スピッツの「大好物」を歌詞のフレーズひとつひとつから味わう選手権

11月。

個人的な話になるが、この辺りの時期になると今年のベストソングってなんだろうと振り返ることが多くなる。

あの曲、めっちゃ聴いたな・・・とか、あの曲はすごくハマったな・・・と振り返りに時間を割くことが増えてくるわけだ。

そうなると、自ずと新しいものよりも過去の曲を聴くことに時間を割きがちで。

いわゆる<新譜>よりも、うっかり聞き逃していた今年の歌を聴く時間も増えてくるのだ。

そう。

単純に自分の新譜へのアンテナみたいなものが弱くなってしまうわけだ。

なので、一旦ド新譜はさらっと聴くにとどまり、また時間ができたときにしっかり聴こう・・・と、一旦脇においてしまうことも多いわけだ。

なんだけど、そういう振り返りに手がとまるシチュエーションが唐突に訪れた。

なぜかといえば、自分の癖のど真ん中を突き刺す新譜が現れたからだ。

この曲である。

スピッツの「大好物」である。

本編

スピッツの楽曲について

好きなバンドを5組答えてください。

仮にそういう問いを立てられたら、間違いなくその中にスピッツの名前を入れる程度には、自分はスピッツが好きである。

しかし、ここでいう<スピッツが好き>というのはトータル的な話であり、楽曲単位で言えば、必ずしも常に大ハマリしているというわけではない。

いや、もちろん、基本はどの曲も好きではある。

ただ好きは好きなんだけど、新譜を聴けば必ず大ハマリするかといえば、そんなわけはないのだ。

この5年でいえば、自分の癖にぐさりと刺さったのは、この歌である。

「みなと」は、本当に何度も繰り返し聴いた楽曲だった。

『醒めない』のアルバムは、近年のスピッツのアルバムの中でも随一にハマった作品なである。

言葉選びだったり、イントロの温度感だったり、メロディー展開だったり、そのどれもが自分の中でツボであり、スピッツにしか描けない奥行きをこの歌から覚えた。

だから、何度も繰り返し、リピートしてこの音楽を聴いたのだった。

ちなみに自分はスピッツの歌にハマると、歌詞を構成するワードひとつひとつを、味わいつくしたくなるほどに楽曲に執着することになる。

でも、そのレベルまで楽曲世界に乗り込むケースは、なかなかない。

そういう話である。

で、そう考えたとき、「大好物」はそういう求心力を持った一曲なのではないか。

そんなことを思うのである。それくらいにリピートしているのである。

スピッツの「大好物」の話

この歌はスピッツらしいロックサウンドが散りばめられた作品である。

バンドサウンドが軸にあって、なるべく余計な装飾は施さない。

よりバンドモードに入った今のスピッツならではの、太くて爽やかな音の響きがある。

でも、<ロック>の部分が全面に出ているかというそんなこともなくて、可愛いという形容詞をつけても成立しそうなマイルドな味わいもサウンドから香っている。

この辺りもスピッツらしいなあと思っていて。

オーセンティックなロック好きに刺さる音使いを展開しつつも、ポップでマイルドな手触りを感じさせる絶妙さがサウンドに宿っているのだ。

しかも、単なるポップというわけでもなくて。

妙な引っかかりを歌の中に随所に散りばめている。

言葉にもメロディーにも、そういうフックが隠されている。

歌詞の話

「大好物」というタイトルもよくよく考えたらけっこうトリッキーな気もするが、歌っている内容はスマートな恋愛ソングな気がする。

んだけど、楽曲を聴いていると「つまようじ」とか「ダルマ」とか、印象に残るワードが楽曲の中に挟まっているのだ。

もっと王道ど真ん中な言葉選びだってできる中で、ふいに想像力を働かせる甲斐があるようなワードを放り込むのである。

ポップなんだけど、必ずしもストレートではなくて、スピッツらしい味わい深さが楽曲の中に溢れているわけだ。

何より、サビのフレーズが良い。

「君の大好きな物なら僕も多分明日には好き」

一見すると、爽やかで素敵な言葉のようにみえる。

んだけど、このフレーズもキモだなーと思っていて。

だって、君が大好きなものに対して、<今>ではなく<明日>には好きになると言い切ってみせる姿勢が絶妙ではないか。

しかも、それを絶対ではなく<多分>と表現してしまう辺りにスピッツらしさを覚えずにはいられない。

間違いなく多幸感がある楽曲なのに、そういう歌の中でもきっちり天の邪鬼な感じを忍ばせる辺りに、スピッツらしさを感じてぐっときてしまう。

メロディーの話

メロディーラインも素晴らしい。

流石は草野正宗と言いたくなるほどに美しい運びで、世にあるグッドミュージックとは違う視座から美しいメロディーラインを光らせる。

んだけど、時よりそういう運びでメロディーラインを展開していくのか!という面白さも感じる部分もある。

個人的には、間奏終わりのメロディーでそれを強く感じた。

最後のセンテンスで各メロディーを伸ばしながら<やわらかく>と歌うんだけど、このメロディーの伸び方にスピッツらしさを覚えるのである。

今の流行りのバンドなら絶対ここでキーをあげて、ラストのサビの盛り上がりを強くしていくと思う。

んだけど、「大好物」は音程的な部分で言えば、絶妙な地点に着地する。

変化球というほど独創的なアプローチでもないけれど、王道といえるほどのパターンでもなくて、まさしく絶妙という言葉で表現したくなるような地点にメロディーを着地させるのである。

その感じが、たまらなく自分の癖に突き刺さるのだ。

草野だからこそ、スピッツだからこその美しさをそういったところに感じるのである。

まとめ

言葉にすると何を言っているんだ・・・?と思う箇所もあるだろうから、ぜひ楽曲を聴いてみてほしいと思うばかり。

素朴なんだけど、味わい深い、スピッツならではの魅力が溢れているように思うから。

個人的には「大好物」は、近年のスピッツ楽曲の中でも随一にツボに刺さった楽曲である。

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