トリュビュートアルバムのリリースが増えて、色んなアーティストの音源化されたカバー曲を聴くことが増えた。
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好きなアーティストの好きなカバー曲を聴くというのはそれだけで楽しい気分になるものである。
もちろん、原曲派の人だっているだろうし、え〜このアレンジじゃ原曲の持つ良さがなくなっちゃうよ〜と不満を述べたくなるときもあるだろう。
期待していたのに、大したカバーではなかったと落胆することもあるだろう。
けれど、時たま「この曲がこう化けるとは!」と良い意味で仰天するカバー曲もある。
ある意味原曲を超えてしまったのでは?と感じて鬼のようにリピートしてしまうカバー曲もある。
個人的な意見を言わせてもらうと、カバーしたアーティストの作家性がもともと強い人ほど、カバー曲の世界観を良い意味でリライトする傾向があるように感じる。
というわけで、今回は、カバーされることで完全に「原曲と世界観が変わった」と感じたカバー曲をご紹介していきたい。
ちなみにここでいう「世界観が変わった」というのは、アレンジを大きく変えたというよりも、同じ歌詞なのに浮かび上がる景色が全然違うなーと感じた曲たちである。
今回は、そういうカバー曲の世界観そのものが変わってしまったなーと感じるカバー曲5線を紹介してみたい。
きのこ帝国「染まるよ」
原曲はチャットモンチー。
原曲は、少し背伸びをする女の子の失恋ソングというテイストで、終わった恋をどこか遠いところから回想していく歌詞と、表情豊かなえっちゃんの声の組み合わせな恐ろしく胸に染みるバラードソングとなっている。
チャットモンチーって、ダークだったり腹黒い曲もあるし「やっぱり女の子って怖いなー」って思わせることもたくさんあるんだけど、でも基本的にチャットモンチーの描く女子って「健気」なことが多くて、この歌だって、タバコを吸うことが悪いことだって感じてる程度にはピュアな女の子を主人公として描くところがミソだよなーなんて思う。
ギターの歪みも良い仕事をしていて、後半に進むにつれて何とも言えない悲壮感が増している。サビ前のギター音の荒々しい感じが特にグッとくるし。
ラストのサビに向けての転調とともに、歌詞は「元カレへの決別の言葉」が述べられていて、彼に染まっていた彼女が新たな朝焼けに染まっていくという構図は見事という他ない。
主人公の青春時代特有の「悪さ」みたいなものも見え隠れするし、すごく綺麗な感情を歌った歌というわけではないんだけど、だからこそ主人公のピュアさと、その成長が見て取れる歌となっている。
ある種の甘酸っぱい青春がこの歌にはあるわけだ。
が。
きのこ帝国がカバーすると途端にこの歌の邪悪度が増す。
チャットモンチーは男の人のことを「正しいけれど、もういらない」っていって、過去の思い出と決別する結末になっているけれど、きのこ帝国の決別は、完全に殺人を犯す臭いが立ち込めている。
口だけ一丁前のクズ男を今こそ殺しにやってきたぞ的な。
彼は私を彼色に染まらせたから、今度はお返しに彼氏を染まらせてあげるね。
朝焼けのような。
鮮血の赤色に。
この歌を聞いてそんな想像を駆け巡らせた僕。「あ、この男、殺されたな」ってただただ思う仕上がりになっていたわけだ。
もちろん、そんなつもりはないんだろうけど、佐藤千亜妃の温度低めのボーカルと、きのこ帝国の、静と轟音を使い分けるバンドサウンドが、「染まるよ」の世界観を良い意味で毒々しくしている。
だからこそ、この歌に宿る感情がより濃く表現されるわけだ。
結果、チャットモンチーの時に見えなかった違う表情が、きのこ帝国の「染まるよ」では見えるのかなーなんて思う、そんな個人的名カバー。
関連記事:こなそんフェスに行き、チャットモンチーのラストライブを観て思ったこと、感じたこと。
スピッツ「さよなら大好きな人」
原曲は花*花。
花*花の二人が歌っていることから、どこか失恋ソング感のあったこの歌。
しかし、スピッツが歌うと「あ、絶対『大好きな人』、もう死んでるわ」感が出てくる。
「青い車」をはじめ、数々の楽曲でヒロイン死亡説を出してきたスピッツ。
スピッツの手にかかれば、「さよなら」というフレーズはどことなく死の匂いが立ち込めてくる。
シンプルなアコギのストロークと、切ないアルペジオと、優しいリズム隊。
なにより、草野マサムネの中性的な歌声がより一層そういう死生観を浮き彫りにさせる。
ただ、この歌はそもそもが失恋ソングではなくて、作詞作曲を担当したこじまいづみさんが、なくなったお祖父を偲んで作った歌らしい。
なので「あ、大好きな人、死んでる」と感じること自体は、実は正しいのである。
失恋ソングと受け止めることが実は間違いなのである。
つまり、むしろスピッツは正しく歌詞に込められた意味を引き出した、と言えるのかもしれない。
ちなみに、この曲も収録されているアルバム「おるたな」に入っている「タイム・トラベル」というカバー曲もスピッツのカバー曲史に入る名曲だと思うので、ぜひ聴いてみてほしい。
関連記事:大好きなバンド、Spitzについて
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奥田民生「うめぼし」
原曲はスピッツ。
スピッツが歌うと「うめぼし食べたい」というフレーズがなんだかエロく聞こえるというか、爽やかな下ネタっぽく聞こえる。
「おっぱい」って歌もあるし。
けれど、奥田民生が歌うと「うめぼし」という言葉が隠喩ではなくなり、ただただ食べ物の「うめぼし!」って感じになってきて、一瞬で生活感の溢れる食卓的ソングに早変わりする。
この頃の奥田民生は一曲内におけるアレンジの幅がすごく広くてすごくそのアレンジなハマってるし、ビートルズ的なノスタルジーがあるし、何より楽器の「音」がすごく良い。
あー録音にすごく気づかいのある人がギターの音を撮ったのがすごくよくわかる乾いた音なのである。
あと、奥田民生の気だるそうな歌声が歌詞をそういう生活感のある方向に導くのかもしれない。
ってか、カバー曲というよりも完全に奥田民生の歌になっているのが凄い。
関連記事:
私立恵比寿中学「自由へ道連れ」
原曲は椎名林檎。
この歌が収録されたアルバム「日出処」が良くも悪くも話題になって、椎名林檎が歌うとただでさえけっこう社会派ぽくなるところもあるなか、さらに色んな意味で界隈をザワザワさせがちだったこの歌。
コンセプト的に「大人にも子供にもなれない」エビ中が歌うことで、この歌になかった新たな魅力見いだすことになった革命的なカバー曲である。
中盤に挿入される「道連れしちゃうぞ」っていうメンバーの決め台詞が個人的に好きなんだけど、椎名林檎が歌うと「悪魔が道連れ」にする感があったのに、エビ中が歌うと「天使なフリした小悪魔が道連れ」にする感じが出てきて、すごくキュートなのである。
原曲にあるドライブ感は損なわず、けれど、確実にキャッチャーな可愛さを手に入れることで、世界観を見事に塗り替えた、そんな名カバーだと思う。
関連記事:私立恵比寿中学がすごく良いので、邦ロック勢にも勧めていきたいノリな記事!
タイガー&ドラゴン / 和田アキ子
原曲はCRAZY KEN BANDなんだけど、和田アキ子のために作ったんじゃないかってくらいハマっている。
ある意味、原曲を超越している。
というより、楽曲にある世界観をより鮮明にさせた好例じゃないかなーと思う一作。
和田アキ子ってなんだかんだで歌うまいし、拳の効かせ方が半端ないしね。
原曲の魅力を完璧なまでに表現することで逆に世界観を塗り替えた圧倒的なカバー曲と言えるのではないだろうか。
まとめ
今回紹介していないカバー曲は名曲がたくさんあることは承知なんだけど、今回は個人的な偏見アリアリで5曲選んでみました。
色んな楽しみ方ができるのがカバー曲の良いところ。
ぜひあなたもトリビュートアルバムの沼に浸かってみてください!
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