いやね、正直それまでそんなにA.B.C-Zの音楽は聴いてこなかったんですよ。でも、ふとしたタイミングで「Cocktail」を聴いてから、A.B.C-Zの音楽、すごく面白いぞ、ということに気づいた自分がいて。
なんというか、自分のツボの音楽だった、という言い方が正しいのかもしれない。
近年のダンスグループの楽曲って、90年代のポップスに親しんできた自分にとっての”キャッチー”と異なるベクトルでメロディーを紡ぐことが多い。その新しさももちろん面白くてワクワクすることが多いんだけど、そういう音楽ばかりだと「違うやつも聴きたい。90年代のポップスにも繋がるような、歌が際立つ口ずさみやすさが際立つメロディーのやつ」みたいなことを思うわけだ。
で、A.B.C-Zの音楽って、口ずさみやすさを伴わせながら、スタイリッシュに音楽世界を構築する気持ちよさがあることに気づいたのだった。今回の記事で取り上げる「NO MORE YOU」でも、そういう要素が輝いていた。王道的な失恋の物語に、どんなリスナーでも理解できるようなエピソードを散りばめながら構成された歌詞世界。爽快さがベースにありながらも、失恋の物語があるからこそ、どことなく香る切ない香りのバランス感が絶妙で。ポップで、リズミカルな音使いのサウンドで楽曲をもり立てる。ベタな要素もあるし、懐かしさもあるし、でも現代的な洗練さや、新しさも組み合わせながら、A.B.C-Zのポップスを着地させた心地を覚えるわけだ。
そんな「NO MORE YOU」の楽曲的な魅力を、自分なりの視点で言葉にしてみたいと思う。
本編
歌詞・ボーカル軸の話
メンバー全員のボーカルがそれぞれスポットを当てながら展開される歌の流れが良い。しかも、全員のボーカルが、この歌の世界観にハマる歌声をしている。例えばだけど、ここに一人だけドスの効いたボーカルを響かせるとしたら、この歌においては「ちょっと違うかも・・・」となってしまうかもしれない。でも、全員が爽やかさがありながらも、丁寧に感情を描くようなボーカルを響かせるからこそ、「NO MORE YOU」という歌詞の世界を絶対的なものにしていくのだ。
この歌声から連想される主人公の像と、歌詞で描く心情のトーンがぴったりとハマるというか。
こういう出会い方って、意外とありそうでないよなーと思う。どんどん「今」の流行りを優先的に掘り下げるグループが多いからこそ、A.B.C-Zが持つ個性が際立つし、この歌の持つ尊さも輝いている印象を受けるのだ。甘さもあるし、柔らかさもあるし、力強さもあるし、透明感もあるし、微妙な揺らぎをボーカルの中に内包している秀逸さもあるし。
特にDメロ終わってから、最後のサビに向かっていく流れのボーカルのスポットの当たり方が絶妙。ドラマにおいて「カメラ割り」によってそこで描く物語の際立ち方が変わっていくのと同様に、「NO MORE YOU」においても歌声のスポットの当たり方が絶妙だからこそ、歌の中で描く物語が、何とも言えない憂いを帯びて到達する心地を覚えるのだ。・・・とはいえ、切なさは香りつつも、明るくてポップで耳馴染みが良くて、何度も聴きたくなる構成になっているのも良い。
このあたりも、ボーカルが果たしている役割が大きいように思う。
メロディー。サウンド軸の話
メロディーの魅力を端的に言うなら、キャッチー。
あえて言えば、カラオケでも歌いやすいような人懐っこさがある。だからこそ、普段音楽を聴かないようなリスナーでも楽しめる歌になっているし、90年代あたりのポップスが突き刺さった人間ほど、このメロディーの洗練具合は良く刺さるのではないかと思うのである。英語のフレーズも挿入されているが、そういうフレーズも浮くことなく、綺麗に歌の中に収まっているのが特徴。
とはいえ、ポップスど真ん中なのかというと、音使いは華やかで多種多様。様々なタイプの音が美しく溶け合い、モダンで絢爛な音の世界を作り上げる。打楽器の音色も絶妙だし、ギターの音のバランスやエフェクトのかけ方も絶妙である。あえて言えば、昔のアニメ主題歌って歌の主役の度合いが高いけれど、裏で鳴っているサウンドは玄人好みのそれだったりすることが多かったけれど、「NO MORE YOU」もまた、そういう面白さがある。
上モノの音も、土台を組み立てる音も、色んなアプローチでスポットに当たるから、スリリングでリズミカルで気持ちの良い音楽体験を手に入れることになる。
キャッチーでシンプルなようにも聞こえるが、ボーカル、メロディー、サウンドがそれぞれ職人的な炸裂をしているのが、「NO MORE YOU」の凄いところで、しかもそれを一切悟らせないような人懐っこさがあるのだ。
まとめに替えて
というわけで、A.B.C-Zの「NO MORE YOU」を自分が好きと思うポイントを簡単に言葉にしてみた。
「NO MORE YOU」が収録されているアルバム『CRAZY ROMANTIC!』も面白い歌が炸裂している。<あの頃>をリバイバルさせながらも、確かに令和の今の音楽シーンに繋がる、新しいカタチのポップスを拡張しているような予感。そういうものを感じさせてくれる面白いアルバムだったから。

