年代初頭のR&B的なアプローチがベースにあって、それを現代的な装いにアップデートしたようなスタイリッシュさがある。ミディアムテンポの王道ソング的な出で立ちもあるんだけど、単にベタなだけではない瑞々しさもあるというか。ベースの立ち位置だったり、打楽器の音色とか響きだったり、鳴っている音のひとつひとつに妥協がないというか、こだわりがあるからこその心地があるのだ。
それこそ、音が景色を描いているからこそ、フレーズにはないような景色(秋の雰囲気だったり、冬をなんとなく予感させる温度感だったり)を感じさせてくるのかなと思う。冒頭はしっとりとしているけれど、意外とサビのビートは軽快で、歌の柔らかさに対して溌剌とした雰囲気を与えているのも特徴だと思う。とはいえ、冒頭とアウトロは余計な音を排していたり、ドラムの控えめの存在感になっていたりと、細かな巧みも光るし、何よりボーカルのスポットの当て方が素晴らしいよなーと思う。
ボーカル軸の話
MAZZELのボーカルワークは、メンバー全員が明確な役割を持っているのが強みだが、「Only You」ではその個性の繋ぎ方が絶妙。
甘く伸びやかな高音を響かせるメンバーもいれば、ささやくように優しく歌い上げるメンバーもいて。感情的なファルセットで歌の世界にグイグイ引き込むメンバーもいれば、力強いミドルボイスを発揮させるメンバーもいる。あえて言えば、ボーカルのグラデーションが素晴らしいのだ。Aメロからサビへと変化するグラデーションも素晴らしいし、1番と2番と3番で変化する温度感のグラデーションも素晴らしいし。
誰一人として必要以上に目立たないけれど、でも、きちんと主役にもなっている感触。ここのバランスの取り方はMAZZELだからこそではないかと思うし、「Only You」という楽曲によって、よりボーカルの素晴らしさが際立った印象だ。
歌詞軸の話
SKY-HIが手がける歌詞はシンプルに見えて、実は非常に巧緻だ。「Only You」という言葉の使い方だって秀逸だ。というか、まっすぐに取られる言葉だし、言葉通りに捉えられる歌なんだけど、色んな角度から想像を膨らませることもできる余白があるというか。だからこそ、歌を聴きながら「絵」を浮かべることができる。
ストレートな愛の表現って、J-POPにおけるベタすぎる故に、チープだったり陳腐になってしまう可能性だってある。でも、MAZZELの「Only You」は普遍的なものを歌うからこその特別感までを演出しているし、それはMAZZELがボーカルのバトンを紡ぐからこその結果だと思うのだ。
まとめに替えて
なんてことを思ったとき、「Only You」って、2025年のJ-POPシーンにおいても特別な輝きを放つ歌ではないかなーと感じた。メロディーの美しさ、サウンドの洗練さ、ボーカルの表現力、歌詞の奥行き。それらの絡み合い方が秀逸だから。
MAZZELのこれまでの楽曲が「カッコよさ」と感じるものが多かったからこそ、「美しさ」だったり「柔らかさ」だったり、新しい部分にスポットを当てた楽曲だからこそ感じた音楽的な成熟さもあるわけで。
なんにしても、改めて、MAZZELって面白いグループだと感じた、そんな話。


