前説の前説
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はじめまして、ノイ村と申します。
この度、ロッキン・ライフの中の人さんから大変光栄なことに「よかったら寄稿していただけませんか?」とお声がけいただきまして、是非!!!ということでこの記事を書いております。いやぁ、本当にありがとうございます。
「いや、誰よ?」という方も多いかと思うので簡単に自己紹介させていただきますと、普段は中の人さんも寄稿されているインターネットメディアのリアルサウンドさんで音楽とゲームのライターとして活動しております。
関連記事:https://realsound.jp/2020/08/post-606081.html
関連記事:https://realsound.jp/tech/2020/07/post-585292.html
あと、最近はそれほどですが、時々noteで音楽について語ったりしております。どちらの場合も国内の内容について書くことは少なく、アメリカ・イギリスのトピックを扱うことが多いです。
関連記事:https://note.com/nmura/n/n527ca008e18c
普段は、ビリー・アイリッシュやレディー・ガガといった有名なポップ・アーティストを中心に書く事が多いので、もしかしたらロッキン・ライフさんとはちょっとカラーが違うのでは?と思いながらも、「海外の音楽について興味を持っていただく機会になれば!」という想いを伺っておりますので、私の文章がそういうきっかけになれば嬉しいなぁと思います。
では、文体を記事用に変えていきますね。
前説
今回の記事を書くにあたって、中の人さんからは特にテーマなどは頂いていない。それはつまり、書きたいことを何でも書いてもいいということである。実は普段寄稿する際は、ある程度テーマが絞られた上で依頼を受けることが多いので、しばらくの間「何を書くべきなんだろう…?」と考え込んでしまった。国内と海外の文化の違いとか、ちょっと政治的な話とか、ライブの動員の話とか、トピックはあるけどどこから始めれば良いんだろうと悩む日々が続いていた。
そんなある日、愛してやまないバンドであるBring Me The Horizonの新曲「Obey」がリリースされた。それが途轍もなくカッコよかったので、色々難しいことは全て置いておき、とにかくこの曲、そしてBring Me The Horizon(以下、BMTH)がカッコいいということを伝えようと思った。よく考えたら、僕が海外の音楽にドンドンのめり込んでいったのは、家族で買い物に行く途中、カーラジオから流れてきたMy Chemical Romanceというバンドの「Welcome to the Black Parade」という曲がカッコ良すぎたからだ。結局、良い曲があればそれで良いのだ。
ちなみにBMTHは以前、ロッキン・ライフさんの過去の記事「邦ロックバンド好きがオススメする洋楽アーティスト9選」にも登場しており、中の人さんもオススメのバンドである。読者の皆さんもきっと気に入っていただけるはずだ。(結構激しいバンドなので、その時点で好みは分かれるだろうなぁとは思いつつ…。)
関連記事:邦ロックバンド好きがオススメする洋楽アーティスト9選
本編
BMTHの魅力全部盛りのエクストリームな新曲「Obey」
Bring Me The Horizonは2004年結成、イギリス出身で5人組のロックバンドだ。フロントマンのオリヴァー・サイクスは現在33歳。世代としてはSiMやcoldrainが同世代にあたる。既にアルバムを6枚リリースしており、最新作は2019年に発売された「amo」だ。ジャンルについては、英語版のWikipediaによれば「メタルコア / オルタナティブ・メタル / オルタナティブ・ロック / ポップ・ロック / エレクトロニック・ロック / デスコア(初期)」とのことである。
「え、ジャンルどういうこと?」と思う人が多いだろうけれど、それはこの重くて激しくてポップでエレクトロニックな新曲を聴けば何となく分かってもらえると思う。かなり重めのブレイクダウンも含まれているので、可能であれば是非ヘッドバンキング出来る環境を整えてから聴いていただきたい。
デスコア出身であることも納得の、唸りをあげる楽器隊と絶叫するボーカルが暴れ狂う激しいメタルコア・サウンドが空間を支配し、そこに交わるバグったロボットのようなシンセサイザーの音色が更に狂気を加速させ、今すぐモッシュピットに飛び込まなければ気が済まないほどの暴力性に襲われる。にも関わらず、オリヴァーが歌うメロディは一度聴いたら忘れられないほどにキャッチーで、今にもライブ会場での大合唱が目に浮かぶようだ。更に、これほど激しいサウンドにも関わらず、引くところはしっかりと引くようにサウンドが構築されており、メリハリがしっかりと効いていて、何度聴いても飽きることがない。ゲスト・アーティストとして参加した、97年生まれのイギリス出身の若手ミュージシャンであるYUNGBLUDのパンキッシュなパフォーマンスも、このエクストリームな楽曲にジャンクでポップな彩りを与えている。
歌詞のテーマはBMTHの根本にあるテーマでもある「不公平や不平等な社会に対する反乱と反抗」で、権力者の視点と一般人の視点を織り交ぜながら、タイトルの「Obey(=従え)」が示す通り、権力者の都合の良いように人々を従わせ、洗脳する現実社会への怒りと皮肉を描いている。パニックに陥っているような一般人としての視点のA・Bメロと、力強く自信に溢れた権力者としての視点のサビの対比が印象的だ。コロナ渦のカオスを生きる中で感じる自分自身の怒りが燃料となって、楽曲の暴力性を更に高めていく。
Bメロ : 「気が狂っちまいそうだ。どこへ向かえばいいのかも分からないし、もう何も見えなくなってしまった。自分を破壊して消えていくのは、とても心地良いな。(Think I’m losing my fucking mind. Don’t know where to turn, now I’m blind. Destroy yourself, it feels so good to fade away.)」
サビ : 「従え。我々は君が良い一日を過ごす事を願っているんだ。従えよ。こっちに来て遊びたくないのかね。(Obey, we hope you have a lovely day. Obey, you don’t want us to come out and play away now.)」
「Obey」は既にファンの間では熱烈な支持を受けており、バンドの魅力が存分に発揮された楽曲である。この曲が「格好良い!!」と思った人は是非他の楽曲にも触れてみてほしい。ヘヴィーなサウンドがお好みということであれば今年6月にリリースされた「Parasite Eve」、ポップなメロディーが気に入った方にはライブ定番曲の「Throne」がオススメである。
「感情の増幅装置」としての音楽を追求するBMTH
「Obey」に興奮する勢いのまま、もう少しだけBMTHの好きなところを書いておきたいと思う。私にとって、BMTHは最高に格好良いロックバンドの一つであり、同時に日常を生きる上で、何度も助けられてきた存在でもある。
先程、「音楽性を進化させてきた」と書いたがBMTHは初期こそデスコアだったものの、やがてスクリームを含まない楽曲も作るようになり、今ではしっとりとしたバラードや、電子音主体のアブストラクトなサウンドといった具合に、ロックという枠組みすらも破壊するほどに多様な楽曲を作り上げる音楽集団へと変化していった。そこには大きく分けて2つの背景があり、一つは「自らの、そして音楽の可能性を広げること」。そしてもうひとつが「様々な感情を描くこと」だ。デスコア以外の音楽性の方が、より自分の感じていることを思い通りに、もっと大きなスケールで描けるんじゃないか?そんな疑問と野心がBMTHの音楽性を変えていった。そしてそこにある「感情」が、多くのファンに共感を与えているのである。特に、生活の中でなかなか表に出すことが出来ない、怒りや不安、そして痛みといったネガティブな感情に対して、BMTHは正面から向き合い続けている。
彼らの楽曲群の中でも特に強い人気を誇り、ライブではクライマックスの場面で演奏される重要な楽曲が2014年にリリースされた「Drown」である。これまでスクリーム主体だったオリヴァーが、キャリア史上初めて全編クリーン・ボイスで歌ったこの曲のテーマは、「精神的に追い詰められる中で求める救い」だ。
楽曲の主人公は「『経験が人を強くする』って言うけど、すごく傷ついた時、人は死んでしまいたくなるものなんだ。(What doesn’t kill you makes you wish you were dead.)」という、日本でもよくある言い回しを否定してネガティブな感情を吐露し、サビで「誰か僕を救ってくれないか?(Who will fix me now?)」と繰り返し救いを求め続ける。そして、楽曲のクライマックスではやがて集まってきた同じ想いを持つ人々と一緒に「僕一人じゃどうしようもできないって、君は知ってるだろ?(You know that I can’t do this on my own.)」と叫ぶ。
「Drown」が描くのは、生きていく上で何かどうしようもなく辛いことがあったときに訪れる惨めな感情だ。呟くだけでは何にもならない。だが、この感情を思わず目を細めてしまうほどの圧倒的な光を感じさせるエモーショナルなバンド・サウンドの中で歌えば、それは祈りに変わる。そして、数万人規模の大合唱が巻き起こるライブ会場であれば、その光は更に強く輝き出す。
前半で紹介した「Obey」は社会に対する怒りの感情、「Drown」は自分の現状への救いを求める感情を極限まで増幅させた楽曲である。BMTHの最大の魅力は、一つの音楽集団として、あるテーマや感情を自分が出来る限界まで描くという野心にある。だからこそ、彼らの楽曲はどれもが振り切ったものとなっており、同時に強く共感出来る内容となっているのだ。私自身、メンタルヘルスに苦しみ続ける中で、どれほど彼らに救われてきたか分からない。
まとめ
BMTHは海外の同世代のバンドの中でも、特に日本のミュージシャンとの関係が深いことでも知られている。例えば、Crossfaithとは共に海外ツアーを回った仲であり、マキシマム ザ ホルモンとは彼らが若手だった2009年の時点で対バンツアーを実施している。その中でも特に親交が深いのがBABYMETALだろう。海外のフェスティバルでの共演をきっかけに仲を深めていき、昨年末には遂にBABYMETALのさいたまスーパーアリーナ・大阪城ホール公演のスペシャル・ゲストとして出演を果たしている。ただ、日本のことが好きであるというだけではなく、お互いに刺激をし合うことでより高みを目指そうという、強い関係がそこにはある。その理由は、BMTHだけではなく、日本のミュージシャンもまた、ラウド・メタルを軸としながら音楽性を広げ続ける「同志」であるからだ。
Bring Me The Horizonは単純にめちゃくちゃ格好良いロックバンドであると同時に「邦ロック」と「洋楽ロック」の垣根を破壊して相互にポジティブな影響を与え合っている貴重な存在でもある。だからこそ、これを読んでいるあなたに是非オススメしたいのだ。あなたの抱えている想いを何倍にも膨れ上がらせる、一度触れたらもう元には戻れない音楽がそこにはある。
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