スピッツの「スパイダー」について書いてみたい。
一部界隈では、この歌は誘拐の歌であるなんて言われている。
そう思って聴けばそう聞こえるのがマサムネの歌詞の面白いところである。
今回は言葉をひとつひとつ吟味にしながら、歌詞の意味について考えてみたい。
作詞:草野正宗
作曲:草野正宗
可愛い君が〜に汚されて行く
君=かわいい=爽やかなイメージ
僕=冴えない感じ=地下室のようなジメジメなイメージ
というのが大まかなイメージである。
さらに、君が好きなものは老いぼれたピアノ=年上のお金持ちな男性であり、スパイダー=僕とすることで、ピアノとは似ても似つかない、憧れの君の好きなものとは対極の存在として描くわけである。
また、
僕=スパイダー
君=洗いたてのブラウス
という図式が成り立つように言葉が配置されている。
洗いたてのブラウスから想起されるイメージは、君の純朴さと純真さだと思われる、
そんな君の象徴であるブラウスを汚そうとする僕は、何やらやばいことを企んでいるのではないか、とこれまた面白い想像させるわけである。
だから〜走り続ける
誘拐の歌だと言われる最大の所以は、サビのこの歌詞のせいだと思われる。
お似合いには見えない僕が君を奪うというのは「誘拐」でしかないでしょという話であり、僕色に染めていくというのは「誘拐」したからこそ為されることだと推測されるわけだ。
千の夜という言葉からもある通り、僕の「筋書き通り」は、たくさんの月日を必要とするものであることがわかるため、その空気はさらに不穏なものになるわけだ。
ただ、これは「君を奪う」という言葉の捉え方によって変わる話だ。
本来は誰かが所有するべき「君」という存在を物理的に奪うのであれば、それは「誘拐」に値する。
しかし、奪うというのが「君の心」なのであれば、単に僕は「君を惚れさせてやる」という決意の歌に早変わりする。
この辺りをどう解釈していくのか、ひとまず歌詞の続きをみてみよう。
可愛い君を〜戻れないから
とっておきの嘘がどんな言葉かはわからないが、君を惚れさせるために、巧みな話術を披露したことだけは推測される。
この辺りも、幼女を騙して誘拐する根暗なおっさん像がチラつく人もいるかもしれないが、そういう想像は一旦スルーしておく。
次に出てくる「ハート型のライター」であるが、これはもちろん比喩であり、自分の心に炎が宿った瞬間を「ハート型のライターに火をつけられた」と形容するわけである。
当然ながらハート型のライターに火をつけられたのは、君という存在がいたからである。
なのに、ここに「しらんぷり」という言葉を挟むのはどういうことだろうか。
これはおそらく、君の知らないところで僕はますます君のことを好きになっていく、というニュアンスが込められていると思う。
坂道で加速するということは、この坂道は下り坂であることが予想されるわけだが、下に落ちていくというイメージは草野の歌において、破滅を意味することが多い。
「こがね色」とあるように、この坂道は希望に満ち溢れているようなものの気もするが、下に向かうというイメージはなんだか不幸になっていきそうな予感もする。
一体何をイメージした言葉なのだろうか。
だから〜走り続ける
この後、同じサビを何回も繰り返すことになるわけだが、一回だけ違うフレーズが紛れる。
「力尽きたときは そのときで笑いとばしてよ」
これは一体どういう意味だろうか。
力尽きるのは僕のことだと思うのだが、そんな僕のことを笑いとばすのは誰だろうか?
この歌詞で考えるならば、君しかいないと思う。
で、君が笑うような仲なのだとすれば、「誘拐」ってなんかおかしくね?となるわけだ。
今まで出てきたイメージを繋ぎ合わせると、こんなイメージが出来上がる。
冴えない僕はとにかく君に夢中で、なんとか口から出た嘘を駆使することで、ついに付き合うことができました。
付き合ってからのプランは完璧で、まさしく洗いたてのブラウスを汚していくように、自分色に染める計画もできてはいる。
このプランは千の夜を費やして遂行させる計画であり、(この千の夜が終わればプロポーズでもするつもりなのかもしれない)デートを含め全部エスコートするから君は一緒に付いてきてねと言いつつも、どっかで失敗して「おれって、全然だーめーだー」ってことになるかもしれないから、その時は笑い飛ばしてね、みたいな感じなのではないかと思うのだ。
そして、一度付き合うという選択をしたら、もう二度と同じ関係に戻ることができないという意味で、それは「こがねの色の坂道を加速する」ことに等しいわけだ。(まさしく、幸せである一方、不幸の始まりでもあるともいえるわけだ)。
だから、この歌はダークとか怖いというよりも、むしろ甘酸っぱい歌なのではないか?
そんなことを思うのだ。
スパイダーのように冴えない僕が、見栄を張って可愛い君を捕まえ、なんとか幸せにするための「見栄」の話なのである。
そして、「逃げる」という言葉を使ったのは、僕は冴えないスパイダーのような人間であり、うっかり君の前に老いぼれたピアノのような素敵な男性が現れたら、君の心はそっちになびくかもしれないと不安だったからこそ、君と付き合う日々を「遠くまで逃げる」とか「走り続ける」なんて言葉で形容したのではないか、と思うわけである。
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