前説

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きのこ帝国は変わったバンドだった。

え?どう変わっていたかって?

聴いてみたらわかる。

ね?

ほんと、デビュー当初はとにかく音がうるさいバンドだった。

歌詞も暗かったし、ボーカルの佐藤千亜妃の歌い方は少し怖かったし、何よりサウンドアプローチが不気味だった。

ジャンルで言えば、シューゲイザーやポストロックに影響を受けているんだけど、改めて当時を振り返っても、こんなバンドいなかった。

KANA-BOONとかKEYTALKが全盛期の時にこんな音を鳴らしているバンドがいるなんて、考えてもそのいびつさがよくわかると思う。

独特のフレーズと、轟音でスキマを塗りつぶす当時のきのこ帝国は、とにかくアングラ感が漂いまくっていたのだ。

でも、単に暗くてうるさいだけのバンドじゃなかった。

音は轟音で殺伐としているんだけど、一方で妙な切なさと儚さがあった。

佐藤千亜妃のボーカルが綺麗だったからそう思ったのかもしれない。

あるいは、メロディーそのものの求心力が、僕の心をそんなに気持ちにさせたのかもしれない。

いずれにしても、サウンドはどこまでも轟音で余韻を残すのに、反してボーカルは今にも消えそうな感じがして、そのギャップがすごく好きだったのだ。

名作「東京」が生まれる

きのこ帝国はキャリアを積んでいくなかで、サウンドが大きく変わったバンドだ。

その変化を簡単に言うならば、ギターの存在感は抑えめにされていき、ボーカルとメロディーの美しさを際立たせる作品が多くなったと言えばよいだろうか。

インディーズ時代としては最後の作品「フェイクワールドワンダーランド」の段階で大きくそれを感じることができる。

んだけど、個人的には、轟音時代のきのこ帝国と、ポップ時代のきのこ帝国の狭間な感がある、この頃のきのこ帝国がとても好きである。

この「東京」は特に名作だと思っている。

サウンドが大きなウリだったバンドのくせに、この歌はイントロなしで、いきなり息継ぎ→歌い出しで始まる。

その時点でぞくっとするんだけど、それ以上にこのメロディーラインが美しい。

「東京」と連呼するコーラスと、ボーカルが引っ込んでから本領を発揮するきのこ帝国の、轟音系残響サウンドも素晴らしい。

ほんと、バンドでバラードをやることの一つ解答なんじゃないか?と思えるくらいの隙のない音作り。

ヒリヒリとしたサウンドと美しいボーカルのギャップがそこはかとなく輝いているのだ。

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そして、そこからポップに向かう

メジャーデビュー後、最初のアルバムである「猫とアレルギー」では、きのこ帝国の豪快なサウンドはほとんどなりを潜めている。

代わりに、もともと持っていたボーカルとメロディーの美しさが、前面に出た作品が多くなっている。

ピアノもあれば、ストリングスも入れる音使いが何よりの証拠だ。

きのこ帝国の変化には賛否両論があった。

メジャーにかぶれたなんて言い方もあった。

けれど、こういう変化をしても、核にある良さは変わらないままでいるきのこ帝国のポテンシャルの高さに、僕は脱帽していた。

だって、この「怪獣の腕の中」のメロディーを聴くと、なんか妙に切ない気持ちになりませんか?

確かにサウンドのアプローチは変わったけれど、このメロディーに当てるバンドサウンドのあり方は、完璧なように思えた。

昔は人を殺しそうな殺伐感があった佐藤のボーカルは、薄い優しさに包まれている気がして、その温度感も絶妙で好きだった。

微熱に似た感動を覚えたとでも言えばいいだろうか。

何が言いたいかといえば、音のテイストこそ変われど、美しさの方向性は変われど、きのこ帝国はどこまでも素敵だったということ。

流行からは遠く離れた、唯一無二のサウンドを鳴らしていたんだ、ということだ。

そんなきのこ帝国の音楽が大好きだった。

これは「タイム・ラプス」になっても変わることのない、僕の率直なきのこ帝国に対する感想である。

無期限活動休止するということ

ジャンルは少し違うけれど、大好きなバンドなのにメンバーが抜けてしまったバンドがいる。

パスピエである。

このバンドは、メンバーが抜けたことをひとつのきっかけにして、サウンドアプローチを変えて、新たな境地にたった作品をリリースすることになった。

メンバー脱退はどのバンドにも起こり得る話である。

で、それを受けて、メンバーが抜けた状態で活動するバンドもいれば、新たなメンバーを招聘するバンドもいる。

ハンブレみたいに、特殊な形をとるバンドもいる。

そんな中で、きのこ帝国は時間を止めるという選択をした。

おそらく、きのこ帝国ほどのバンドなら、続ける方法がまったくなかったわけではないと思うのだ。

やりようはいくらでもあったとは思うのだ。

けれど、選んだ道は無期限の活動休止。

もちろん、それを聞いたときは悲しいかったし、もっともっと新たなる作品を聴きたい思いが強かった。

その一方で、不思議なことに「こういう形で(一旦)バンド活動を止めることに、らしいなーなんて思ったりもしたのだった。

なんというか、こういう決断をすること自体に、そこまでの戸惑いがなくて、きのこ帝国らしいなーと、不思議とそんなことを思えたのだった。

それは、メンバー全員が発表したコメントがどこまでも前向きだったからかもしれない。

最初から最後まで、きのこ帝国のリリースしたアルバムが名盤で、期待を裏切られたことが一度もなかったからかもしれない。

残ったメンバーはそれぞれでキャリアを積み、パワーアップして、きっとまたどこかで、きのこ帝国として圧倒的な音を鳴らしてくれると、そう信じられる気がするのだ。

最後までカッコ良いと思えた、そんなバンドだったから、そう思えるのかもしれない。

いつかくるはずのその「いつか」を期待しながら、時々
きのこ帝国の音楽を聴いて、その「いつか」を待ちたいなーと思う。

今は。

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