某氏がダイブによって骨折したとツイートしたことから、ライブにおけるマナー論争が更に熱を増していく昨今、ダイブ・モッシュ・サークル・リフトなどにおける、己の意見を表明する人の数はうなぎ登りである。
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ひとつひとつの意見は傾聴に値するものではあるが、今回、それはひとまず置いておきたい。
この記事では、バンドそれぞれの「楽曲」の構造から、なぜダイブ・モッシュ・サークル・リフトが起こるのかを考えてみたい。
04 Limited Sazabysの場合
フォーリミのライブはダイブ・モッシュ・サークル・リフト、全てが多いと思う。
なぜならそういうファン層だからだ、というのが解答になるわけだが、なぜそういうファンが集まるのかを考えれば、楽曲にそういう魅力があるから、ということになると思う。
では、フォーリミの楽曲にどういう魅力があるのかを考えてみたい。
まず挙げられるのが、テンポの速い楽曲が多いということ。
「monolith」も「swim」も「ficition」も「climb」もBPMは200くらいある。(BPMとは曲のテンポの値みたいなものである)
というか、フォーリミの「早い曲」はBPM200を超えるのが普通である。
これって、通常の心臓の鼓動よりも早い。
あえて言うならば、全速疾走して脈が速くなってるときのテンポって感じだろうか。(それよりも速いとは思うが)
つまり、身体が高揚してるときの鼓動のテンポに寄せているわけで、だから若者は速いビートに対して「うおーっ」ってテンションになるのかもしれない。
モッシュしたいという欲望と、BPM200を超えた高速テンポは親和性が高いわけだ。
「音楽を聴く」というよりも「運動しにきた」に近いテンションでライブに行くキッズたちにとっては、パラダイスなわけである。
とはいえ、楽曲のテンポをあげるのはかなり大変である。
速いテンポをキープしてドラムを叩きつけるのは大変だし、リズムに細かい変化を付けるのだって難しくなる。
要は、楽曲に変化を持たせづらくなるわけだ、普通は。
しかし、フォーリミはそんな制約の中でも様々なバリエーションを組み込み、一曲の中に様々な変化を生じさせる曲構成をしている。
また、フォーリミの魅力はテンポだけではない。
メロからサビへの移行を「いかに気持ちよくできるか」に照準を合わせて楽曲を作っているのもポイントのひとつ。
「サビの入り」がとにかく気持ちいいからこそ、サビ前でリフトやダイブをしたがる人が多くなるわけなのだ。
フォーリミの場合、有名曲でも必ずサビ前に何かしらの工夫がある。
例えば「swim」は、サビに行く前に音を全て止めることでタメを作っている。
「climb」なんかも一瞬、そういうタメを作っている。
「ficition」や「kife」はサビに入る前に転調させることで、「ここからがサビやで」感を色濃く出している。
「buster call」は最初のサビをタメにすることで、次のサビに移行する際に「ここからがサビやで」感を色濃く出している。
もちろん、歌によってはAメロにサビっぽい音の作り方をしていたりもするのだが、人気曲ほどサビ前の「変化」がしっかり効いている歌が多い。
速いテンポとサビ入りの気持ち良さ。
これが、楽曲側からみたフォーリミのライブでダイブ・モッシュ・サークル・リフトがたくさん出てくる理由なのである。
ただその一方で、最近はそんなイメージを打破させるべく、あえてミドルテンポな曲もリリースしているフォーリミ。
「letter」なんかはその代表で、この歌は少しBPMを落としつつ、スネアの刻み方も手拍子がしにくい、「タッタッ!タッタッ!」な感じのリズムをキープしている。
客の反応がパターン化してるからこそ、今後はそんなパターンを崩すような楽曲を作っていく可能性が高いような気はする。
関連記事:フォーリミこと04 Limited Sazabysが嫌いな人にもフォーリミを好きになってもらうための記事。
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ASIAN KUNG-FU GENERATIONの場合
アジカンはダイブもモッシュもそんなに過激なやつは起きない。
逆に言えば、なんでそんなに起きないのかを考えてみたい。
まずはテンポ。
アジカンの楽曲で、テンポが早めの楽曲である「リライト」や「ソラニン」はBPMが180くらいである。
90年代から音楽を嗜んでいる人からすらば、これって相当に速い数字なわけだが、今の邦ロックに慣れてる人からすれば、遅く感じると思う。
いかに昨今の若手人気バンドが高速な音楽を作っているのかがよくわかると思う。
また、サビのタメに関しても「リライト」は消してえーの「え」が音程的にも音圧的にもドカッときていることがわかるし、ここの「ドカッ」と感を強く出すために、サビ前に一瞬全ての音を止めて「タメ」を作っていることもわかる。
「ソラニン」もまったく同様であり、たとえばーの「ば」で音程的にも音圧的にドカッとくるようにしており、その手前で「タメ」を作っていることがわかる。
今の流行りのバンドなら、ここの「ドカッ」とくるタイミングで、ダイブなりリフトなりが起こるのだろうが、アジカンの場合はそれらが起こらない。
これはファン層とゴッチのキャラのせいだ、と言われたらそれまでかもしれないが(まあ、ゴッチはノリ方を制限するような発言はしたことないが)、音楽的な話をすれば、今の若者からしたらアジカンのこのテンポでは遅いように感じてしまい、「暴れる」というテンションには至らないのかもしれない。
テンポ的には、右手を天高く掲げ、人差し指一本突き出すあの姿勢が心地良いわけだ。
他に考えるならば、モッシュを加熱にさせる系のバンドの場合は、サビに入るとスネアの音数をそれまでの倍にして、スピード感を出すことで「ここからサビやで!盛り上がれよ!」感を出しがちなのだが、アジカンはそういうテンポ的な変化を一曲の中に持ち込むようなことはしない。
そのため、テンポのみに敏感なリスナーからしたら、ゆるーいテンポがだらーっと続いているような印象を持つのかもしれず、故に「暴れる」という考えには至らないのかもしれない。
関連記事:アジカンの「ホームタウン」がすごく良いと思える理由
10-FEETの場合
テンポでいえば「RIVER」や「その向こうへ」はBPM170くらいである。
意外とアジカンの「リライト」よりも遅いのである(もちろん、ライブのメイン曲の平均BPMはアジカンよりも10-FEETの方が早いけれども)
もちろん「SHOES」「STONE COLD BREAK」みたいに、もうちょい速い歌もあるのだけれども、それでもフォーリミほどの疾走感を出すことはない。
むしろ10-FEETの歌で特徴的なのは、ぴょんぴょんと真上に飛ぶように仕向けるようなテンポを楽曲中に取り入れていることである。
これって、ぴょんぴょん飛べるくらいの余裕のあるテンポで曲が作られているというわけだ。(フォーリミの楽曲ならそんな余裕はない)
もう少し言えば、10-FEETの場合、楽曲中にちょくちょくテンポを変えてくるのである。
例えば、サビはジャンプができる余裕のあるテンポに曲を落とすけど、サビはスネアを細かく刻むことで疾走感を出してモッシュさせやすくするみたいな。
例えば「goes on」はまさしくそういうフォーマットの楽曲だし、「VIBES BY VIBES」はAメロ・サビは早いビートにして、Bメロはジャンプできるようなテンポに変えている。
要はイントロ・Aメロ・Bメロ・サビ、それぞれのタームでテンポを変えていくことで、曲に変化を付けているわけだ。
テンポだけでいえば、フォーリミのような若手バンドに比べれば遅めであり、同世代のアジカンなんかと同じくらいなのに、アジカンとは違ってダイブ・モッシュ・サークル・リフトがたくさん起こるのは、そういうテンポの変化がしっかり「決まっている」からなのだと思う。
と言いつつ、10-FEETが「リライト」や「ソラニン」をカバーしたら、サビ前で大量のリフトができたり、サビ入りでダイバーが大量発生する可能性もあり得るのだが。
もうひとつ特徴的なのは、テンポをコントロールすることで、みんなが同じ動きをしやすくしている傾向があるので、場に一体感が生まれやすく、故に他バンドに比べてサークルが広がりやすい空気が生まれがちだったりする。
もちろんこれは、メロからサビへの移行の気持ち良さがあるのが大前提の話ではあるけれども。
ちなみに、マンウィズであれMONOEYES(ここにエルレを入れてもらってもいい)であれ、フォーリミやWANIMAなんかと比べると、明らかにテンポが遅いわけだが、サビは同じように大盛り上がりになる。
これは、テンポの変化の工夫とメロからサビへの移行がしっかり決まっているからに他ならない。
アラサー、アラフォーバンドは若手とは違い、テンポではなく、こういういぶし銀な所で魅せがちなのである。(じゃないと体力的にもきついしね)
関連記事:10-FEET「ヒトリセカイ」歌詞の意味は?解釈と考察!
BRAHMANの場合
ダイバーはたくさん出るが、リフトやサークルは皆無。
それが前述のバンドとはっきりと違うところである。
なぜ、BRAHMANのライブはこうなるのか。
BRAHMANも10-FEETと同じように楽曲のテンポに幅がある。
けれど、明らかにノリ方が違う。
この理由のひとつに、 BRAHMANのライブは手拍子が非常にしにくいテンポ・リズムだからというのが挙げられる。
サークルを作る際、普通は等間隔でリズムをキープしているバスドラムを目印にして手拍子していくものだが、BRAHMANの楽曲はそれがしにくい構造になっている。
もちろん、楽曲によっては手拍子をする楽曲もあるのだが、いわゆるサークル前にするような「タッタッタッタッ」と細かくビートを刻むような手拍子はしにくい(というか、できない)。
もっと言えば、初見の人ならばどこがサビなのかも分かりづらい曲が多いし「ってかサビなくね?」と感じる曲も多いし「え?今の曲もう終わったの?」と感じさせることも多い。
要は他のバンドの常識やノリが通用しないのだ。(だから、ノリにくく掴みにくいという理由で、メロコアは好きなのにBRAHMANは敬遠するという人もそれなりにいる)
BRAHMANの楽曲は「ここがサビだ!ここでおまえら飛べ!盛り上がれ!」みたいな、野暮な合図を楽曲から発信することはないのである。
関連記事:BRAHMANのライブツアーが「不倶戴天」ではなくて「戴天」だった理由についての考察
まとめ
サビを迎えるに当たってどういう工夫を施しているのかがポイントであり、この工夫により、ダイブ・サークル・モッシュ・リフトが生まれやすい・生まれにくいが出ている、といるということがわかったと思う。
その中でも、20代〜30代前半のバンドはドラマーの腰が心配になるくらい、とにかくビートの速い楽曲を量産しがちである。
まあ、ビートの話をするならば、ベボベとか9mmとか時雨なんかも入れるべきだったとは思うが、今回は割愛させてもらった。
聴いていて心地よいと思う音楽には意図的であれ無意識的であれ、色んな工夫が施されているんだよ、というそんな話でした。
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