前説
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ある程度、バンドが人気になると、必ず沸いてくるタイプの人間がいる。
その代表が、「バンドマンをアイドル視するファン」だ。
こういう奴らはどこからともかく現れて、我が物顔でそのバンドの最前をキープするようになる。
路上にうんこが放置されるとそこにハエが沸くように、人気バンドにアイドル視するファンが沸いてしまうのは、もはや自然の摂理なのかもしれない。
うんこに群がるハエと違うのは、奴らはとんでもなく声が大きいところ。
SNS上のリプ欄でも、ライブの会場でも、ホタルのケツにある光のように、あるいはセミが交尾のために繰り返し続ける猛烈な鳴き声のように、常に強い主張を繰り返し、その存在をアピールしていく。
数年前、いや、数ヶ月前はあれほどまったりしていたオーディエンスの空気は、一気に瓦解してしまう。
ぷよぷよの連鎖が決まってしまった時のように、テトリスの長い棒が隙間にかっちりハマってしまったときのように、あっという間に、それまでに築けあげたものを消え失せてしまうのだ。
ライブで黄色い歓声が空間を詰め尽くすようになってしまった頃には、もう後戻りすることはできない。
そして、奴らは恥ずかしげもなく叫ぶのだ。
やれ私は○○担だ!とか、いや私は○○推しなんだから一緒にしないでくれ!とか。
や、やめてくれ!!!!!
バンドマンは、たまごっちやポケモンとワケが違うのだ!
それぞれ好きなものを選んで愛でましょう!とか、そういうシステムではないのだ。
メンバー全員が揃って、バンドは完成するのだから。
しかし、ポケモンを厳選するオタクのごとく、バンドマンのことをただただ個体で見つめ、愛し始めてしまうファンは、それこそポケモンのように増殖していくのである。
むむむ…。
ま、まあ…それは仕方ない……。
沸いてしまうものは、どうしようもないのだから。
ただ、どうしてもそういう存在を我慢することができず、そういう香ばしいファンをみると、思わず苦言を呈してしまうファンが、出てきてしまう。
これもまた、世の摂理なのである。
確かにわかるのだ。
気持ちは、すごく、よくわかるのだ。
あまりにも自分では理解できない物差しで、自分が大好きなバンドマンを愛でている人を見ると、何とも言えない感情を持ってしまう、その気持ちが。
バンドマンはバンドマンであって、アイドルではないのだから。
曲が良くて、ライブがカッコいいから好きなのに、キャーキャー喚く奴らをみると、なんだか腑に落ちない気持ちになる、そのことがよくわかるのだ。
心の中に小藪を飼っている人間なら、そういう香ばしいファンどもをみると、冷たい眼差しのままに静かにブチ切れてしまうのも、無理からぬことなのかもしれない。
だいたいそのバンドマン、言うほどかっこよくないやんけ!顔で売っているバンドマンでないのなら、なおのこと、そういうモヤモヤが沸いてしまう気持ち、わかるのである。
でも、だ。
人の数だけ価値観はある。
その価値観が、人を傷つける類でないのなら、認めて上げるしかないよなーと思うのだ。
そういう人がいるおかげで、バンドマンは安心して、時間をかけて、クオリティーの高い作品作りに精を出すことができるのだから。
もっといえば、特定のバンドがたくさんのお金を稼いでくれるからこそ、まだ売れていない他のバンドに、お金を投じて、次なるチャンスの場を与えることができるのだから。
普段は音楽にお金を投じない人も一緒になってお金を投じる。
そういう機会を作るこそが、結果としてそのバンドと音楽業界の発展に大きな貢献をするのだ。
だから、ここは笑顔のカリスマであるWANIMAを見習って、己の表情筋を強引に緩ませて、そういう香ばしいファンのことも笑って許してやろうぜ。
な?
許してやろう!
な!
そう思って「アイドル視するファンをよくディスるアカウント」のSNSをよ〜〜〜く見てみてみると、おかしなことに気づくのだ。
そのディスるアカウントもまた、あろうことか、バンドマンの決め顔を堂々とアイコンにしているのだ。
んんん??????????????
ここでほんの少し違和感を覚えたので、そのアカウントのツイートを覗いてみる。
すると、出るわ出るわ香ばしいツイートの数々が。
曰く、
「○○くん、可愛い〜〜〜〜〜〜〜〜♡♡♡♡♡♡。特にこのMVのこのシーンの髪の毛のなびき方とかめっちゃ可愛い!好き!抱いて!」「このときの○○の首筋ってめちゃエロくない?めっちゃ吸いたいんやけど?ってか、咬みつきたい。首に痕跡を残したい。マジで」「興奮しすぎて、鼻血出てきた。死ぬ。推しが尊すぎて死ぬ」「JKよりKj、これだけはガチ」
うわあああああああああああああああああああああああ。
お、おまえも、やん。バンドマンをアイドル視して、過剰に愛でるタイプの奴やん。あなたもそういう典型の一人ですや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!
本編
圧倒的なブーメランは大空を滑空する。
そしてSNS上に漂う全てのディスるアカウントめがけて、ぶっ飛んでくるのだ。
今日もまた一人、そのブーメランに殴られる。
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