前説
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冒頭のフレーズに触れるだけで、「あ、これはヤバイ歌に違いない」と思う歌がある。
冒頭のフレーズが異常に印象に残る、そういう類の歌だ。
これって、フレーズの意味合いにただただ惹かれるというよりも、言葉そのものが印象に残る、といった感覚の方が強いかもしれない。
最初のフレーズがずっと反芻しているというか、頭の奥深くにしっかりこべりついているというか。
で。
フレデリックの「名悪役」もそういう歌だと思うのだ。
本編
フレデリックの「名悪役」について
この歌は、こんなフレーズから始まる。
思い出にされるくらいなら二度とあなたに歌わないよ
演じてやったんだ
思わず、ハッとしてしまうフレーズ。
このフレーズが具体的に何を示すのか、ということを考える前にもうすでにフレーズが頭の中を駆け巡る印象を受けるのだ。
いや、もちろん、フレーズ自体の強度も相当なものではある。
捉え方によっては、かなり意味合いの強いの言葉になってしまうのだから。
ある種の<突き放し>みたいなものをこのフレーズから覚えてしまう恐れだってあるわけだから。
そもそも「名悪役」というタイトルがかなりパンチが効いているよなーと思うしね。
いつだってフレーズの切れ味が強かったフレデリック
ところで、フレデリックというバンドに、皆さんはどういうイメージを持っているだろうか。
きっと、人によって、そのイメージは大きく変わることだと思う。
特に「オドループ」辺りで、バンドのイメージが止まっている人とそうでない人で変わるだろうし、「オドループ」以後のフレデリックの音楽を聴いていたとしても、その聴き方・距離感で捉え方は変わってくると思う。
まあ、各々の意見は心の中で描いてもらうとして、自分の意見を完結に述べると、フレデリックの歌詞ってけっこう批評性みたいなものをにじませることが多いよなあと思っていて。
どういうことか。
フレデリックの歌って一見すると、メロディーに言葉を当てはめただけの、そこまで深い意味のない言葉の羅列ではないかと思うこともある。
んだけど、しっかりと言葉の意味を掘り下げていくと、そこにかなり明確なメッセージ性をみてとることができるのだ。
それこそ、「オドループ」だって、そういう歌だと思う。
この歌は、風営法に対する批評的な眼差しを歌の中にはらんでいたり、踊っている夜だけではなく、「踊ってない夜」も肯定している眼差しがあったりと、単純なロック系ダンスソングとスルーできない奥深さを楽曲に忍ばせている。
ちゃんと聴けば聴くほど、このフレーズにはこういう意味合いもはらんでいたのか、という奥深さに気づくことができると思うのだ。
「オドループ」と同様、疾走感のあるナンバーとして人気の「オンリーワンダー」でも、同じような鋭さを感じることができる。
例えば、この歌がリリースされた当時のフェスシーンは、とにかく盛り上げること至上主義で、「全員を同じ動きにさせること」が重要で、そういうリズムアプローチが正義とされがちだった。
だけど、フレデリックは早い段階からそういうアプローチに対する懐疑性を音楽の中に投影していた気がしていて、「オンリーワンダー」でもそういうことを言葉にしている気がするのだ(あくまでも、気がするという話ではあるけども)。
だからこそ、<全員>ではなく、オンリーな君に<歌ってたんだ>ということを告げる歌構造になっているし、「ワンダーテンダー」ではなく「オンリーワンダー」というタイトルで、この歌を作ったのではないかと勝手に思っている。
まあ、意味合いはともかく<歌ってんだ>というフレーズを用いることで、フレデリックの歌うことに対する姿勢を歌の中に忍ばせているのは確かだと思うわけだ。
そう考えたとき、実は「オンリーワンダー」と「名悪役」では、ある種の繋がりがあるように思えてくるのだ。
どちらの歌も<〜んだ>という言葉を使い、印象的なフレーズを作っている。
<〜んだ>のフレーズを用いることで、自分たちのスタンスのようなものを歌詞に落とし込んでいる気がするからだ。
少なくとも、「名悪役」は記念碑的なライブであった日本武道館ライブのラストに披露したことからもわかるとおり、バンド的にも重要な位置づけの歌となっている。
それだけ強いメッセージ性を歌に忍ばせている、と言えると思うわけだ。
基本的にバンドの多くはメッセージ性の強い曲はアップテンポの曲よりも、バラードに忍ばせることが多い気がするが、フレデリックは疾走感のあるナンバー、BPMの速いナンバーでもゴリゴリにメッセージを忍ばせてくる。
だからこそ、ただただノリノリになれるだけ以上の価値を楽曲から感じることができて、それがフレデリックの面白みに繋がっているように思うのである。
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より進化したフレデリズム
もうひとつ、今作を聴いてぐっときたポイントがある。
それは、フレデリック特有のサウンドメイクとリズムアプローチ。
フレデリックの音って、他のバンドにはない個性が花開いているように思う。
その理由を具体的にみていくと、音の色とリズムアプローチにあると思っていて。
ちょっとレトロな色合いを帯びているシンセサイザーの音色。
その中を独特の響きをもたせるギターアプローチが駆け巡る。
また、この歌はフレデリック史上、最高のBPMを誇っているという触れ込みである。
が、この歌、単に速さだけをいかした楽曲というわけでもなく、細かくリズムアプローチが変わる歌にもなっている。
AメロとBメロでもリズムアプローチは変わっていくし、サビでもラストのフレーズとそれ以外のフレーズでリズムアプローチを変えていく。
疾走感がある、ということにあぐらをかくのではなく、むしろ速いからこそリズムパターンの潤沢さを提示するような凄まじさがこの歌にはある。
フレデリズムの真髄のようなものを、この歌から感じることができるわけだ。
だからこそ、聴けば聴くほどに「ああ、この歌はフレデリックの歌だなあ」と思わせてしまう心地よさがある。
「名悪役」がグッと来るのは、こういうところに自分たちの色をしっかり提示しているからだと思うわけだ。
まとめ
そんなこんなでフレデリックの「名悪役」が好きで仕方がない、というのがこの記事の本筋である。
○○系みたいな言葉ではくくれない領域に、このバンドがやってきたことを改めて感じる。
これから先も、このバンドにしか魅せ方、アプローチで次の音楽を切り開いていくのだと思う。
悪役を買って出るまでもなく、思い出になることはない存在感を、これからもフレデリックは魅せつけるのではないかと思うのである。
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