今個人的に絶賛注目しまくっているバンドがいる。それがミーマイナーだ。2024年9月から活動を始めた”若手バンド”はキャリア1年足らずで、シーンに大きなインパクトを残している。この記事ではそんなミーマイナーにインタビューを行い、このバンドの”リアル”に迫ってみた。

本編

これまでの軌跡

──ミーマイナーを結成してから、今日までを振り返ってみていかがですか?もうすぐ1年になりますよね。

美咲(Vo./Gt.):人生で1番長い1年でした。

──充実していたから、濃密な時間だったということですか?

美咲:そうです。濃かったので…密度が。

さすけ(Ba.):新しいことだらけだったよね。

──じゃあ改めて1年振り返ってみて、特にここが一番濃かったとか印象深かった出来事ってありますか?

さすけ:やっぱりツタロックかな。結成1ヶ月ちょっとでツタロックDIGライブのO.A.(オープニングアクト)オーディションに受かって、まだ4回目のライブとかだったんですけど、急に1000人キャパでやらせてもらえて…。そこで結構良いライブができたので、これはいけるかも…?という手応えにも繋がりました。

美咲:私は何のイベントっていうわけじゃないんですけど、最初の半年ぐらいの、完全に2人だけで走り切ってた期間の充実度というか密度がすごくて。グッズのデザイン、発注、発送、梱包、CD制作、編曲、ミックスマスタリングとかも全部さすけさんがやってくれて。ライブのブッキングとかも…もう全部自分たちでやるっていう(笑)

さすけ:2人以外の人間が何も関わってない期間があったね(笑)

美咲:だから、2人のどっちかが潰れたら終わりだっていうこのハラハラ感と、2人でどこまで行けるんだろうっていうワクワク感があって、楽しかったです。

──改めて、なんでそんな形で始めようと思ったんですか?

さすけ:2019年頃から(美咲の)前のグループに楽曲提供という形で関わっていて、自分の曲を歌ってもらう機会がそこから毎年あったんです。自分がゲストで呼ばれてアコースティックライブをしたりということもありました。だから、もう付き合いはかれこれ6年以上で。

──そうなんですね。

さすけ:そんな中で2022年に自分の前のバンドが解散してボカロPになって、2023年の秋に美咲にフィーチャリングでボーカルとして入ってもらった曲が1曲あったんですが、その時に美咲から「これをバンドにしないか」「フィーチャリングではなく、新しいユニットとして走り出さないか」という提案を受けて。最初は「バンドは難しいよ」と断っていたのですが、物凄い熱量で誘い続けてくれたので、それなら…という感じで少しずつ路上に立ち始めて…。そうしていく中で、お試しでバンドを始動したのが2024年の9月19日という流れでした。

美咲:元々、私がそのボカロP、さすけさんの「もの憂げ」のファンでずっと聞いてて。フィーチャリングできるってなった時に「この曲を歌えるんだ」ってなって。バンドにしたら全曲歌えるんじゃないかと思って。で、自分の曲も今まで弾き語りで作ってたんですけど、バンドにしたら曲がより強くなると思ったし、幅も広がるから絶対バンドやろう!と思って。何回も断られたんですけど、毎日お願いして、9月に結成することが決定しました。

さすけ:僕のボカロP活動のバンド版でありながら、美咲のシンガーソングライター活動のバンド版でもあるので、一石二鳥の充実したバンドになるんじゃないかっていう予感がありました。

──確かにミーマイナーは2人の個性が確立したうえで、一つのバンドになっているのが良いなと思います。しかも、結成のタイミングから追っていますが、思っていた以上のスピードでバンドのスケールが大きくなっていって驚いています。この1年で、ステージを上がっていく上で、心がけていたことって、あったりするんですか?

美咲:「他に叶えたいこともあるから、まあ無理でもいいか」とか、そういう考えだったらここまで来れてなかったんじゃないかな。2人とも「今、これに集中する。人生の全てがミーマイナーだ」というマインドでやっていたのが一番大きいんじゃないかなと思います。私は夢を叶えたくてバンドを始めたというよりは、もう残りの人生でやりたいことがバンドしかなかったからやっているという感じなので、自分の心に嘘をつかず、本当に好きなこと、やりたい音楽を貫いて全力で目の前のことを楽しむことを意識していますね。

さすけ:僕はなんか、最初がそういう自然な始まり方だったんで、お互いのグループに参加したりして「仲間と音楽やるの楽しいね」みたいな初心は、忘れないようにしようというのがありました。元々路上ライブとかもやってたんですけど、路上に行って歌って楽しい→ギターと歌で合わせて楽しい→じゃあライブハウスに出たらもっと楽しいんじゃないかな→サポートを入れてライブハウスに出たら楽しかった…みたいな。その連続で気づいたらこうなっていたので、そこに打算とか、「こういう見られ方をしたい」とかは一切なくて。2人とも前のグループが潰れて、夢に破れて1周回って初心に帰ってきたところがあって。だから「売れる」とかはお互い無理だったから考えるのをやめようと。「ただ音楽を楽しんで、趣味としてやろう」という自然体な形で発信し始めたら、今までのグループでは到達できなかった勢いが出ているのが不思議というか…逆説的でびっくりしています。

美咲:こんなことになるとは全く思ってなかったよね。

さすけ:そうだね、思ってなかったね。

ミーマイナーとして1年走って感じたこと

──バンドでやる時、一番楽しい瞬間ってやっぱりライブですか?

美咲:あ、でも意外とスタジオとかも楽しいです。毎回新曲を持ってきてスタジオに合わせようとか。もうほぼ遊びみたいな感じで。

さすけ:そう、ほぼセッション。

美咲:そう、セッションしてて。そういうのが楽しかったですね。

さすけ:今日(このインタビュー後の予定もライブでした)も新曲やるんですけど、セットリストになかった曲を急に「やろうぜ」とか言って。

美咲:どこにも配信されてないし、誰もスタッフさんも聞いたことないレベルの新曲をいきなりやろうぜってなってるんです。

さすけ:それくらい、自由に遊んでるだけなんですよね。それがミーマイナーの大事なスタンスです。

──曲のリリースもなんかめちゃくちゃ早い印象があります。

美咲:ありがとうございます。

さすけ:なんかこっちが(曲を)書いたら、美咲も負けじとデモを上げてくるんで、倍できますね。

──曲作りにおいて、2人だからこそのやり取りとか進め方ってあるんですか?

美咲:私は歌詞の書き方とか全部(さすけさんに)影響を受けているし、今でも書いたものを見せて「これどう思う?」みたいな選択というかアドバイスをもらったりずっとしているので。私はけっこう影響を受けていますね。

さすけ:でも、0から1の生み出し方は、もうまったく。会議もしてなくて。

美咲:そうだね。完成したのを持って行って、聞かせるぐらい。

さすけ:お互いリモートで勝手に作って、合わせる時に持ち寄るっていうスタイルでやっています。

美咲:だから共作とかはないよね。

さすけ:そうだね。意外とないよね。

──そうなんですね。ちなみにいっぱい曲ができた中で、あえて1曲選ぶならこの歌が一番こう自分の中で今押すならこの曲みたいなのあったりしますか?

さすけ:僕は「ささくれハート」かな。歌詞にものすごく色んなものを込めていて。普通、ワンテーマで1曲を書き切ることが多いんですけど、あの曲はワンテーマというよりは、オムニバス的な感じで、A(メロ)・B(メロ)・サビ、全部ちょっと違うところからの発想や着眼点だったり。登場人物が使う言葉も、2番のAメロでちょっと古い時代の言葉になっていたりとか。そういうのを2年ぐらいかけて完成させた歌詞なんで、やっぱり時間をかけた分、思い入れが深いというか。

美咲:私はまだリリースされてなくて、これからリリースされる曲なんですけど、「終わり」っていう弾き語りの曲があって。今まで恋愛の曲はいっぱい書いてきたんですけど、この曲は人生の、私そのものみたいな歌詞を書いた曲で。泣きながら作った曲でした。

──そうなんですね。

美咲:曲をいつもボイスメモに録音するんですけど、その曲は泣きすぎてボイスメモが取れなくて。普段も自分の曲で泣くことはあるんですけど、泣いて歌えないっていうのが人生で初めてで。それくらい、(この歌は)私そのものなので、一番思い入れがあります。

さすけ:「終わり」はめっちゃいいよね。スタッフの評判もいいし。

──けっこう自分の経験を歌にすることが多いんですか?

美咲:全部そうですね。あんまりかっこつけてる曲がなくて。自分たちの思ってること、実体験100%です。

さすけ:本物の言葉というか、自分が生きてきた中で感じた感情とか、泣きの部分を表現しようっていうのが、ミーマイナーのテーマでやっています。

──ミーマイナーのマイナー部分が?

美咲:うん。めっちゃ(「マイナー部分」が)入っています。

──フレーズや言葉にこだわっている曲が多いので、どう考えて作られているんだろうなと思いながら聴いています。

美咲:歌詞に一番こだわってるね。

さすけ:ベースとなる感情はもう実体験で。使う言葉の装飾とかは日々勉強って感じですね。

美咲:あんまりメロディーに迷うこととか、そこに止まることはないんですけど、歌詞はひたすら悩んでるよね。

──本当ですか?

美咲:いつか「歌詞で天下を取ってやる!」と思ってやっているので。そこはこれからもブレずにこだわっていくんだろうなと思います。

──ちなみに、このワンフレーズは「歌詞で天下を取ったな」っていうものはありますか?

さすけ:「ささくれハート」は、もう天下を取れていると思っています。冗談ですが…(笑)あと、「ワンルームナイト」の<スマホに勝てなかった>(美咲作詞)とかも印象的なフレーズですよね。

美咲:あー。

さすけ:スマホに勝ち負けを持ち出した歌詞は多分初めてなんじゃないかなと。

──確かに。

美咲:あと、あの曲は<おやすみ 私たち>っていう最後のフレーズで、急に視点が俯瞰になるんですけど。視点の動きが歌詞のこだわっている部分というか。うまいこと言えたとかよりも、歌詞の中で視点が動かせるのが一番難しい気がしていて、それができたのが自分的には納得したポイントでした。

──そういう発想で曲を書くようになったきっかけって、音楽以外のことから影響を受けたのか、それとも音楽をずっとこう聞いているうちに「こうしたい」みたいな感じで湧いてきたものなんですか?

さすけ:音楽ももちろん、歌詞という点で色んな素敵なアーティストを聞いてきたのもありますし、2人とも小説が大好きでよく読みますね。美咲は大学の卒論とかもそういう文学を研究するようなゼミに入っていたので、歌詞についてよくディベートし合っています。

──ちなみに何の研究をされたんですか?

美咲:私はヨルシカさんの研究ですね。ヨルシカさんが小説から曲にする、ということをやっていたので、どういう風に落とし込んでいるかという、小説から音楽にする時の研究というか落とし込み方をテーマにして卒論を書きました。

──なるほど。

美咲:でも、私たちが歌詞を書くきっかけになったのは、本当に救いもない、どうしようもない絶望にいた時に、そうやって自分を救うしかなかったというか。評価されたくてやっているというよりかは、歌詞を書かないと死にそうだったから書いているだけなのが今もなので、「どうやったらこれが伝わるかな」とか「この感情をどうやって言葉にしよう」と考えているだけで楽になっている部分が自分の中にあります。そのため…自分のために書いているというのが一番大きいですね…私は。

──それは1年経った今も変わらず・・・?

美咲:変わらないですね。ただ私が私のためにやっている部分はずっと変わらずあります。

初のワンマンライブ

──ちょうどインタビューしている今日の1ヶ月後には初めてのワンマンライブですよね。

美咲:はい!

──多分色々準備されていると思うので、せっかくならその話も聞けたらと思うのですが、初めてワンマンライブをするにあたって、作戦やモチベーションなどあれば教えてください。

さすけ:作戦部分で言うと、チケットを売るために頑張ろうと思っていたら、ありがたいことに1分でソールドアウトしてしまったので、もうあとは本番を頑張るだけだなと。ただ、ワンマンライブの中のコーナーで考えていることが1つあって。(それは)みんなが驚くような、僕らの趣味全開の曲を1曲やろうと思っていて、それが仕掛けとしてはありますね。

──なるほど。ワンマンに向けての気合いとかは、あったりしますか?

美咲:元々バンド始めた時に、ワンマンライブができる規模になると思ってなかったので、「ワンマンできるんだ、1年で」っていうことに感動してて。今でも本当だと思ってないというか。2024年9月19日の時点では、ミーマイナーを知ってる人が0人だったんですよ、世界で。なのに1年後には、何万人っていう人が知ってくれていて、何百人っていう人がライブに来てくれるって…奇跡だなと思っていて。なので、そのありがたみというか、感謝を忘れずにいたいですね。でも、その人たちって全員「私たちがやりたいことをやって楽しんでる姿を見たい」人たちだと思うので、周りの評価を気にせずに自分のやりたいことを貫いたライブにしたいなと思っています。

──わかりました・・・!でも、いいですね。やはり「お客さんがいてこそ」という考えを強く持つ人が多い中で、自分たちのベースをしっかり持ってやっているのは。

美咲:バンドを始める前にさすけさんに言われたことがあって。「バンドは影響を与える側だから。他人に影響を受けて何かを変えるとか、表現方法を変えるとか、やりたいことを曲げるってなったら、その人に影響を受ける人が1人もいなくなるよ」って言われたことがあって。なんで私は絶対に自分をぶらさないと決めているし、私が影響を与える側だという認識のもとステージに立っているので、これからも変わることはないだろうなと思います。

ミーマイナーの今後と、変わらない美学

──ワンマンライブが終わってもこの先、ミーマイナーとしての2人は続くと思いますが、次の1年あるいはその先、どういう風にバンドを進めていきたいとか、こういうことをやりたいとか、あったりしますか?

美咲:目標はなくて・・・。強いて言うなら、夏フェスに出たいとか、マカロニえんぴつさんと共演したいとか色々あるんですけど。絶対これを叶えなきゃ死ぬ・・・みたいな目標はないですね。バンドを組めたことで夢が叶っているので、その目の前にあることをおろそかにしないというのが目標です。

さすけ:僕も、Mステ出たいとか色々あるのはあるんですけど。一番の目標は、創作に対するピュアな気持ちを失わないでいることですね。それさえ死守できれば、どんな形になろうが、今の規模のままだろうが、売れなくなろうが別にいいと思って始めたので…。

美咲:うんうんうん。

さすけ:今まで、(前のバンドの時は)何としてでも売れてやろうみたいな感じで人の知名度を使ったりとか、ふざけ倒したりとかしてきた人間が、もう1周回って辿り着いたのがミーマイナーの音楽なので。これは守っていきたいなと。そこの信念とか音楽性をおろそかにして、色んなところに手を出して崩壊してしまうのが一番恐れていることです。だから、自分たちのペースで楽しくやっていきたいですね。

美咲:その作品というか芸術的な部分に共鳴した人だけが今集まっているので、逆にそこさえブレなければ、周りのスタッフさんとかメンバーとか全員離れることないんじゃないかなと思っています。

──なるほど。わかりました。ちなみに、今話していただいたその作品の中の美学という話だったんですけど、改めて「ここが私たちの美学なんですよ」というものはありますか?

さすけ:楽曲の美学というか、僕の中で安易な歌詞は使わないようにしているんですよ。

──ふむふむ。

さすけ:その理由というのが、例えばこの色(テーブルを指して)って何色ですか?と聞かれて、グレーだけどちょっと茶色が混じってて、とかって完璧には形容できないじゃないですか?自然の森とかも、緑って言っても絵の具の「緑色」だけで描写できるかと言ったら難しいじゃないですか?要は複雑性が高いものが世の中にたくさんあると思っているんですけど、人間の心も前提として複雑性が物凄く高いものだと思っているんですね。

──なるほど。

さすけ:で、それを表すのに「悲しい」とかだけじゃ表せない感情があるわけですよね。これをより的確に表すための旅をしているのがミーマイナーなんですけど。「ささくれハート」の場合、「ささくれ」と「ハート」を結びつけた言葉はgoogle検索した限り、少なくとも当時1つも出てこなくて。でも、「ささくれハート」と組み合わせることで描写できる何かしらの心の動きがあるわけなんですよね。それをこの地球上に1個増やすことができた、それをどれだけできるかっていう冒険を2人でしている、というのがテーマなんです。

──そうなんですね。

さすけ:美咲の「スマホに勝てなかった」という歌詞では、パートナーが浮気しているのをむかついた時の心理が描写されて、そこに共感が生まれて癒される傷があったりすると思うんですけど。それが「浮気されて悲しかった」という歌詞だったら、まあそうなんだけど、なんか違うんだよな・・・みたいな。スマホに勝つ・負けるっていう、女の子ならではの嫉妬心とかを新たな切り口で描写していくことに命がけ、というのがミーマイナーの美学かもしれません。

──なるほど。

さすけ:画家さんとか小説家さんとか、一流のアーティストでも芸術を拡張する作業をしている先人はたくさんいるので、そこに仲間入りできるように、謙虚に学びながら芸術を作っていきたいという感じですね。

美咲:その分かりやすい表現じゃなくて、世界にまだ表現されたこともない、私たちしか知らない言葉をいかに生み出せるかというところ(が美学ですね)。だから、周りの評価とかがあるとブレてしまうなと思って、自分たちの感情や軸を大事にしています。

さすけ:<耳の裏のほくろ><柚子胡椒の匙加減>(「ささくれハート」のワンフレーズ)とか、誰も言ってないと思うんですよ。それを持ってくるところを頑張っていて。でも、全部の曲ににそれを適用しているかと言ったら、まあそうでもないんですけどね。伝わりやすいように、(この歌は)ワンテーマでいいフレーズがもう作れたから、あとはそれを伝わりやすいように、あえて解像度を落として書く曲もたくさんあるんですけど…。(ただ、)根底にあるのは、そういう美学です。