前説
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自分のブログでは、あんまり既に活動を止めたバンドをあまり取り上げないようにしている。
というよりも、どうせなら新しいバンドや新進気鋭な人たちにスポットを当てたいという思いが強い、という言い方の方が正しいかもしれない。
そんな理由もあって、今までまったく取り上げずにスルーしていたバンドのひとつがthe cabsだった。
でも、このままスルーし続けるにはあまりにも惜しいバンドだった。
だから、このバンドのことを紹介したい。そう思った。
まず、どんなバンドなのか知らない人は一曲だけでもいいから彼らの音楽を聴いてほしい。
イントロの時点でバリバリの個性を感じると思う。
10年ほど前の音楽なのに、ほとばしる新鮮さ。
いかにこのバンドが稀有な存在だったか実感できるのではないだろうか。
メンバーについて
the cabsなんて知らないよ、という若い子も多いかもしれないが、ボーカルの声を聴いたら聴き馴染みのある人も多いのではないだろうか。
そうなのだ。
KEYTALKのボーカルでもある首藤義勝が、the cabsのボーカルなのである。
今のKEYTALKしかしらない人からすれば、首藤がこんなバンドのボーカルもしていたなんて、と違和感を覚える人もいるのかもしれない。
が、首藤からすれば、KEYTALKより以前に結成していたバンドがthe cabsだったのである。
ドラムの中村一太は、plentyのドラマーでもあった。
これまたplentyのサウンドからはイメージがつかない人も多いかもしれないが、the cabsの中村一太のドラマは手数の多さがとにかく見ものだった。
どうしてもライブでの映像もみてほしいので、この動画を貼っておく。
すんごいドラミングであり、あまりにも叩きっぷりにドラムが可哀想になってくるレベルだ。
歌メロ重視のバンドのドラムしか触れてきたことがない人がthe cabsのドラムに触れたら、一見すると無秩序に見える攻撃的なそのドラムに面食らってしまうのではないだろうか。
そう。
the cabsの持ち味のひとつは、変拍子だった。
リズムの秩序を破壊していき、そんな不安定なリズムの中である種のリズムを生み出していく。
そういう不思議な美学がそこにあった。
ときに大胆に、ときに細かく刻むドラマが、そういう独特のビートを生み出していたと言っても過言ではないだろう。
そして。
そういう摩訶不思議な音楽の骨格を作っていたのは、ギターの高橋國光だった。
楽曲を聴いていると、首藤の甘いボーカルの後ろでたまに叫び声が聞こえてくるが、この声は高橋のものである。
メロディーパートは首藤が作っていたが、楽曲の骨格を作っていたのは高橋だった。
バンドの美学を根底でコントロールしているのは高橋だった。
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スリーピースとは思えない破壊力
テクニカルなビートとリズム。
空間を塗りつぶすような音圧。
全てのパートが躍動しているという奇跡。
そう。
the cabsはスリーピースバンドとは思えない演奏が持ち味だった。
しかも、その演奏は他のバンドでは真似できない類のものだった。
めちゃくちゃだし、噛み合っていない部分もあるんだけど、トータルで聴くと美しさを感じるという不思議なサウンド。
それこそがthe cabsの持ち味だった。
あるいは、サウンドはどこまでも攻撃的なのに、首藤のポップネスなボーカルが独特のバランスを取っていたとも言えるかもしれない。
なんにせよ、絶妙なバランスで成り立っているバンドだったのだ。
だからこそ、いまだにthe cabsの望む人たちがいる。
そのサウンドや楽曲のセンスが唯一無二だったから。
2010年代前半、ロックフェス=サークルを作って楽しむという価値観が普遍的になりつつあるなかで、the cabsが生み出す音楽はまったくベクトルが違っており、しかもただ変わっているだけじゃなくてその個性がどこまでもかっこよかったのだ。
美学に満ちたバンドだった
バンドのサウンドを聴けばわかると思うけれど、このバンドは自分たちの美学に相当こだわっていたバンドのはずだ。
メンバー全員がとにかく達者だから成立しているけれど、その辺バンドだったら泣きながら演奏することを諦めてしまうような音を鳴らしている。
そう。
どこまでも美学にこだわっているバンドだった。
ギターは繊細なアルペジオを弾いているかと思えば、いきなり轟音を撒き散らすこともある。
一歩間違えたらうるさいだけの印象を与えそうなものなのに、全体として印象は美しいに終始してしまうのだ。
そういう不思議なバンドだったのだ。
何より特筆すべきなのは、その無茶苦茶な想像力にメンバーの技術がきちんと追いついていたことだと思う。
首藤はあんなにややこしいリズムの歌で、よくベース弾きながら歌えているなーと思うもんなあ。
まとめ
結局、最初のフルアルバムのレコ発ツアー前に解散してしまったため、ほとんど作品を残さず、そのバンドに幕を下ろした。
再結成することはない、と言われているし、おそらくそのとおりなのだろうと思う。
でも、10年前すらキレキレのサウンドを鳴らしていたこの3人が、今の実力でthe cabsにチャレンジしたらどんな音を鳴らすのか。
一度でもいいからそれを聴いてみたいと思うし、単純にthe cabsがこのまま埋没してしまうのはもったいないよなーと思うのだ。
きちんと活動していたら、もしかしたらその後の日本のロックの方向性すら変えていたかもしれない、そんなバンドだと思うからこそ余計に。
もし、彼らに興味を持ったならば、ぜひ「再生の風景」というアルバムを聴いてみてほしい。
きっとあなたのロック観が大きく変わるだろうから。
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