いや、これ、きゃりーぱみゅぱみゅのニューアルバム「じゃぱみゅ」を聴いて感じた勝手なる所感なんですけどね。
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「Future Pop」と言えば、Perfumeが2018年にリリースしたアルバムのタイトルである。
Perfumeときゃりーぱみゅぱみゅと言えば、両者ともに中田ヤスタカがプロデュースをしていることは周知だと思うし、中田ヤスタカのキャリアを考えるうえでも、Perfumeときゃりーぱみゅぱみゅの2組のアーティストは重要なものになると思う。
そんな中田ヤスタカプロデュースの2組のアーティストが同じ年、わりと近いタイミングで、それぞれオリジナルアルバムをリリースしたわけだ。
で、聴いた感想としては、両作品ともそれぞれのキャリアにおいて、新たなチャレンジをしているなーと。
節目のキャリアを迎えるうえで(Perfumeなんてメンバーが30代になるわけで)次のステップに進む何かを匂わせる作品だなーと感じた。
だってさ、Perfumeなんて「未来のポップ」なんていうタイトルのアルバムを歌っているわけですよ?考えたら、すごく挑戦的な話。
というわけで、まずはPerfumeのアルバムの話からしてみたいと思う。
Perfumeの「Future Pop」
今回のPerfumeのアルバムの特徴として、EDMのセオリーを取り入れた歌が数多く散見される所がある。
どういうことか?
まず、セオリーとしてのEDMの大きな特徴としては、リード→ビルドアップ→ドロップという流れがある。
ビルドアップといえば、ダッダッダッダッダダダダダダダダって感じに、少しずつ細かくビートを打つようになっていって、最終的に音を連打させまくって盛り上げていく、アレのこと。
ダダダダダダダになる前がリード、ダダダダダダダ後がドロップという認識でいてもらえたら基本、間違いはない。
今回のアルバムに収録されている「If you wanna」は、そんなビルドアップを取り入れた楽曲になっているんだけど、ポイントはビルドアップ後のドロップの部分にある。
基本的にJ-POP(あるいはJ-ROCK)はサビで盛り上がってなんぼというところがあるので、ビルドアップ的な形で楽曲を盛り上げるならば、そのままビルドアップ後は音数を重ねて、アゲアゲな展開にしがち。
けれど、「If you wanna」はそういう展開には持っていかない。
聴いてもらったらわかると思う。
サビは基本盛り上げてなんぼ!という日本の歌の鉄則を破れば冷たい反応をされがちなのは、Suchmosの「VOLT-AGE」然り、色んな場面で言われがちなことだし、少なくとも、タイアップソングではなかなかにできない芸当である。
けれど、「If you wanna」はそれを成し遂げている。
実際、ここ数年の海外EDMの「ベタ」は、ビルドアップの部分で先に盛り上がりきってしまい、その後のドロップ部分は逆に音数を減らし、落ち着かせるパターンが多いのだ。(もちろん、ここのドロップ部分もお客さんに飽きさせないように、落ち着かせつつも色々と仕掛けを投じるわけだが)
「If you wanna」は、そんな一般的なトレンドである、ドドドド後は落ち着かせる、という構造を取っている。
ここがすごくポイントであり、「おっ!」って思うポイントなわけだ。
これは、サビ史上主義のJ-POPに対する一つの挑戦状であり、海外のトレンドをどう日本のポップスに落とし込むのか?という中田ヤスタカだからこそできる、意欲作なアプローチだと感じる。
「無限未来」も同じような形で展開された曲になっており、J-POPでこのフォーマットを綺麗な形で成し遂げるのは、流石だなーと思う。
アルバムタイトルになっている「Future Pop」という楽曲でも、その手法を見ることができる。
ちなみに「Future Pop」の醍醐味は、ビルドアップ後の、ドラムンベース感(高速で複雑なリズムと低いベース音を特徴としたサウンドのこと)だと個人的には思っているので、そこのワクワク感はぜひ聴いてみてほしい。
ただ、アルバムを通して聴くと、アルバムの後半はエッジなサウンドがナリを潜めてしまい「これ、ほんとにFutureなポップなのかな〜」と思ってしまう作品がわりと出てきてしまう。
少なくとも、個人的にはあんまりワクワクしなくなっちゃうのだ。いや、もちろん、良い歌ではあるんだけどね。
ちなみに、このアルバムの曲の多くは、3分台で終わるので、アルバム没入体験としても「すごく今風」だったりして、そこも良かったりする。Future感がすごくあるのだ。(海外のトレンドとしては、ストリーミングで再生させることを意識しがちなので、なるべく曲を短くする傾向にあるのだ)
短いから良いというものではないんだけれど、そういう部分も含めて、きちんとトレンドに落とし込んでいる感じが、個人的には好感が持てたりする。
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きゃりーぱみゅぱみゅの「じゃぱみゅ 」
Perfumeの新作はすごく良いけれど、本当に「Future Pop」なのだろうか?そう捉えたときに、きゃりーの新作の良さが見えてくる気がする。
きゃりーの新譜は、エレクトロなサウンドなのに、和を感じさせてくるところが、最大の魅力だと感じる。
「音ノ国」や「演歌ナトリウム」なんかは、そういうテイストが特に見え隠れする歌になっている。
また、きゃりーの楽曲群はAメロ→Bメロ→サビと展開していくなかで、少しBメロのテンポ感を変える歌はいくつかあるんだけど、基本的には、一定のテンポ感で進んでいく。
その代わりに、サビの音圧を上げたり音数を増やしたりすることで「ここからがサビですよ」というのが、わかる作りになっている。
これは自分の偏見ではあるんだけど、Perfumeの音楽は、わりと海外の流行りにもうるさいタイプの音楽通を黙らせるような音の組み方をしているが、きゃりーはもう少しマイルドというか、子どもでも口ずさめるくらいの「ポップさ」を志向しつつも、その中でどこまで尖らせられるか?みたいな試みをしている気がする。
だから、リズムの部分はなるべくシンプルで、口ずさめるような歌に仕上げているのかなーと。
けれど、鳴らす音はどこまでもこだわるみたいな。
そこでそんな尺を取って、ボーカルレスにしちゃう?みたいな不思議な手触りがあったりするし。ほんと、リズム以外の部分で、今作は色んな実験をしているように感じる。
そもそも、エレクトロなサウンドを「ポップ」と形容できるものに落とし込んでいるだけでもエグい話なのに、今作はそこからさらに踏み込んで、和の香りすらも感じさせてしまうわけだ。(まあ、前からも香ってはいたんだけれど、今回はより強く香るわけだ)
しかも、それはきゃりー以外の誰かがそこに入っても成立しそうなんだけれど、やっぱりきゃりーじゃないと成立しない絶妙さがあって、そういうバランス感覚みたいなものも含め、ポップさがすごく宿っているなーと。
だからこそ、きゃりーの今作こそが真の意味で「Future」と言えるポップなのではないか?
そんなこと勝手なことを思った次第。
まあ、Perfumeもきゃりーもやってることがクールすぎるのに、それをポップにしてしまっていることが、何よりも凄いんですけどね。
追記
だって、今年日本で特にバズった歌の一つがDA PUMPの「U.S.A.」なわけでしょ?
これなんて、究極的な90年代のリバイバル作品で、「Future」とは対をなす作品なわけじゃん?
そもそも、この歌は1992年にリリースされた「スーパー・ユーロビート」シリーズに収録されていた楽曲で、それに日本語歌詞を付けたもので。
ユーロビートといえば、小室哲哉とかつんくなんかが扱ってきたもので、まさしく90年代のダンス・ミュージックの象徴なわけだ。
海外の流行りから長い年月をかけて、ようやく現代ダンスミュージックの雄とも呼べるEDMと、構造的な意味で接近したPerfumeは、新作に「Future」という冠をつけた。
一方、今年の日本音楽シーン、平成最後にもっとも売れたダンス・ミュージックは、THE 90年代の産物というのは、何とも皮肉というか何というか。
ダンスシーンに限らず、日本の音楽シーンは良くも悪くも90年代におんぶに抱っこになっているフシがあって、メロコアは未だにハイスタの想像力が強い影響力を放っているし、ミスチルなんかも、コバタケ的サウンド=90年代のイメージとの争いの中で、今回のニューアルバムがリリースされたみたいなところがあるし。
そう考えていくと、日本のFutureな音楽はどうなるんだろうなーという期待と不安がある。
トレンドでいえば、米津玄師とか星野源とか三浦大知が、その最前線感はあるけども。
まあ、何でもかんでも新しくなれば良いというものでもないけれど、未だに90年代の想像力が圧倒的に勢力を放っているのは単純につまらないので、じゃあその先、平成の次のポップスはどんな音楽を奏でるんだろうなーなんてことを思ったりしたのでした。そういうオチ。
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