前説
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鍵盤のパートがメンバーにいるバンド、というのは日本のバンドシーンにもたくさんいる。
ただ、そのキーボードなりピアノなりをバンド内でどう輝かせているのかはバンドごとに違う。(まあ、これは鍵盤に限らず、すべての楽器に言えることではあるんだけど)。
その中でも、自分たちの世界観を生み出すうえで、鍵盤のサウンドが秀逸だなあと思うバンドが一組いる。
この記事では、そのバンドのことを紹介したい。
アイビーカラーというバンドである。
本編
切なくて解像度の高い恋愛曲の数々
アイビーカラーの楽曲は切ないテイストのものが多い。
これは、鍵盤のパートが果たしている役割も大きい。
ピアノが美しい旋律を奏でることで、言葉が語る物語の解像度を高めているのだ。
そう。
アイビーカラーの歌って、元々の歌詞が描いていることも切ないんだけど、それにマッチしたメロディーの美しさと、その世界を際立たせるようなバンドサウンドがあって圧倒的なものになっている。
歌が中心にあって、そこをもりたてるためのサウンドがある。
そういうバランスがあるからこそ、ぐっと世界に惹き込まれるのだ。
とはいえ、ベースにある歌詞も素晴らしいものが多くて。
例えば、「夏の終わり」。
この歌は視覚や聴覚をはじめ、五感による情景を丁寧に描いている。
<君の手に触れる><肩が触れ合っている>というフレーズでは触覚による描写を丁寧に行っているし、キスをしたことによるサイダーの味をフレーズに取り込むことで、味覚の描写も丁寧に行っている。
「花火の匂い」というフレーズでは、当然のように嗅覚の部分にも触れている。
この主人公が感じたことを五感すべてで丁寧に描写するからこそ、「夏の終わり」という楽曲の解像度が高くなっている。
そんな印象を受けるのだ。
それが楽曲の切なさとして、はっきりと聴き手に心に入り込んでくる。
言ってしまえば、楽曲に感情移入しやすくなるのだと思う。
恋愛ソングといっても、心に宿している感情を赤裸々に語るだけの歌も多いけれど、アイビーカラーはそこで終わらない。
「夏の終わり」はどこまでも五感を通じて丁寧に描写するから(かつ、説明過多にならず、必要な描写のみを描いているところが良い)こそ、自分的にぐっとくるのである。
そして、それを言葉だけのものにして終わらせるのではなく、バンドサウンドがより丁寧な表現をするからこそ、その解像度はより高い次元になっていくのだと思う。
鍵盤の旋律はそういう丁寧さの要素のひとつだと思っている。
言葉とサウンドの相乗効果が巧みだからこそ、アイビーカラーの楽曲はどこまでも輝いていると思うのだ。
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「冬のあとがき」について
アイビーカラーの楽曲は季節を丁寧に切り取ったものが多い。
昨年発表された作品でも「夏空」や「冬のあとがき」などの楽曲を挙げることができる。
その中でも、「冬のあとがき」が自分的に良いなあーと思っていて。
メロディーとサウンドの美しさが洗練された、アイビーカラーならではのアプローチが秀逸な一曲である。
歌の世界にぐっと惹き込まれてしまい、まるで短編映画を観ているような気分にさせられる。
この歌が良いなあと思うのは、心情と風景描写を巧みにマッチしているところ。
聴いてもらうとわかるけれど、空の白さと心の白さを巧みにリンクさせている。
さらに、この歌でも先ほど述べた五感の描写をさらっと行われている。
痛くなるほどの冷たい冬は はじめてだよ
特にこのフレーズが自分は秀逸だと思っていて。
きっとこれって、今までは寒い冬でも君と手を繋いでいたから、手が痛くなるほど冷たくなることはなかった、でも、今では僕の手をにぎる君の手はない、という描写だと思うのだ。
ここの「痛さ」は、二重の意味があって、ひとつは、今まで触れていたものに触れなくなったという触覚的な描写に繋がっているように思うわけだ。
もうひとつは、悲しみで心が痛いという意味。
つまり、ここでも五感による描写と心理描写が巧みに繋がっているわけだ。
「切ない」を表現するうえで、アイビーカラーはいくつものレイラーで表現を行っているからこそ、単純な切なさ以上の感動を覚えるのである。
「冬のあとがき」を聴くと、そんなことを感じるのである。
進化するバンドの表現力
とはいえ、アイビーカラーが単純な切ない系恋愛ソングを歌うバンドなのかといえば、そんなことはない。
昨年リリースされた「WHITE」を聴いていると、そのことを強く感じる。
「L」はアグレッシブなバンドサウンドが印象的な疾走感のあるナンバーだし、「カフェ」は洒脱なギターのカッティングが印象的なナンバーになっている。
切ないサウンド、楽曲をドラマチックに盛り上げるサウンドだけを行うバンドではない。
「WHITE」においては、アイビーカラーの幅広いサウンドアプローチを体感できるわけである。
まとめ
というわけで、どんどん自分たち表現を進化させているアイビーカラーの今後が楽しみという話。
今年はどういう一手を投じて、音楽シーンに存在感を示すのか。
それが楽しみで仕方がない。
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