スピッツが「美しい鰭」でさらに”若さ”を磨いている件
どんなアーティストでも年を重ねると、音楽性も歌い方も、わりとどこかねちっこくなっていく。
爽やかさを引き換えに、渋さを手にいれるアーティストが多くなっていくわけだ。
年を重ねるというのは、そういうものなのかもしれない、と思う。
でも、ごく稀にだが、時間を逆行するかのように、年々渋さではなく、爽やかさが際立つことになるアーティストもいる。
スピッツは、そんな逆行系バンドの代表格ではないだろうか。
「美しい鰭」を聴いて、そのことをより強く思ったのだった。
「美しい鰭」の話
新曲となる「美しい鰭」を聴くと、そのことがはっきりとわかる。
タイトルこそ、ヒレという言葉を「鰭」という漢字表記にすることで、”渋み”を演出しているように見える。
が、楽曲を聴くと、溢れんばかりのイノセントに触れることになる。
今作は劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』の主題歌ということだが、よく考えたらスピッツの音楽性って、ある種リアルコナンやん、と思わせる出来栄えである。
コナンは”見た目は子ども、頭脳は大人”なのだとしたら、スピッツは”経歴はおっさん、楽曲は少年”そんな心地にさせてくれる。
コナンが仮に工藤新一に戻って、工藤新一の年齢を3倍したとしても、まだ草野マサムネの年齢に追いつかない(!?)という事実に気づく。
なんなら、スピッツ全メンバーは、実は阿笠博士よりも年上(!?)なのだから。
いかにスピッツが不思議な時空の中で君臨しているのかがわかる。
こう考えると、アポトキシン4869よりもアポトキシン4869的な存在感としてスピッツが君臨しているように思うし、黒の組織の謎がどんどん解れる今作のコナンの主題歌にスピッツが主題歌として起用された理由もわかる気がする・・・かもしれない。
まあ、それはさておき、「美しい鰭」という歌がすごく良いのである。
久しぶりにホーンセクションが炸裂したアレンジが良い。
自分はどことなく「謝々!」的なイズムを楽曲に感じたんだけど、確かに「フェイクファー」に収録されていても違和感がない。
時代に左右されない、若さや瑞々しさが「美しい鰭」には宿っているように思うからだ。
ギターの音がクリーン寄りに響かせているのも、この歌が持つイノセント感を際立たせているように思う。
とはいえ、伊達にキャリアを重ねているバンドではないので、楽曲が始まり、メンバーそれぞれが演奏を始めると、その安定感やリズムのキレにぐっとくる場面も多い。
Aメロで定期的に刻まれる、ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ、のリズムもすごく良いし、展開に合わせてギターが自由に表情を変えるのも良い。
結果、この歌って透明感もあるし、爽やかな装いも強い一方、どっしりとしているし、何よりロックバンドとしての切れ味も感じることになるのだ。
スピッツって、どれだけポップな方向に踏み込んだとしても、ロックバンドとしての矜持を忘れない音を鳴らす。
だから、サウンドに圧倒される心地も覚えることになるのだ。
あと、今作は珍しく草野マサムネがサビで華麗なファルセットを響かせているのが、めっちゃ良い。
このファルセットが楽曲の大きなアクセントになっているし、草野マサムネの透き通ったボーカルの透明感をより際立たせるエッセンスにもなっている。
「美しい鰭」の歌詞について
個人的に気に入っているフレーズやワードがいくつかあるので、書き出してみる。
まず、ダーウィンに”さん”を付けているところ。
「海原」「小惑星」「壊れる夜」というワードの登場のさせ方。
そして、何より、”美しい鰭”という言葉を使用することで、魚的な比喩の世界の中に没入させるところ。
この辺りが、草野っぽさを感じる、同じ草野の中でも今の草野っぽさを感じるので、良い。
ところで、草野正宗の歌詞って、比喩と現実の織り交ぜ方が巧みである。
「涙がキラリ☆」なんかは、そんな楽曲の最高峰のひとつと思っているんだけど、今作もこの織り込み方が絶妙なのだ。
美しい鰭、がキーワードになっているし、「流れるまんま」というサビのイメージから、楽曲全体として海の生物が泳いでいるイメージを想像させてくれる。
でも、「よろめく足を踏ん張って」「強がるポーズ」といったワードを挿入することで、海の生物的なイメージはある種の比喩であり、この歌の主人公は等身大の”人間”であることを感じさせてくれる。
この想像を現実?の描写の塩梅が絶妙なのだ。
あと、何気に「秘密を守ってくれてありがとうね もう遠慮せんで放っても大丈夫」というフレーズも良い。
というのも、コナンの主題歌ということを考えると、このフレーズめっちゃ意味深だなあと思うし、色んな意味を重ねた言葉になっているような気がするしで、個人的にすごく鋭いフレーズであるように感じているのだ。
まとめに替えて
・・・なんて感じで、簡単に感想を書いてみた。
「大好物」もめっちゃ良い歌だったけど、「美しい鰭」もめっちゃ良くて、改めて今のスピッツが”一番”輝いていることを実感している自分。
うあーまじでツアーいきたいーでもチケット当たるかな・・・となりそうな完成度になっている「美しい鰭」。
そんな新たな名曲が、ここに誕生をただただ祝福したい、そんな気持ちの今。