セブンス・ベガというバンドが気になっている件

最近気になっているバンドがいる。それは、セブンス・ベガだ。このバンドのプロフィールを簡単に紹介すると、2023年7月7日に結成された東京発の女性4人組バンドで、2025年も界隈で話題を集めている。バンドの結成の段階ではほとんどメンバーは楽器を触っていなかったらしいが、今リリースされている楽曲を聴くと、そういう「青さ」を一切感じさせない。アレンジのバリエーションも豊富だし、楽曲の世界観も鮮明。良い意味で、熟達した雰囲気を感じさせる部分もある。

そう。

セブンス・ベガって、バンドとしての洗練されていくスピードがエグいくらい早いのだ。しかも、バンドとしての世界観の作り上げ方が、他のバンドにはないものをもっている。このあたりは後述できればと思うが、こういう雰囲気の楽曲をこういうアプローチで表現するんだ!?みたいな面白さがあるバンドなのである。

そこで、この記事ではセブンス・ベガってよく知らないなーという人に向けて、自分が思うセブンス・ベガの魅力を言葉にしてみたいと思う。では、どうぞ。

本編

ベタとの距離感の絶妙さ

サブスクで配信されている一番古い歌は「きらきら」になる。

淡々としたギターロックで、いわゆるエモい雰囲気を持つタイプの邦ロックという印象。ではあるんだけど、「エモい」で若者世代に刺さるタイプのバンドの音とはちょっと違う、微妙な音の運びを確認することもできるのだ。サコティッシュフォールド(Gt.)のギターは音色の使い分けが絶妙で、切ないギターロックの中にも、ある種のスタイリッシュさが滲んでいる。ソラ(Ba.)とハイブリッドマイマイ(Dr.)のリズム隊が組みたてるビートメイクにもセンスを感じる。歌だけを主役にせずに、きちんとリズムを立たせる部分ではリズムを立たせている装いがあるというか。あえて言えば、もっと<エモい>に寄せることもできるはずなのに、それをしていない面白さがあるのだ。もっとわかりやすくボーカルを気だるげにして、もっとセンチメンタルなフレーズをまぶすことで、今風の「エモい」に舵を切ることもできる印象。でも、セブンス・ベガは、あえてそういうトーンのベタから、ちょっと外している感じがする。

この「そういうトーンに対するベタからの距離感」。そこに、より面白さを感じるわけだ。歌が良いという前提のうえで、ただ「良い」だけでは終わらないこのバンドだからこそのフックが、そういう部分に見え隠れしている印象を受ける。

次に発表された「東京ラブストーリー」では、そういうセブンス・ベガが持っていた、「そういうトーンのベタからちょっと距離を置く」というセンスが、違った方向のサウンドで、より強烈に炸裂している印象を受ける。

この歌って一言で言うと、なんだかレトロで懐かしい感じのする楽曲だなーと思う。とはいえ、じゃあ80年代とか90年代のリバイバルをやりました、みたいなベタさがあるかというと、そういうわけではない。シティーポップスに真っ向から挑みました、みたいなベタさもない。EPに収録されたものと、フルアルバムに収録されたもので、それぞれで細かな音の響きは異なっているが、そういう香りは持たせつつも、絶妙にそこのベタから外している温度感。バンドが持つギターロックなアプローチの中に、懐かしさを感じさせるギターの響きや、洒脱なカッティングのアレンジもあるし、でも、それだけでは勝負しない細かなフレーズとか音の運びとかがある。結果、バンドでレトロな音世界を作り上げることに対する”ベタ”とは絶妙な距離を置きつつ、このバンドにしかない切なさを作り出して、不思議な心地に誘ってくれるのだ。

不思議な心地という意味では、メロパートで繰り出される「語り」も絶妙だ。<ラッキーストライク><首都高速>といった具体的な単語を散りばめながら、クールに言葉を紡ぐことで、メロディーとの境界が曖昧になっていく流れ。ここがワクワクする。「東京ラブストーリー」に限らず、他のバンドでもAメロにラップをもってきて、最終的にキャッチーなサビと繋げるアプローチをするケースは一定数ある。でも、セブンス・ベガの語りってそういうリズミカルなラップとはまた異なるのだ。かといって、完全に語りとして独立させていて、ポエムのような扱いになっているかというと、そういう感じでもない。メロディーと語りが溶け合うような独特のアプローチが、歌の世界を深くしている。

アルバムで見える、バンドとしての幅広さ

このバンドの魅力を語るうえで、もうひとつ重要だなーと感じるのは、ルーツ性。もともと、セブンス・ベガはルーツに縛られないタイプのバンドだなーと感じるが、一方で、他のバンドにはないルーツ性を感じる部分もある。

というのも、自分が10~20代のバンドの話を聴くと、ルーツは同じようなバンドに行き着くことが多い。例えばBUMP OF CHICKENだったりASIAN KUNG-FU GENERATIONだったり。もちろん、そこから色んな音楽を聴いているのは前提で、最初の最初の部分で、影響を受けたバンドとして名前を挙げるバンドが被るケースは多いのだ。

でも、セブンス・ベガでソングライティングを担うシブヤカンナ(Gt.Vo)が敬愛するアーティストとして最初に名前を挙げているのが、杉山清貴&オメガトライブという話をインタビューでみた。これが面白いなと思った。というのも、杉山清貴&オメガトライブも良い歌をたくさん生み出しているけれど、この世代のバンドマンで最初に敬愛するアーティストとして、杉山清貴&オメガトライブの名前を挙げるケースはあまり見かけなかったからだ。他のバンドマンとは違うルーツの中で、自分の好きを磨いてきたからこそ、そこで生み出されるアウトプットも、他のバンドにない輝きを放つ部分があったのかなーと思うわけだ。

特に、「君とParadiso」は杉山清貴&オメガトライブっぽいキラキラしたギターサウンドとボサノヴァ風のハイハットが効いてて、夏のロマンスをテーマにした爽快なシティポップナンバーになっている。こういう世界観の歌をこういうアレンジで構成するという意味で、セブンス・ベガだからこその手腕を感じる。

それ以外にも、このバンドのアレンジの幅広さを語るうえで、『PRINCESS』のアルバムは重要な作品になる。
自分はもともと「きらきら」とか「東京ラブストーリー」の印象がベースにあったんだけど、『PRINCESS』では、初期作品とは異なる世界観やアレンジを持つ歌も多い。

「硝子」「アダルト・チルドレン」のようなギターロックバンドとしてアッパーで疾走感のある楽曲を歌うかと思えば、「上海恋物語」のようにシティー感のある洒脱さを際立たせていて、メランコリックなサウンドで魅了する楽曲もあれば、「今日はもう帰ろう」ではギターの音を歪ませて歌としてエッジを効かせている。「魅惑のバニラ」においてはアレンジの変わり方が緻密で、妖艶な雰囲気のロックチューンにラテン要素を加えた独自のサウンドに広げており、バンドとしてのアレンジの引き出しの多さにおったまげることになる。

アルバムを通して聴くと、本当の意味でなんでもアリというわけではない一方で、ジャンルに縛られない自由さが音楽にあって、聴けば聴くほどにワクワクする作品になっているのだ。

ボーカルの魅力

セブンス・ベガの音楽って、洒脱なアレンジと人懐っこいメロディーで構成された歌が多いため、歌謡曲的なエッセンスを持ち合わせた歌も多い。そのため、歌としての存在感が大きく、歌の中で物語やドラマが展開される歌も多い印象なんだけど、そのうえでシブヤカンナが果たすボーカルの存在感が、とても大きい。

溌剌としていて、でも憂いもあって。凛としているけれど、溶けるようなファルセットを展開することもあって。歌の中で様々な表情を魅せながらメロディーを紡ぐから、歌の中で描かれる物語の解像度がぐっとあがって歌の世界に誘われていくのだ。キーの高さとか声のインパクト的にもシンプルに声が耳に残るし、キャッチーなメロディーのキャッチーさがより際立たせている。

それこそ、「東京ラブストーリー」もこのボーカルで歌うからこそ、歌が持つ魅力が花開いている印象を与える。シティー感の中にストレートなギターロック的なエモさをにじませつつ、不思議な感覚の中で没入させていく美しさ。あのサウンドとこのボーカルがあるからこその境地であるように思う。

まとめに替えて

だからこそ、セブンス・ベガの音楽に惹かれていて、日に日に魅了されている、というのがこの記事の結論。

2025年もハイペースで楽曲をリリースしていたけれど、リリースするたびに新しい一面を提示しながら、アルバムリリースまで駆け抜けていった印象を受ける。ライブはまだ観たことがないので、年明けあたりのタイミングでライブを目撃したいなーと思っている自分がいる。

なんにせよ、他のバンドにはない魅力や面白さがあるバンドであることは間違いないので、もし聴いたことがない人がいれば、最初のフルアルバムがリリースされた2025年の今のうちにチェックしてほしいなーなんて思う次第。