サカナクションの「怪獣」の歌詞とサウンドの話
サカナクションの約3年ぶりの新曲「怪獣」の感想を書いていきたいと思う。
タイアップ作品としても、サカナクションとしても絶妙な塩梅の歌詞
まず、今作、歌詞が良い。
アニメ『チ。 ―地球の運動について―(以下、チ。)』のOPである今作。
自分は原作は読んでいる身なので、最初のフレーズから『チ。』を踏まえた内容である感じが良い。
ここに残しておきたいんだ
この秘密を
というフレーズの組み方も良い。
倒置法的にしているのもいいし、「この秘密」というところをこのフレーズの意味性を集約される言葉の流れなのも良い。
とはいえ、タイアップ先の世界観を踏襲した歌詞というだけの話であれば、原作を知っていればある程度は「寄せる」ことができると思う。
重要なのは間口はタイアップとの親和性だとしても、それがサカナクションの作家性を繋がっているのかということだと思うのだが、「怪獣」はその辺りのバランスが絶妙なのだ。
というのも、「怪獣」というワードをタイトルにしたこと、その「怪獣」にふたつの意味を重ねているところがポイントだと思う。
原作に寄せるという視点だけなら、おそらく「怪獣」をキーワードにしないと思う。
「怪獣」に出ている歌詞で言えば、「秘密」とか「未完成」とかそっちの方が直接的であるように感じるからだ。
でも、サカナクションは「怪獣」という言葉を選び、それを楽曲の中心の言葉に据えた。
この感覚と、だからこそ、歌のテーマの揺れ動き方に「サカナクションだからこそ」が際立ち、サカナクションとしての言葉の作家性も見え隠れする。
まあ、サカナクションなら「夜の空」とかも<らしい>気はするが、まあそれはそれで置いておこう。
さらにこの歌、「怪獣」というワードをどういった意味で使っているのかを探ると、一枚岩で語ることができない複合性を感じる。
暗い夜の怪獣になっても
と
怪獣みたいに遠くへ遠くへ叫んで
と
また怪獣になるんだ
というフレーズで「怪獣」というワードが出てくる。
怪獣というワードは直喩としても出てくるし、隠喩として出てくるのが面白い。
さらに、怪獣という意味性が実に絶妙だ。
ポジティブな意味合いの言葉としても取れるし、ネガティブな意味合いの言葉としても取ることができる。
「怪獣になる」というのがどういう状態を指すのかは、色んな想像をすることができるわけだ。
これまで、文学っぽさで歌詞世界を作り上げた山口一郎らしい余韻の残し方だと思うし、タイアップ作品という前提を踏まえながら、そういうサカナクションの色を「そわせる」形で落とし込むのが絶妙であると感じる。
なお、そういう歌詞は、柔らかさとパワフルさを持ち合わせた山口一郎のボーカルで紡ぐのが、より良いなあと思う。
どんどん展開が変わるサウンド
今作、これまでのサカナクションとはまたちょっと違う装いだ。
キーボードが担う楽曲の存在感もちょっと異なるし、ドラムとベースの関係性もちょっとこれまでとは違った雰囲気である。
ロックに傾倒するでもなく、ダンスに傾倒するでもなく、歌謡曲に傾倒するわけでもない感じというか。
そして、1分30秒あたりで投入するサビの流れが秀逸で。
急に新しい上物の音が流れ込むと、ドラムのリズムの数が倍になって、一気に楽曲はアッパーになる。
意外とこういう音の変化でサビのインパクトを生み出す形って、なかったように思う。
しかも2分15秒あたりで、さらに大胆にサウンドを変化させる。
この変化の具合があまりにもサカナクションで、ぐっとくる。
「エンドレス」とか「目が明く藍色」を一瞬彷彿させるように、そういう大胆さ。
以降も音の足し方と引き方、バンドサウンドとそれ以外の融合の具合。
終盤の壮大コーラスの入れ込み方まで、サカナクションのフォーマルな美と新しさを融合させながら、独特の高揚感を生み出すのがあまりにも良いのだ。
まとめに替えて
やっぱりサカナクションは期待を裏切らない。
改めて、そんなことを感じた「怪獣」のリリース。
なにより、この「怪獣」って、ある種の”サカナクションの音楽”と読み替えることもできそうなワクワク感がある。
どちらにせよ、おそらく、ここからヘビロテすることになるのだと思う。