
スピッツの音楽はいつまでも経っても瑞々しい。そんなことを改めて感じたのが、「灯を護る」を聴いたからだ。
スピッツだからこその歌詞。「可愛い」の存在感
TVアニメ『SPY×FAMILY』Season 3 オープニング主題歌)であり、バンドとしては47枚目のシングル曲でもあるこの歌。
今やスピッツといえば日本を代表するレジェンドバンドだし、出演するイベントで最年長であるケースも増えてきたような存在。
「チェリー」「ロビンソン」「空も飛べるはず」「魔法のコトバ」「優しいあの子」「美しい鰭」などヒットソングは多数で、音楽は能動的に聴かないというライトなユーザーでも、スピッツの楽曲のは知っている人は多い。界隈問わず、様々な”プロ”がスピッツを敬愛しており、スピッツに影響を受けたミュージシャンも多数いる。バンドシーンのレジェントであるだけでなく、スピッツそのものが日本のひとつの文化と言っても差し支えがないほどに、与えた影響は計り知れない。
そんなスピッツの最新作が「灯を護る」である。
それだけのキャリアを重ねているのであれば、普通リリースされる新曲は良くも悪くも円熟みを発揮することが多い。スピッツと同年代のレジェントバンドの新作をみても、やはりバンドとしての円熟味が良い形で際立っていることが多い。でも、スピッツの新作って、毎度のことながら、どこまでも瑞々しいのだ。「灯を護る」を聴いて、改めてそう感じたのだった。あえて言えば、どこまでも「爽やか」という言葉が似合う。サウンドの趣も、ボーカルの突き抜けた感にも、メロディーの人懐っこさも、どこを切り取ってもそういう朗らかさを感じさせてくれるのだ。
歌詞に目をやっても、そういう瑞々しさは突き抜けている。
なんせ、「灯」に対する形容詞として”可愛い”をもってくるのだから。しかも、歌の展開としても、ボーカルの響きとしても、ここは確かに「可愛い」がぴったりだなーと感じるトーンなのである。「灯」に可愛いという形容詞をもってくるのがそもそも独特であるはずだし、可愛いというワードも文脈によっては浮く可能性が全然ある。でも、スピッツの音楽ってほとばしる瑞々しさを発揮しており、しかも単に瑞々しいだけじゃなくて、安心して変化球を投げてくる心地よさがあるから、こういう隠し味がさりげない輝きを解き放つのである。
フレーズひとつをこういう輝かせ方をするのは、スピッツならでの手腕だし、草野正宗のソングライティングのセンスだよなーと感じる。
丸いのに優しいトゲがある感じ
スピッツの歌って優しくて、柔らかくて、耳馴染みが良い。
ハイトーンでも耳がキーンとなるハイトーンボイス。美しいメロディーのお手本のような、余計なものが一切ない構成力。メロとサビの切り分け方や歌の膨らませ方まで、とにかく絵画のように洗練されている。確かな技術量の中で、こういう美的センスを発揮するからこそ、スピッツの音楽はどこまでも胸に響くのだ。そういう前提があるうえで、スピッツの歌ってただポップでキャッチーなだけではない。
ロックバンドとして、しっかりとサウンドに厚みがあって、パンチ力があるのだ。それこそ、まるいのに、優しいトゲを忍ばせているような出で立ち。この骨太でしっかりかっこいいサウンドを鳴らすあたりに、スピッツの真髄が宿っているように感じる。
「灯を護る」においても、ホーンセクションが際立つアレンジになっているので、アニメタイアップの楽曲ということもあってポップな色合いが強い。亀田誠治の音楽センスもいかんなく発揮しながら、スピッツの持つ魅力を存分に引き出すような足し算になっている印象。でも、冒頭のどっしりとしたドラムアプローチはもちろん、そこから繊細に展開するギターのアルペジオや細かい音数で躍動的にビートを刻むベースまで、華やかなサウンドの中で、ゴリゴリなアンサンブルを響かせる。
サブスクリプションのような音源なら、それでも収音の兼ね合いでマイルドに響くけれど、おそらくこれがライブになって、ダイレクトにそのアンサンブルを耳で聴くことになると、音源から想像つかないような破壊力でバンドの音を生み出していることが想像される。
そう。
スピッツって、「可愛い」の路線でも魅力的になるアプローチをひとつの楽曲って丁寧に注ぎ込むのに、その裏側では「かっこいい」のベクトルで洗練されたいかつくて、エッジの効いたサウンドを響かせるのである。
「灯を護る」は、そういうスピッツだからこそのバランスを昇華しながら、タイアップソングとしても綺麗に着地させるスキのない歌になっている印象を受ける。独自の路線で、美とかっこいいも研ぎ澄ませてきたバンドだからこその高揚感がここにあるのだ。
切ないを体現した歌詞のチョイス
「灯を護る」はサウンド的にも歌詞のトーン的にも、多幸感のある空気をもっている楽曲であるが、歌詞を丁寧にみると、スピッツらしい切なさを丁寧にまぶしているのが印象的だ。歌の中での心理の動き方だったり、明るい部分と暗い部分の折り込み方が絶妙で、だからこそ
赦される
という言葉と
幸せの意味にたどり着きたいんだ
というフレーズが横並びになる収まりの良さにゾクゾクすることになるのだ。フレーズのひとつひとつをみると、そんなに特殊な言葉は出てこないけれど、そのフレーズとそのフレーズが同じパートの中でいるなんて凄い・・・!をたくさん目撃するのが「灯を護る」の凄いところ。
その真骨頂が「可愛い灯を護ろう」だと思う。
「可愛い」も「灯」も「護ろう」も、他のJ-POPで耳にするワードだ。
でも、この歌の流れで、この組み合わせの中で登場するなんて初めての体験で、しかも収まり良い歌の流れにきちんとなっていて、これしかない着地をしていて、凄い・・・になるのだ。サウンドもメロディーもボーカルも素晴らしいけれど、その中心で展開する歌詞もまた、独自の輝きを解き放っているという感覚。
まとめに替えて
結論。
やっぱりスピッツの音楽は凄い。
数年に一度浴びれるこの稲妻に当たるような感じ。
スピッツの音楽の偉大さに触れながら、「灯を護る」をリピートする夜が続く。