前説

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毎年、年末にベストアルバムの記事を書いているので、今年も2020年の締めくくりとして書きたいと思う。

なお、一年間で好きなアルバムをランキング形式で紹介するのはこの記事が最初で最後と決めている。

というのも、ランキングで好きなものを紹介するのってわりと罪深いよなーと思っていて。

本来的には音楽なんて順位付けするものではないというのもあるし。

技術的な良い・悪いは付けられなくもないんだけど、音楽の良し悪しってそこだけで決められるものではないし(しかも、ジャンルがミックスすれば、なおのこと大変)

ただ、順位をつけることで見通せるものがあるのも確かだし、新しいものと出会うきっかけとしてランキングというのは便利なものであることも確かなので、年に一回だけこういう形式で好きなものを発表しようという算段なのである。

ランキングのルールとして、下記を設定させてもらった。

・選出アルバムは全て“邦楽”。ただし”邦楽“であれば、メジャー・インディーズ、ジャンルなどは問わずに選出する。

・オリジナルアルバム限定(ミニアルバム、epは除く)

・一組のアーティストの一作品まで

また、このランキングはあくまでも「アルバムランキング」なので、楽曲単体ではなく、アルバム全体を通して聴いたときの「良いなあ」を基本的には大事にしている。

まあ、こいつの好みは、こういう音楽なんだな・・・というものをなんとなく感じてもらえたら嬉しい限り。

それでは、どうぞ。

20位〜11位

第20位:ヤバイTシャツ屋さん『You need the Tank-top』

ヤバイTシャツ屋さんというキャッチーでコミカルなバンドとイメージを持っている人が多いと思う。

もちろん、そういうユーモアもヤバTの持ち味のひとつではある。

アルバム全体をみても、曲はキャッチーでノリノリ、でもタイトルはふざけていて歌詞の中身はない歌がわりと多い。

どっからそのアイデア降りてきてんねん、とツッコミたくなるような”ネタ曲”も豊富に収録されている。

でも、ヤバTって笑いの部分だけに特化しているバンドかといえば、そんなことはない。

というよりも、きっと心の奥底には誰よりも熱いものを持っているんだけど、照れ隠しで楽曲にユーモアを織り交ぜてしまうバンドなのかなーと思っていて。

アルバムを聴いていると、ふいにバンドが持つ熱い部分が顔を覗かせるのだ。

「Give me the Tank-top」はきっとパンクロックを鳴らす衝動と喜びを込めた歌なのだと思うし、「はたちのうた」「癒着☆NIGHT」ではバンドの核となるソウルフルな部分を体感できる。

ラストはトドメを刺すかのように「寿命で死ぬまで」で決める。

人の命という重いテーマに対して、ヤバTならでの角度で表現に落とし込む。

楽曲単体ではなく、アルバムをフルで聴くからこそ、ヤバTというバンドのユーモアと熱さを体感できる。

『You need the Tank-top』はそんな作品のように思う。

ドキドキする熱さに触れての選出。

 

関連記事:ヤバイTシャツ屋さんが持つユーモアとかっこよさについて

 

第19位:角銅真実 『oar』

パーカッション奏者としてceroや原田知世などのアーティストをサポートしつつ、CM、映画音楽、舞台音楽などに楽曲を提供している角銅真実。

すでにアーティストとしてマルチにその才能を輝かせているわけだが、『oar』は角銅真実にとってメジャーデビュアルバムという位置づけになる。

今までのソロ作ではインストものを織り交ぜていたが、『oar』は歌を中心にしたアルバムとなっており、ギターの音色とともに角銅真実の歌声を堪能できる作品になっている。

歌中心の作品とはいえど、いわゆるテレビで流れるタイプの音楽を聴いている人からすれば、角銅真実の音楽はきっと新鮮に映るはず。

ビートに対するアプローチであったり、曲の盛り上げ方はいわゆるポップスに人たちと違うのだ。

作品にはフィッシュマンズの「いかれたBaby」のカバーなども収録されているが、他アーティストの作品をどのように解釈しているのかを聴き比べるだけでも、角銅真実の音楽的才能の豊かさを実感できると思う。

そういう才能にぐっときた結果の選出。

第18位:This is LAST『別に、どうでもいい、知らない』

率直かつ赤裸々。

それは、言葉にもサウンドにも現れていて、その尖ったストレートに撃ち抜かれてしまう。

This is LASTの音楽に関して言えば、シンプルであることそのものが魅力になっている。

歌詞に込められたエモーショナルさを表現するにはこのサウンドしかない。

そんな感じがするのだ。

アルバムが始まってから最後まで、一切その表現に影を落とすことはない。

「左耳にピアスをしない理由」、「ひどい癖」、「愛憎」、「殺文句」と、君に対する描き方には多少の違いはあっても、菊池陽報の実直なる心情を赤裸々に綴った言葉が連続していく。

そして、最後まで駆け抜けたあと、最後にやってくる楽曲のタイトルが「病んでるくらいがちょうどいいね」。

この塩梅が絶妙だなーと思っていて。

この歌がアルバム全体を総括しているわけではないんだろうけど、今までのことを「病んでる」として、それを「ちょうどいい」と肯定できるのだとしたら、それは言葉の選び方として腑に落ちるなーなんて思ったのである。

サウンドのジャンルは比較的統一しているが、各楽器のアプローチは曲ごとに違っていて、限定したところを広げていく感じも、このアルバムの良いところ。

 

関連記事:This is LASTというバンドを自分が好きな理由

 

第17位:LAMP IN TERREN 『FRAGILE』

こういう言い方をすると少し怒られるかもしれないけれど、LAMP IN TERRENの『FRAGILE』は、どこかBUMP OF CHICKENの雰囲気を感じる。

というのも、アルバムの冒頭を飾る「宇宙船六畳間号」が、宇宙を冒険するようなワクワクを感じる楽曲で、この感じが初めてBUMP OF CHICKENと出会ったときの、具体的に言えば『jupiter』に出会ったときのワクワクと通じるのだ。

全編に漂う、ボーカルの優しさと温かさにも、どこか通ずるものを覚えたしね。

「EYE」や「チョコレート」なんかは、今のLAMP IN TERRENだからこその、冬場に飲む温かいココアのような優しく、ほっと息をつけるバラードのように思う。

ただ、こういう書き方をすると、今作はBUMP OF CHICKENの影を引きずった作品なのかと思われるかもだけど、それは大きな誤解であることはここで述べておきたい。

今作は冒頭では宇宙規模の壮大感みたいなものを感じるんだけど、アルバム全体の感触としてはむしろ壮大な方向に向かうのではなく、ある種の生活感が見えてくる。

素朴さ、という言葉に置き換えることができるのかもしれない。

LAMP IN TERRENの背伸びのしていない魅力が炸裂している気がして『FRAGILE』にぐっとくるのだ。

あと、何気に「ほむらの果て」のようなロック色の強い既出曲は外して、ミディアムテンポの楽曲10曲に収めたところも良いなあと思う。

これによって、今のLAMP IN TERRENの良さがぎゅっと詰まった気がするし、アルバムを全体で捉えたときの「良いなあ」が大きく増したのだった。

 

関連記事:LAMP IN TERRENのバラードの味わいが絶妙な件

 

第16位:Halo at 四畳半 『ANATOMIES』

Halo at 四畳半ってこんなアプローチもするバンドなんだ!

そういう驚きと感動が『ANATOMIES』という作品にはあった。

瑞々しい輝きを放つバンドとそれ以外の楽器の音の融合が美しい「イノセント・プレイ」や、ピアノの音が切なくも優しく響く「蘇生」と、Halo at 四畳半の新しさを魅せつつも、このバンドの良さが際立っている。

アレンジの幅を広げることで、そのバンドの個性が失われることも場合によってはあるんだけど、Halo at 四畳半の『ANATOMIES』は、その逆。

もともと幻想的な言葉選びや世界観が膨らむ創造的なフレーズがHalo at 四畳半の持ち味であったわけだけど、そういう世界観を広げるうえで、バンド以外の音が果たしている役割がとても大きい。

そしてバンド以外の音が際立つ歌があるからこそ、「レプリカ」や「疾走」のような攻撃的なロックチューンがより美しく輝いている。

そうなのだ。

なにより土台となるバンドサウンドが洗練されているからこそ、どの歌もその歌に相応しい輝きを放っているのだ。

何をしたとしても、Halo at 四畳半の音楽になるという自信があるからこそだと思うし、実際『ANATOMIES』は紛いもなくHalo at 四畳半の過去最高を更新するアルバムになっている。

 

関連記事:Halo at 四畳半というバンドについて

 

第15位:秋山黄色『From DROPOUT』

ロックという言葉って、いつしかバンドのものになっていた節がある。

「ロックだな」という褒め言葉は、ギターが炸裂しているバンドに向けて使われることが恒常的になりつつあった。

しかし、そんな時代はもう終わりだ。

そんなことを通告するかのように、秋山黄色の『From DROPOUT』は圧倒的なロック感を作品の中に閉じ込めている。

もちろん、「Caffeine」のようにエレキギターの歪みがサウンドのメインじゃない楽曲もあって、作品としてのカラーとしては多様なんだけど、アルバムをトータルでみたときに感じるのは、秋山黄色の圧倒的なロック性なのだ。

それはいわゆるバンドアレンジが多いから、というだけの話ではない。

ボーカルに宿した感情の色だとか、迷いを内包しつつも最終的には力強いフレーズが散見されるとか、そういう部分にもはっきりとロックの色が見える。

トータル、「From DROPOUT」からはどこまでも強いロック色を感じるのだ。

秋山黄色だからこそ紡ぐことができるロックが、このアルバムには込められている。

だって、タイトルが『フロム・ドロップアウト』だぜ?

ジャケット含めて、秋山黄色の人生観がこのアルバムに投影されているように思うのだ。

”ドロップアウト”した人間だからこその容赦のない表現。

一人だけいる部屋で、ひっそりと内面に宿した何かが大きな音になってアウトプットされたときの興奮は計り知れないものがある。

他のアーティストのアルバムにはない衝動がこのアルバムには、あるのだ。

 

関連記事:辛いときこそ胸に刺さる秋山黄色の話

 

第14位:iri『Sparkle』

純粋に歌が上手い。

低音をクールにきめてくるiriの歌声に聴き惚れてしまうのだ。

ボーカルを聴くだけで、この人、絶対リズム感良いわ、っていうのがひしひしと伝わってくる。

アーティストとして輝くべき星に生まれたボーカルな感じがする、とでも言えばいいだろうか。

それくらいに歌声にスキがないし、妥協がないのだ。

愛嬌とかキャラクター性とかではなく、パフォーマンスで魅了してしまうタイプの人間である。

そういうiriが紡ぐ10曲なわけで、どの歌も完成度が高い。

ミーハーなので、自分はなんだかんだ「Sparkle」が好きなんだけど、本当にどの楽曲もクオリティーが高い

日本のR&Bに新たな可能性を感じさせる「Sparkle」というアルバム。

マジでリズムの部分もブルースの部分もゴリゴリに感じさせる。

そのゴリゴリさは「エグい」という言葉で表現してもいいレベル。

2020年を代表する作品のひとつと言っても過言ではない。

第13位:Sexy Zone 『POP×STEP!?』

極上ポップスの玉手箱。

自分にとって「POP×STEP!?」は、そういうアルバムである。

昨年までそんなに積極的に聴いてこなかったSexy Zoneにハマることになったのは、間違いなくこのアルバムに出会ったから。

Sexy Zoneの歌って、どの歌もサウンドにものすごくこだわっていて、かつどんなタイプの歌もメンバーがしっかり歌いこなしているところが印象的なのだ。

「極東DANCE」はギターのアレンジが強めのダンスナンバー。

作り込んだサウンドも聞き惚れるし、リズムカルなビートにも引き込まれるナンバーだ。

ポップスという冠に相応しい楽曲だなあ。

なんて思っていたら、「MELODY」のようなメロウでおしゃれな歌も歌いこなしてくる。

この歌はトラックメイカーとしても有名なtofubeats提供の楽曲。

なんだけど、tofubeatsの個性が発揮されつつも、きっちりSexy Zone の歌になっているところが最大の注目ポイントだよなーと思っていて。

tofubeatsのことを知っていれば、こんなにもtofubeatsの歌であることに納得する歌もないと思うから。

でも、「MELODY」を聴けば、ちゃんとSexy Zoneの歌になっているのだ。

Sexy Zoneというアーティストがいかに優れた集団であるかを実感できる一曲だと思う。

最初から最後までクオリティーが高い楽曲を収録した「POP×STEP!?」というアルバムのカラフルさが、この作品の最大の見どころだと思う。

日本のポップスに新たな可能性を投じた一作になっている。

 

関連記事:Sexy Zoneを聴いてこなかった人間による「POP × STEP!?」評

 

第12位:パスピエ『synonym』

このバンド、どこまで進化するんだ。

そう思わされた一作。

もともと百面相みたいに作品ごとに違う引き出しとアイデアを見せ付けてくるバンドではあった。

でも、そろそろ底をみせたっていいはずなのに、まだまだパスピエは新しい一面をみせつづける。

「tika」のようなパスピエらしいアジアンチックな楽曲があると思えば、「Q」のようなソリッドかつ芸術的な変則的バンドサウンドをお見舞いする。

そもそも「synonym」の曲順って独特だ。

アルバムトップはまさか不可思議なサウンドが印象的な「まだら」だし、ラストはラストで鍵盤の音がイビツな世界を作り上げる「つむぎ」だし、普通のバンドならこういう曲順にしないのでは?と感じる曲順でぐっと引き込んでくる。

テクニカルなんだけど、バンドとしてのエモーショナルさみたいなものも併せ持っていているパスピエの「synonym」を聴き終わると、ただただこう思ってしまうのだ。

なんじゃこりゃ(良い意味で)と。

どんどん新しいバンドが出てくる中で、未だにポスト○○という言葉では表現できない立ち位置にパスピエのアート性が「synonym」には込められている。

 

関連記事:パスピエの新譜の不気味さに語彙力が追いつかない

 

第11位:ヨルシカ『盗作』

今作もn-bunaの非凡さが炸裂していた。

コンセプト・アルバムを作らせたら右に出るものはいないと思うし、ヨルシカの『盗作』もまた、コンセプト・アルバムの金字塔のような作品だった。

アルバムを曲順で聴くことで堪能できる物語がそこにあるし、楽曲以外にも散りばめられた各楽曲に仕掛けられた謎を考察すれば、アルバム全体で描こうとしている物語の核心に迫ることできる、その構想力は流石の一言。

もちろん、単なる言葉遊びになるのではなく、楽曲単体のクオリティーも高いところがヨルシカの凄さで、何度も聴きたくなるアルバムとなっている。

また、n-bunaの構想力を取り上げることが多いけれど、ヨルシカの物語性が唯一無二なものになるうえで、suisのボーカルとして高い表現力も重要なものになっていることは改めて記しておきたい。

ほんと、この二人、最高のタッグだよなあといつ聴いても思うのである。

あと、今作は「花に亡霊」や「夜行」のような別タイアップソングも『盗作」のコンセプトにきっちりハメたところが凄いと実感させられる。

 

関連記事:ヨルシカ「盗作」の感想と考察

 

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10位〜4位

第10位:King Gnu『CEREMONY』

実は、自分はこの作品の感想記事を書いたとき、必ずしも大絶賛していたわけではなかった。

それぞれの楽曲のクオリティーは高いが、どれも重厚な作品すぎるがゆえに。アルバム全体としてみたときのまとまりが少し薄いのではないか・・・みたいなことを書いた気がするのだ。

でも、リリースから結構長い年月を経て、このアルバムを聴いたとき、このアルバムの圧倒的大作感はただものじゃないかなーと思ったのである。

どの歌がシングル曲になってもおかしくない強度で繰り出される。

言ってしまえば、化け物のような楽曲が揃っているわけだけど、アルバムの11曲目に配置された、歌ものの最後の曲である「壇上」が、取り留めなかった流れにある種のピリオドを討つ。

改めてアルバムを聴き直すと、こんなにも大名曲が揃っているなかで、アルバムとして収めるべきところに収まっているのは「壇上」があるからだし、最後の最後で「壇上」という曲を生み出し、その「壇上」に率直な言葉を詰め込み、こういうアレンジに落ち着かせたから。

常田をはじめとするKing Gnuのそのセンス、その凄さに感服するのである。

1月にリリースされたアルバムなのに、このアルバムが持つ感動は未だ色褪せることなく今も輝いている。

今年のアルバムを振り返ったとき、やっぱりこのアルバムはどこまでも眩しく輝いていた。

結果、自分はこのアルバムをベスト10の一作として選ぶことにしたのだった。

 

関連記事:King Gnuの「CEREMONY」の出来には満点が付けられない

 

第9位:藤井風『HELP EVER HURT NEVER』

2020年は誰の年だったか。

人によっては瑛人と答えるだろうし、人によってはYOASOBIと答えると思う。

人の数だけその答えはあると思う。

ただ、自分があえて一人だけを選ぶとしたら、真っ先にこの人の名前を挙げたい。

藤井風である。

藤井風はボーカルも素晴らしいし、サウンドメイクも聞き惚れるし、ユーモアもあって独創的。

どこをとっても素晴らしいアーティストなのだ。

そんな藤井風というヤバイアーティストがいることを知ったのは「HELP EVER HURT NEVER」という作品に出会えたからだ。

ポップ、ジャズ、ソウル。

様々な音楽を横断しつつ、きっちり歌謡曲的な気持ち良さに着地させる。

藤井風の音楽的才能が炸裂した「HELP EVER HURT NEVER」。

「何なんw」「もうええわ」「優しさ」とアルバムは冒頭から盛り上がりのピークを超えていく。

もちろん、最後の「帰ろう」までそのピークは持続し続ける。

この作品は2020年の音楽シーンを振り返るうえでも、外せない名盤である。

 

関連記事:藤井風という次世代を代表するシンガーソングライターの話

 

第8位:Mr.Children『SOUNDTRACKS』

やっぱりミスチルって偉大なバンドなんだなあ。

そのことを痛感するうえで、これほどまでに説得力のある作品もないと思う。

楽曲が持つ壮大さだったり、無敵感がやはり桁違いなのだ。(自分はよくこのことをラスボス感と呼んでいる)

ミスチルって、必ずしも「誰もがマネできない超絶テクニックを披露する」というバンドではないと思う。

でも、楽曲が持つこのずっしり感はミスチルじゃないと出せない迫力なのだ。

むしろ、楽譜的な難易度の話ではないからこそ、ミスチルの凄さが際立っているとも言える。

一度でもミスチルのライブを観たことがある人なら、きっと言いたいことがわかってもらえると思う。

ロック性をむき出しにして「バンド」としての凄さを研ぎ澄ませてきたミスチルが、今ポップに向かい合ったらどうなるか。

『SOUNDTRACKS』には、そういう今のミスチルだからこその作品性が投影されていたようと思う。

ちなみに自分が特に好きな歌は「DANCING SHOES」である。

 

関連記事:Mr.Childrenの「SOUNDTRACKS」の圧倒的なラスボス感

 

第7位:Age Factory『EVERYNIGHT』

音がかっこいい。

直感的にそう感じさせてくれたのがAge Factoryの『EVERYNIGHT』である。

オルタナティブロックって何が良いのか。

その答えが全て詰まっているような一作である。

Age Factoryってシンプルでソリッドなギターロックなのに、ドームみたいなでかいところで鳴らしてもその迫力が失われなさそうな攻撃力もあるのだ。

シンプルなバンドサウンドを鋭利な刃物のような研ぎ澄ませてきたスキのなさを、サウンドからひしひしと感じるのである。

そのかっこいいが全10曲、ずっと続くのである。

余分なものは削ぎ落とされている。

オルタナティブロックのかっこよさだけが研ぎ澄まされ、やどっている。

こういう音楽が好きなやつは、絶対に刺さるはず。

そういうアルバム。

第6位:Awich『孔雀』

Chaki Zulu、Baauerなど世界最高水準のプロデューサー陣を迎えた今作。

楽曲全体のクオリティーがとにかく高い。

ラップもののアルバムって収録曲が多くて、途中で飽きちゃうこともあるんだけど、Awich「孔雀」に限ってはそういうことが一切ない。

音楽的なワクワクとある種の緊張感が宿っていて、最後までスリリングに聴くことができるのだ。

特に好きなのは、ドープなトラックが印象的な「洗脳」である。

ダンサンブルなクラップが印象的な「Lose Control」、ソウルフルな歌唱が印象的な「First Light」、トロピカルなビートで楽曲世界を紡いでいく「Pressure」と、とにかくサウンドの振り幅が大きい。

ラップシーンを中心とした音楽的な流行りを抑えつつも、Awichの作家性が際立っているのがこのアルバムの大きな魅力。

なにより、これほどの膨大さを持ちながら、音楽的な興奮が最初から最後までピークを迎える『孔雀』というアルバムの化け物たるや。

ラップ好きじゃなくても必聴の一作である。

第5位:マカロニえんぴつ『hope』

『hope』というタイトルがこんなにも似合うアルバムはないと思う。

インディーズ時代の総決算のようなアルバムであり、これまでのマカロニえんぴつの音楽的な軌跡がこのアルバムには刻まれている。

冒頭から「レモンパイ」「遠心」と彼らの代表曲が続き、アルバム序盤から大きな盛り上がりをみせる。

ただし、単なる過去の振返りではなく、今後このバンドがどれほど大きな物語に突き進むのか。

そういう希望みたいなものが、このアルバムには並行して提示されている。

5曲目に配置されたアルバムタイトルでもある「hope」が壮大なストリングスで始まるのが、その証左である。

アルバムタイトルで、このようなアレンジにしたところが今後のマカロニえんぴつの勢いを表現しているように感じるし、このような壮大なアレンジが見合っているのが、このバンドが進化の凄まじさを示しているように思う。

バンド的であるとか、そうじゃないとか、そういうものはもはや関係なくて、どんなアプローチもマカロニえんぴつの色に染めてしまう。

そういう強さを『hope』から感じられたのだ。

色々ぐだぐだと述べたけれど、今のマカロニえんぴつの良さが詰まったこのアルバムが単純にすごく好きだったという、そういう話。

 

関連記事:今のマカロニえんぴつに死角がないことがよくわかった件

 

第4位:GEZAN『狂(KLUE)』

作品に宿ったメッセージ性の強度。

そして、オルタナ、パンク、デス、コア、ノイズ、様々なロックを越境するような革新性のあるサウンドアプローチ。

既存のバンド音楽を超克するような『狂(KLUE)』という作品は、端的に言って凄いものに出くわしてしまった感が強い。

ディープな重たさが楽曲全体に宿っていて、それ故に主張が定まった言葉たちがずしりと胸に届くのだ。

混沌とするご時勢だからこそ、『狂(KLUE)』が紡ぐメッセージが痛烈に響く。

ある種の現実逃避が目的になっている音楽が多い中で、明らかに現実と対峙しようとする強度を持ったGEZANの『狂(KLUE)』には、やはり心を動かせられる。

「東京」はその最たる一曲であろう。

<新しい>という言葉で評するとチープになってしまうかもしれないが、『狂(KLUE)』で生じる感動は、他のアルバムで代替できない。

そういう意味で、他のアルバムとまったく違うアルバムであるといえる。

サウンドの革新性と言葉の強さ、そしてアルバム全体としてのまとまり。

全てが秀でているアルバムなのだ。

2020年を代表するアルバムであることは、間違いない。

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3位〜1位

第3位:赤い公園『THE PARK』

今年、作品の外側の部分で赤い公園は話題になってしまった部分もあるけれど、やっぱりこのバンドって凄いよなーと再認識できるのが『THE PARK』という作品である。

ゴリゴリなオルタナティブロックを炸裂させたかと思ったら、キュートかつポップなカラフルソングを歌うという二面性を持つこのアルバム。

なぜ赤い公園は支持されているのかという魅力の部分が、この作品に怒涛のごとくに注ぎ込まれている。

ロック・バンドってこういう可能性もあるんだぜ、っていうものを嫌というほど体感できるのが赤い公園の『THE PARK』というアルバムなのだ。

それにしても、「yumeutsutsu」の最後のセンテンスがすごく突き刺さる

行こうぜ
うつくしい圧巻の近未来
絶景の新世界

今、改めてこのフレーズを聴くと、色んな気持ちがこみ上げてしまうのだ。

それは赤い公園だけの話に限らない。

未来に対するこの言葉は、2020年の音楽シーンにおいても大きな意味を持つものになったからだ。

『THE PARK』が描いた景色は圧巻だったし、絶景だったからこそ、きっとそこで力強くしたためたその言葉は、<絶景の新世界>へと繋がっているはず。

少なくとも、赤い公園の『THE PARK』には、そんな気持ちにさせてくれるだけの希望が満ちあふれている。

 

関連記事:赤い公園の話

 

第2位:米津玄師『STRAY SHEEP』

リリースする前から名盤になることは分かりきっていたし、その期待をまったく裏切らない作品だった。

きっと20年代のベストアルバムみたいな振返り方をするときでも、米津玄師の『STRAY SHEEP』はきっと上位にランクインすると思う。

大衆的なポップ性を兼ね備えつつ、音楽的な妥協が一切ない作品。

細かな音使いにもこだわっているかと思えば、小さな子どもでも口づさんで歌えるような求心力もある。

こういうことを為せるのは米津玄師の鋭敏な才能があるからこそだと思うし、米津玄師じゃないと為せない技ともいえる。

アルバムならではのメッセージ性もあるし、もちろんアートワーク的な部分も妥協がない。

どこを切り取っても、名盤という言葉で落ち着けちゃう作品なわけだ。

大ヒット曲だった「Lemon」もアルバムの中で浮くことがなく、然るべき形に収まっている。

「カムパネルラ」から始まり、「カナリヤ」で終わる流れ。

既出曲の差し込み方も含め、どこにも非のつけようがない作品である。

この作品が一位でも良かったよなーと記事を書ききながら思いつつも、結果的にこの作品を二位とした次第。

 

関連記事:米津玄師の「STRAY SHEEP」に対する軽薄すぎる感想と考察

 

第1位:UNISON SQUARE GARDEN 『Patrick Vegee』

今年リリースしたアルバムで一番気に入ったアルバムは何だろう。

そういう問いかけを自分にしたとき、真っ先に頭に浮かんだのがユニゾンの「Patrick Vegee」だった。

このアルバムが良いなーと思うのは、コンセプトアルバムとは違った形で、アルバムならでは気持ちよさとか楽しさを体感できるところ。

具体的には曲と曲の間であったり、つなぎ方であったりに、バンドがライブをするときの畳み掛ける感じに似た興奮を覚えるのだ。

ここが、たまらない。

かつ、ユニゾンらしいある種のドライさを内包しつつも、きっちり決めるべきところでユニゾンらしい(というか、田淵らしい)メッセージ性を表出させるところも絶妙で。

「弥生町ロンリープラネット」〜「春が来てぼくら」〜「Simple Simple Anecdote」〜「101回目のプロローグ」の流れは特に秀逸。

というか、こんなにもアルバムの<部分>ではなくて、<全体>が聴きたくなるアルバムもそうはないと思う。

少なくとも、自分はそうだった。

あと、今年は直接的な言葉として扱う扱わないはともかく、アルバムのモードがコロナに影響された作品が多かったと思う。

んだけど、「Patrick Vegee」は良い意味で、通常通りのユニゾン感があって、何気にそこが自分の大きなポイントだったりする。

あえて一位を選ぶとしたら、自分の中ではこの作品だなあ!・・・ってことで、2020年のベストアルバムの1位は、UNISON SQUARE GARDENの 『Patrick Vegee』なのでした。

 

関連記事:UNISON SQUARE GARDENのアルバムが通常運行でひねくれていた件

 

まとめ

というわけで、20枚のアルバムを選出しました。

第1位:UNISON SQUARE GARDEN 「Patrick Vegee」
第2位:米津玄師「STRAY SHEEP」
第3位:赤い公園「THE PARK」
第4位:GEZAN「狂(KLUE)」
第5位:マカロニえんぴつ「hope」
第6位:Awich「孔雀」
第7位:Age Factory「EVERYNIGHT」
第8位:Mr.Children「SOUNDTRACKS」
第9位:藤井風「HELP EVER HURT NEVER」
第10位:King Gnu「CEREMONY」
第11位:ヨルシカ「盗作」
第12位:パスピエ「Q」
第13位:Sexy Zone「POP×STEP!?」
第14位:iri「Sparkle」
第15位:秋山黄色「From DROPOUT」
第16位:Halo at 四畳半 「ANATOMIES」
第17位:LAMP IN TERREN 「FRAGILE」
第18位:This is LAST「別に、どうでもいい、知らない」
第19位:角銅真実 「oar」
第20位:ヤバイTシャツ屋さん「You need the Tank-top」

当然ながら、聴けてないアルバムだってたくさんあるし、このアルバムはランキングに入れるべきでは?という声もあると思う。

なにより好きなアルバムを20枚に選ぶ残酷さというものもあった。

Vaundy の『strobo』とか、ENDRECHERIの『LOVE FADERS』とか、sora tob sakanaの『deep blue』とか、THE NOVEMBERSの『At The Beginning』とか、銀杏BOYZの『ねえみんな大好きだよ』とか、入れたい作品を挙げたらキリがなかったんだけど、色々悩んだ結果、この形にさせてもらいました。

このランキングをひとつの参考にして、2020年の音楽を聴き直してもらえたら嬉しいし、一枚でも興味の持てるアルバム、アーティストと出会えたなら、この上ない喜びです。

あ、あと2020年個人的ベストソング20は2020年12月31日に更新する予定なので、よかったらそちらもまた観てくださいな。

それでは、今回はこの辺で。

ではではでは。

 

関連記事:2020年個人的ベストソング20

 

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