前説
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今回で4回目の登場となります。ノイ村です。
これまで海外のロックを中心に寄稿させていただいておりましたが、大変有り難いことに、中の人さんから「年間ベストアルバムについても是非!」とお誘い頂きまして、2020年の締めくくりとしてこの記事を書いております。
とはいえ、シンプルに個人的な年間ベストを発表しても…と考えまして、あくまで「邦ロック中心のブログをお借りして、海外の音楽を紹介する」という立場を踏まえて、今回はタイトルにつけた通り「こういうアルバムなら読者の皆さんにも気に入ってもらえるんじゃないかな..?」という作品を10枚ピックアップさせていただきました。せっかくなので、これから追いかける楽しさも是非、ということで比較的若いミュージシャンを選ぶようにしています。
私も海外の音楽を熱心に聴くようになったきっかけは、学生時代に雑誌「ロッキング・オン」の年間ベスト号に載っていた作品(レディオヘッドとか)を取り敢えず聴いてみたことだったりするので、このリストがそういうきっかけになれば幸いです。というわけで特に順位は付けておりません。
本編
Bring Me The Horizon『POST HUMAN : SURVIVAL HORROR』
オススメ曲 : 『Teardrops』、『King Slayer feat. BABYMETAL』
2004年に活動を開始し、今ではUK代表、というか個人的には現代のロック・バンドにおいて世界最強レベルの存在になったと(勝手に)思っているBMTH。以前、寄稿させていただいた時に書いたように、実は元々、激しいデスコアを鳴らしていた彼らですが、2015年の『That’s The Spirit』以降は作品毎に物凄い勢いで音楽性を拡大していき、昨年の『amo』はダンス・ミュージックからヒップホップまで誰も真似しないレベルで思いっきり飲み込んだ、とても実験的で刺激的な傑作でした。ただ、昔ながらのワガママなファンとしては「もっとブチ切れた姿も見たいんだよな」と思っていたのも確かで。
で、ロックダウン中に創作意欲が止まらなくなった結果、前作からなんと1年も絶たずにリリースされた本作は、まさに臨界点を突破してブチ切れた最高の一枚になっております。デスコア路線が復活した過去最高レベルに暴力的な楽曲もあれば、轟音の中でエモーショナルなメロディが炸裂する『Teardrops』のようなキャリア屈指の名曲まで収録。更に親交の深いBABYMETALとの待望の初コラボ曲となる『Kingslayer』も入っていて、これがまた両者の振り切れた音楽性を掛け合わせた、超キャッチーで1000%モッシュピットがブチ上がるヤバい一曲です。ラウド系が好きな方には問答無用でオススメしたい名盤です。
Spotify : https://open.spotify.com/album/0e1WaSNDZnoPixaxDNdWo4?si=-rBdNslxTQegNRFq8aUTuQ
Apple Music : https://music.apple.com/jp/album/post-human-survival-horror/1535067172
Machine Gun Kelly『Tickets To My Downfall』
オススメ曲 : 『forget me too feat. Halsey』、『my ex’s girlfriends feat. blackbear』
元々はラッパーとして活躍していて、それだけでもアメリカを中心にある程度確固たる地位を築いていた1990年生まれのMachine Gun Kelly。ただ、実は彼の音楽のルーツはヒップホップだけではなく、彼が10代の頃に活躍していたFall Out BoyやMy Chemical Romance、Blink-182といったゼロ年代のポップ・パンクバンドからの影響が非常に大きかったんですね。これは彼だけではなくて、最近活躍している若手ミュージシャンの多くが、彼と同様に影響を受けていることを公言していたりします。
で、そんな彼のポップ・パンクへの愛情が炸裂した、全面的にBlink-182のTravis Barkerの協力を受けて制作されたのが本作。そう聞くともしかしたら敬遠する人もいるかもしれませんが、これが見事に彼だからこそ出来る「言葉のリズムの気持ちよさ」と「ポップ・パンクの爽快でキャッチーな気持ち良さ」が融合した名盤に仕上がっています。実際、本当に評判が良くて、先行シングルの『my ex’s girlfriends』は大ヒット、アルバムは史上初の全米1位というキャリア最大の成功作になりました。The Chainsmokersの『Closer』などで有名な女性シンガー、Halseyが参加した『forget me too』は特に爽快感MAXの仕上がりで、きっと来年の夏にも映えるはず(フェスで見れたら最高だろうな…)。あとシンプルにMachine Gun Kellyが超格好良い…!
Spotify : https://open.spotify.com/album/13lMLnHs5qsmm687oRc3VC?si=XBBkr8MDQFu52_rN9Grm9g
Apple Music : https://music.apple.com/jp/album/tickets-to-my-downfall/1526411917
beabadoobee『Fake It Flowers』
オススメ曲 : 『Care』、『Together』
読みづらいですよね。「ベアバドゥービー」と読みます(bea / ba / doobeeで区切ると読みやすい)。フィリピン生まれでUK在住、2000年生まれの女性シンガー・ソングライターで、今年は世界的大ヒット曲になったPowfuの『death bed』への参加で一躍時の人になったりしていました。ただ、彼女の良いところはそのブレイクを全く気にすることなく、至ってマイペースに自分が好きな音楽を追求するところだと思っています。デビュー・アルバムとしてリリースされた本作は、まさに彼女が好んで聴いていたThe Smashing PumpkinsやOasisなどの90年代のロック・バンドからの影響を彷彿とさせる、それでいてどこか身近な存在感を感じさせる素敵なロック・アルバム。
MVを見ると分かってもらえると思うんですけど、彼女の着飾らない、あくまで自分に合った感じがベスト、みたいな雰囲気が凄く良いんですよね。友達にいたらきっと素敵だろうなと思う。で、実はそんな雰囲気が、見栄えを気にしてしまいがちな今の時代の中でクールに感じるようにも思っていて。歌詞も赤裸々なくらい素直で等身大で、それがまた「良いなぁ」と感じる。それが理由なのか、影響を受けている音楽は昔のものかもしれないけど、全く古臭く聴こえなくて、とても2020年らしいフレッシュなアルバムだなぁと聴くたびに思っています。ギターロック系が好きな人に特にオススメしたい作品。
Spotify : https://open.spotify.com/album/3SGFxGF2loXeOFZtKvdmxo?si=nt-QlKQQTu-9jSzqdgqL9w
Apple Music : https://music.apple.com/jp/album/fake-it-flowers/1517132418
Soccer Mommy『color theory』
オススメ曲 : 『circle the drain』、『crawling my skin』
で、そんなbeabadoobeeに近い素敵な雰囲気を纏っていたのが、こちらは1997年生まれの女性シンガー・ソングライターのSoccer Mommy。初めて買ったアルバムがAvril Lavigneの『Under My Skin』で、Taylor SwiftやMitskiといったゼロ年代以降を代表するシンガー・ソングライターからSlowdiveのような90年代を代表するロックバンドの影響を受けた彼女の音楽もまた、凄く手触りの良い、とても穏やかな気持ちになれる一枚です。どの楽器の音も気持ち良いんですけど、ギターの音色が本当に良いんですよね。あくまでギターと歌声が中心にあって、そこからどこまでも広がっていくアレンジも抜群に良くって。
こちらも90年代のロック・バンドを彷彿とさせるサウンドではあるんですけど、beabadoobeeがディストーションの効いた歪んだサウンドが中心なのに対して、こちらはあまり歪ませない感じで、また全然違った魅力がある。まるで昔のビデオテープで撮ったような、どこか儚い、ノスタルジックな印象がより強くて、それがまた楽曲の持つ切なさを加速させるんですよね。是非、晴れた休日の昼間、一人の時間などにじっくりと聴いていただきたい。長い時間寄り添ってくれるような名盤です。
Spotify : https://open.spotify.com/album/2CISL0rSGzbO0MbQMlqBez?si=AgBXdjtCSbyoTwURrrQTKg
Apple Music : https://music.apple.com/jp/album/color-theory/1492157909
Svalbard『When I Die, Will I Get Better?』
オススメ曲 : 『Open Wound』、『The Currency Of Beauty』
https://www.youtube.com/watch?v=9B7wLmw9b7U
穏やかな作品が続いたので、一転して激しい音楽を。2011年に結成されたUKのハードコアバンド、Svalbardです。これは是非、元々激しい音楽が好きな人は勿論なのですが、「ハードコア」というジャンル自体に怖い印象を抱いていたり、ちょっと抵抗のあるような人に聴いていただきたい一枚で。確かに高速で轟音で、ボーカルのシャウトが空間に響き渡る、極めて激しい音楽性なんですけど、それでいて途轍もなく「美しい」んですよ。ある種の希望すら感じさせるほどに。
それは勿論、優しく寄り添うようなコーラスワークや、耳を突き刺すほどにエモーショナルで切ないメロディラインを弾きまくるギターリフの数々、何度も静寂が訪れるバンドアレンジによる効果が大きいのですが、何より凄まじいのがボーカルを務めるSerena Cherry(実は女性ボーカルです)のシャウトで、力強さの中にどこか儚さや脆さを感じるんですね。だからこそ、より一層に、一つひとつの叫びが切実に響いてくるんですよ。「ハードコアはここまで美しい音楽である」ということを証明する、今年屈指の名作です。本当に多くの人に届いてほしい。
Spotify : https://open.spotify.com/album/1SqXRQXHJ3EJyDILbhlCjV?si=ck87rv1ARga1LRDz2vU4SA
Apple Music : https://music.apple.com/jp/album/when-i-die-will-i-get-better/1532015707
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PVRIS『Use Me』
オススメ曲 : 『Death of Me』、『Hallucination』
2012年結成、バンド名(パリスと読みます)に反してアメリカのロックバンドです。Paramoreを彷彿とさせる、どこかダークな雰囲気を纏ったエモ/メタルコア系のサウンドと女性ボーカルのLynn Gunnの歌声が滅茶苦茶格好良くて(『My House』など)、デビュー時点からかなりの人気を博しており、2016年には早くもサマソニに出演して来日公演まで実現していたりします。そして3枚目となる本作は、そんな彼女たちのダークでクールな側面が覚醒した一枚に。これまでのエモ/メタルコア路線から一転して、ダークなダンス・ポップ路線を打ち出した作品です。
これも「2020年における格好良いロック・アルバム」の筆頭だと思うのですが、Pvrisの場合はとにかくアレンジの「引き算」が絶妙だなと思うんですよね。初期のような過剰さは無くなって、必要最小限の音色を重ねながらスケールを拡大していくような楽曲が中心になっていて、一方で元々の強みだったメロディの良さやLynnの歌声は更に魅力を増している。だからこそ、ロックでありながら、極めてクールでスタイリッシュ、そして何より過去最高にポップでもあるという。これは完全に「夜」に聴くタイプの作品です。それも深い時間帯がベスト。これに併せて踊るのは本当に最高ですよ。
Spotify : https://open.spotify.com/album/40J4xZREcFpeJVnXDXntvk?si=WVNcq8OUQiKR9GH6nWXNYw
Apple Music : https://music.apple.com/jp/album/use-me/1499739904
YUNGBLUD『weird!』
オススメ曲 : 『god save me, but don’t drown me out』、『teresa』
YUNGBLUDについても以前こちらに寄稿させていただいているのですが、その時、私は彼について「若い世代の代表として、今の人々が抱く悩みや不安を背負って立つ新たなヒーロー」といったことを書きました。そして、本作『weird!』はまさにそれを示した見事な傑作です。正直、ここまでハッキリと背負うとは思っていなかったくらい、正面から現代を生きる若い世代と向き合った、一つの宣言のような作品だと思います。
何せ、1曲目の『teresa』から、彼の魅力でもあるエモーショナルな歌声とメロディ、そしてMy Chemical Romanceを彷彿とさせるようなダークで壮大で力強いロック・サウンドに合わせて「僕が君のことを見ているから、君はもう走らなくていい / 僕がみんなのことを見ているから、僕たちは『自分たちはもう終わりだ』なんて言わなくていいんだ」って歌ってるんですよ。そして、それぞれの楽曲で鬱や不安、セクシャリティの悩みや、世間からの見え方といった様々な現代の生きづらさに正面から向き合う内容が続いていき、最後を飾る『the freak show』で「君が自分らしさを見つけることを願っているよ」と歌い上げ、彼のショーが終わるという構造の美しさ。本当に素晴らしいアルバムだと思うし、この作品を作ってくれたことに心から感謝したい。
Spotify : https://open.spotify.com/album/5M1cOYkcEY6fGNUyod2pvx?si=pheLrmotSwO7o3h8xNRArw
Apple Music : https://music.apple.com/jp/album/weird/1531401203
Juice WRLD『Legends Never Die』
オススメ曲 : 『Come & Go feat. Marshmello』、『Righteous』
Machine Gun Kellyの部分で「今活躍している若手ミュージシャンの多くはゼロ年代の音楽の影響を強く受けている」と書きましたが、昨年、故人となったJuice WRLDが歌うメロディについてもそれは同様でした。本作『Legends Never Die』は、いわゆる遺作で、彼が亡くなった後に残されていた音源を使って制作された作品です。にも関わらず、このアルバムは全米・全英両方のチャートで1位を獲得し、今年特に大ヒットした作品の一つとなっています。それは、今もなお彼が「最も支持されているラッパー」であることの証明であるとも言えるでしょう。
実際、本作は彼の魅力である内省的でメロディアスな楽曲が特に多く収録された、「入門編」としても極めて優れた作品になっています。その中でも、人気DJのMarshmelloがトラックを提供した『Come & Go』は彼の流れるように歌うラップと、軽快に刻むロックギターの相性が実に見事な一曲で、彼の新たな「ヒット曲」となりました。間違いなく、2010年代における最も偉大なアーティストであるJuice WRLDの音楽に、ここからでも全く問題はないので、是非触れてほしいと思います。音楽はこれからも残り続けるものだし、それはどれだけ時が経っても変わらないので。
Spotify : https://open.spotify.com/album/6n9DKpOxwifT5hOXtgLZSL?si=mLl1S7KxRXSHAJT2rQD4VA
Apple Music : https://music.apple.com/jp/album/legends-never-die/1526561014
Nothing But Thieves『Moral Panic』
オススメ曲 : 『Unperson』、『Is Everybody Going Crazy?』
2012年にUKで結成された5人組ロックバンド、Nothing But Thieves。彼らは2014年くらいの時点で「凄まじい才能を持つバンドが現れた」とちょっとした騒ぎになっていたのですが、それから順調に進化しまして3作目となる本作は更にとんでもない事になっています。当時は主にボーカルを務めるConor Masonによる、Museのマシュー・ベラミーが引き合いに出されるレベルの超絶ハイトーンボーカルが話題の中心になっていたのですが、そこから彼らは「バンドとして」強靭なビルドアップを図りまして、まずはとりあえず上に載せた『Unperson』を聴いてほしいなと。ダンス・ロックが好きな方は特にオススメです。
初期のArctic Monkeysのようなダンス・ロックにガンガンにドーピングを施したかのような凄まじいグルーヴ感。それでいて小難しさは無くてガンガンに踊れるキャッチーさもあるという。とにかく各楽器の絡み方が途轍もなく気持ち良いんですよ。そしてその上で縦横無尽に様々な声色を使い分けるボーカルがまた凄い。実は最近までUKロックというと少し下火気味かな?と言われる時期もあったのですが、明らかに今の彼らはOasis、Muse、Arctic Monkeysの先にある「最高に格好良いUKロックバンド」の看板を背負って立つ存在。文句なしに格好良いロック・アルバムです。
Spotify : https://open.spotify.com/album/6afyaK8ihj33Chr7A7LqNI?si=C-uNiN1lQn-_waQ2l2qnMQ
Apple Music : https://music.apple.coHm/jp/album/moral-panic/1519413837
100 gecs『1000 Gecs and the Tree of Clues』
オススメ曲 : 『hand crushed by a mallet (Remix) feat. Fall Out Boy, Craig Owens, Nicole Dollanganger』、『ringtone (Remix) feat. Charli XCX, Rico Nasty, Kero Kero Bonito』
実はここまで書いておいて個人的な2020年の年間ベスト・アルバムってこれだったりするんですけど、とはいえ作品として極めてエクストリームなので入れるか迷いまして…。とはいえ、「なんかヤバいやつ聴きたい/見たい」という物好きな方向けにこれも加えることにしました。何故かゼロ年代を代表するポップ・パンクの張本人であるFall Out Boyも参加しているので、ロックとの繋がりが無いことも無いのですが…。
100 gecsは2015年にDylan BradyとLaura Lesが結成した二人組の音楽ユニットです。このユニットは時々「Hyperpop」という枠で括られることもあるのですが、そのジャンル名が示す通り、その音楽は「超実験的で超ポップ」。明らかに何かのパラメータの調節を間違ったようなブッ飛んだ音色が特徴。昨年、『money machine』という楽曲が注目を集め、Charli XCXといった様々なアーティストのプロデューサーとしても活躍するようになったという、実は一部で熱視線が向けられているユニットだったりもします。で、本作は昨年発表された『1000 gecs』というアルバムのリミックス・アルバムなのですが、元々ブッ飛んでいた原曲が豪華ゲストの手で更に破壊されてより一層ポップになるというマジックが起きています。何故?と思ったFall Out Boyのボーカルがまた格好良いんですよ。MVは視覚的にも聴覚的にもドラッグで割と気持ち悪いので、ご注意ください。。多くの人は拒否反応を示すかもですが…。でも一度ハマったら逃げ出せないくらいの中毒性がありますよ。
Spotify : https://open.spotify.com/album/0qnExDZfz0kVeBjixPsyjS?si=APR8ur-IRYaTMA-_cuxF2w
Apple Music : https://music.apple.com/jp/album/1000-gecs-and-the-tree-of-clues/1521674860
以上です。何か気になったり、引っかかる作品があれば嬉しいです。
それでは皆様、良いお年を!
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