キタニタツヤとEveが「ラブソング」で愛を歌うと毒になる件
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マイナスにマイナスをかけたプラスになる。
義務教育の最中に、この方式を聞いたときは正直意味がわからなかった。
なんで、マイナスだったものがプラスになるんだよ、と。
でも、逆に向いた状態でバックして進むと結果的に前に進んでいるでしょ?そういうことだよ、という説明を受けることで腑に落ちた。
確かに自分の身体で試してみても、前にするんでいることが実感できたからだ。
等式の話ではなく、これは他のことにも敷衍できると思っていて、逆の逆に進むと、結局は前に進んでいる、ということを実感することは多い。
ネガティブなときは逆にネガティブな歌を聞く方が元気になる、ということもあるし・・・。
そんなことはさておき。
キタニタツヤとEveがタッグを組んだ楽曲が発表された。
タイトルは、「ラブソング」。
タイトルがあまりにもど真ん中すぎて、キタニタツヤの作家性を知っている人間からすると、逆に色んな想像を持ってそのタイトルを眺めてしまう。
少なくとも、他のアーティストが描くラブとは違う角度からラブを表現するんだろうな、と思ってしまうからだ。
とはいえ、今回はEveをボーカルに招いているわけで、つまりはEveがいないと成立しないテイストの歌を作っている可能性もあるわけで、想像は混沌を極めることになる。
結論。
タイトルだけみたときはどんな歌になっているのかまったく想像できなかった。
自分の中でのキタニタツヤは、とにかくトリッキーな歌を生み出すアーティストというイメージだ。
独特の視点から歌詞を紡いで見せたり、不気味の要素を覗かせつつも最終的にキャッチーに着地させたりすることもある。
そんな独特のバランス感を持った、稀有な存在のアーティスト。
一方で、Eveも己の世界観が構築されているアーティストであるが、キタニタツヤのそれとはちょっと違う。
色んなタイプの歌を歌うのは前提としてあるが、キタニタツヤと比較するともっと王道でキャッチーなイメージの歌が多い。
似ているところがありそうで、でも、よく考えたら作風がまったく違う両者。
そして、タイトルはド直球な「ラブソング」。
冒頭で、マイナスにマイナスをかけたらプラスになると述べた。
では、強靭なる個性に強靭なる個性をかけたら、どんなことになってしまうのだろうか。
やっぱりわからなかった。
二人の個性に掛け算をした果てに、どんな結末が待っているのか、自分の想像では答えを導き出せなかったのだった。
色んな想像をはためかせながら、「ラブソング」を聴いてみたのだった。
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混ぜるな危険が混ざった瞬間
結論をいえば、めっちゃ独特の混ざり方をしていた。
マイナスとマイナスがプラスになる、みたいな言葉で語ることができる変化ではなかった。
でも、足し算とか引き算ではなくて、たしかに掛け算による変化が生じていたようには思う。
マイナスがプラスに変わるのと同様に、この二人の個性を掛け算することで、完全に別の何かに進化している感覚を覚えたのだった。
作詞作曲を手掛けているのは、キタニタツヤなので、楽曲全体の装いでいえば、キタニタツヤ節が炸裂している。
イントロの、不気味さ際立つ細やかなギターの音づかい。
ここだけでもキタニタツヤ感が溢れているし、中毒性をビンビンに感じさせる音の並びになっている。
リズムメイクも細かいため、13秒ほどのイントロだけで、良い意味で心をざわざわさせてくれるのだ。
歌が始まると、Eveの爽やかなボイスが入ってくる。
「ラブソング」という真っ直ぐなタイトルなだけあって、ここから王道的な光を放つキャッチーさをもって歌が輝くのかな・・・と思っていたら、キタニタツヤがしっかり「そんなことはさせねえぞ」とサウンドと歌詞で静止に入る。
いや、ほんと、そこから先もなんとも言えないアングラ的な輝きを持ちながら、楽曲は進んでいくのだ。
間違いなく、Eveの色がキタニタツヤの歌の世界に入ってくる心地ではある。
んだけど、それに負けないくらい、キタニタツヤの歌が持つ独特の不気味さをベースに残しながら楽曲が突き進むのである。
特に歌詞。
毎回毎回のワードチョイスがあまりにも秀逸かつ絶品なのである。
特にサビのこのフレーズが良い。
愛だ恋だと腑抜けた歌うたって
きみという毒でキマっていたいね
色んなラブソングが世の中にはリリースされているが、愛や恋を腑抜けたと言い切ってみせて、君のことを”毒”と歌ってみせるラブソングはこの歌くらいしか存在しないのではないか。
トリッキーな視点と、容赦ないワードチョイスによる、不動のキタニタツヤ感を生み出していく。
さらに”毒”というワードは単なるアクセントにするだけではなく、追い討ちをかけるように
きみは有毒で最悪で最愛の、優しい地獄
こんなフレーズもぶちこんでいく。
でも、毒のあるワードを駆使しながらも、ちゃんと”愛”を感じさせる意味に辿り着くのは流石だと思う。
2番では、
僕らみたいなクズのためのラブソングはどこ?
というフレーズが出てくるんだけど、Eveの爽やかな歌声で、こういう切れ味鋭いフレーズを歌うときのパンチ力と、それを聴くことで脳内に溢れ出るアドレナリンはえぐいことになっている。
・・・というのもあるし、こういう”毒”のあるフレーズが浮かないようなアレンジになっているのが良い。
バンドのサウンドが軸になっているんだけど、良い意味でパッチワークしている感のリズムとコードの構成を体感しながら楽曲が突き進むのだ。
歪さを残しながらも、要所をおさえるので、キャッチーの枠をはみ出さないように楽曲を進んでいくし、そのバランスにのっとりながら歌詞も構成されているので、歌詞がどんどん歌のアレンジの中に染み込んでいく心地を覚えるのだ。
その中を颯爽かつ高らかにEveが歌ってみせるからこそ、絶妙なバランスをもって歌は突き進んでいくのである。
まとめに替えて
二人が紡ぐ中毒性はやばかった、というのがこの記事の結論だし、キタニタツヤの個性にEveの個性を掛け算したからこその中毒性がこの楽曲に宿りまくっていた。
改めて、そんなことを感じるのである。
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