自分は基本的に、毎週新譜をチェックしている。今の自分の音楽的な楽しみは「自分の知らないアーティストで、新しいお気に入りの音楽を見つけること」にあるから。とにかくフェスに行きたいってモードのときもあったし、特定のアーティストに沼ることが至福のときもあったけれど、最近はそういう新譜を楽しみたいモードになっている。
というわけで、名前を知らないアーティストでも、直感的に曲が良いなあと感じたら、自分がヘビロテするためのプレイリストにガンガン楽曲をぶちこんでいく。イノクロニクルもまた、そういう流れの中で出会ったバンドだった。
こういう出会い方をした場合、自分はアーティストの素性をあまり気にせずに楽曲を聴き続ける。ざっくりサブスクのディスコグラフィーだけみて「あ、まだ配信している楽曲がほとんどないから新人のアーティストなのかな」と思うくらい。
イノクロニクルもまた、そういう新人バンドの一組なんだろうなーくらいの認識で楽曲を聴き始めたのだった。
出会いとなった「赤い髪」の話
デビュー曲ということで、イノクロニクルの音楽で最初に聴いたのは「赤い髪」だった。
この楽曲が気に入ったので、イノクロニクルの名前を覚えたんだけど、何がそんなに良いのかということを言葉にしてみたい。ざっくりこの楽曲ってポップな要素もあるし、バンドサウンドが弾けるエネルギーもあるし、楽曲の中で展開されるボーカルの表情も良くて、端的に自分好みの楽曲であった。疾走感と切なさが同居するギターと鍵盤が炸裂する楽曲。こういうコピーが瞬間的に頭に浮かぶような楽曲なんだけど、そういうコピーの楽曲はとかく自分好みなのである。
あと、歌詞の着眼点も良いなあと感じた。なんせタイトルが「赤い髪」である。なんというか、広く共感を狙うだけなら、「髪」の描写は入れたとしても、別に「赤い」とまで限定しなくてもいいわけで。でも、そこをしっかり描くことで、主人公の姿が具体的に見えてくる。誰にでも当てはまるというよりも、その人だけの記憶を歌っている感がよいなあーと感じた次第。
あと、その髪を「切らない」とすることで、未練を表現する歌の組み立てもわりと好きである。こういう歌って想い出の対比で、象徴するキーワードにどういう変化をさせるかがポイントになるけど、この歌は、あえて変えないことで気持ちを表している。その対象の扱いを絶妙な距離感で放置しているのが良いなーと思った。
という歌詞の物語がベースにありつつ、ボーカルの表情とか楽曲の展開が、歌詞の中の揺れ動きときちんとリンクしているのが良い。
サビのボーカルの感情が張り裂けそうになっているように聴こえる表情の出し方とか、アッパーな部分としっとりの部分の表情の対比とか。
っていうのがベースにあるからこそ、間奏のギターがぎゅいんぎゅいんする部分も、ラストのサビで転調してテンション感がピークになるところも良い。というのと、そういう感情が前面に出ているタイプの楽曲でありながら、鍵盤が良い感じで楽曲にポップさを与えるからこそ、疾走感と切なさを同居させたまま楽曲が最後まで駆け抜ける感じが好き、というそんな感じ。
「恋の予感」のカラフルなサウンド
10月7日に配信された2ndシングル「恋の予感」は、キャッチーでカラフルな楽曲である。凛とした歌声が、ギターとキーボードを上モノにしたポップでリズミカルなサウンドと融合しているのが気持ち良い。この歌はよりライブで盛り上がることを意識しているのか、リズムが前面に出ており、合いの手を入れやすいクラップ音を差し込むなど、より音楽世界に引き摺り込んでくれるような作りになっているのが良いなーと思う。
全編を通してアッパーでエネルギッシュな楽曲ではあるんだけど、「赤い髪」にもあったような、その主人公だけの世界を歌っている感が今作にもあるのが良い。いや、どういう狙いで歌詞を書いているのかはわからないけれど、主人公の具体的な絵が見えるような視点と語り口になっているのが良いなーと思う次第だ。
ライブを観て感じた「完成されすぎ」問題
という感じで、楽曲からイノクロニクルのことは入ったんだけど、タイミング的にちょうど2026年10月12日のFM802 MINAMI WHEEL 2026に出演するということで、ライブを観に行った。
どんなライブになるんだろう。
ワクワクもあるし、新人バンドを観るとき特有のドキドキもあった。新人バンドの場合、必ずしもライブって安定していないから。楽曲の方がええやんってなることもまれにあるから。
そんな思いの中で観たライブは圧巻だった。なんせ、演奏による音源の再現度が高かったのだ。ギターもキーボードもリズムも、音源で聴いていたサウンドがそのまま鳴っているような安定感。そのうえで、ライブだからこその高揚感もあった。全員の音がその場で鳴らされ、観客と呼応することで生み出されるダイナミズムがそこにはあった。
思った。
始動して間もない新人バンドのはずなのに、さすがに「完成」されすぎているぞ、と。これはワクワクするバンドが出てきたな、と。
調べてみたら、ガチガチだった
ということもあって、ライブが終わってから、もう少しイノクロニクルのことをきちんと調べてみた。バンドとしては、2026年8月に始動したばかりの3ピースバンド。まごうことなき新人バンドだ。ただ、メンバーの経歴はガチガチだった。
ギターの仲道良は、2024年に無期限の活動休止に入ったircleのギタリストで、Ivy to Fraudulent Gameやなきごとなどのサポートとしてライブやレコーディングにも参加しているプレイヤーだった。どうりで、ギターの安定感と躍動感が半端ないわけだ。ライブで感じたあの職人っぽさにも納得した。
キーボードの小松里菜は、2026年2月までPompadollSのメンバーとして活動していて、東京藝術大学大学院で作曲を専攻している。あの疾走感、たしかにPompadollSの作品を考えれば腑に落ちた。「赤い髪」を聴いたときに惹かれた、ロックの勢いと鍵盤のポップさ。その組み合わせにも、なるほどなーと思った。
ボーカルのちゃんゆ胃も、バンド結成以前からシンガーソングライターとして活動していて、「人生は素晴らしい」はTikTokでの楽曲使用動画が5万本を超えている。昨年のミナホはソロとして出演したということもあり、ステージの経験も重ねている。あの歌声の表情の豊かさにも、なるほどなーと納得した。
まとめに替えて
ということも踏まえて、なおさらに思った。
イノクロニクルのこれからが楽しみだぞ、と。
得意分野の異なる表現者が、1つのバンドに集結して、新たな音楽を生み出していると考えたら、そりゃあこの先のワクワクは半端ないなーと思うわけで。
実際、ミナホでは冬を舞台にした楽曲のしっとり感も絶妙だったし、配信されている2曲とはまた違う魅力も感じた。
ミナホで聴いた、まだ音源になっていないあの楽曲が、今も耳に残っている。

