前説
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(2020年11月1日注記 : 10月31日公開時点の内容について、筆者の作業ミスで一部内容に不足が御座いましたので、大幅に加筆・修正を行っております。公開時点で閲覧頂いた皆様、誠に申し訳御座いません。)
こんにちはノイ村です。前回のBring Me The Horizonの記事が大変好評だったようで有り難い限りです。今回紹介するミュージシャンは、そのBMTHも多大な影響を公言している伝説的ロック・バンド、Linkin Parkです。
2000年10月24日にリリースされたデビュー・アルバム『Hybrid Theory』が20周年を迎え、それを記念した『Hybrid Theory 20th Anniversary / ハイブリッド・セオリー 20周年記念盤』がリリースされたばかり。更に前述のBMTHも新作で彼らの楽曲タイトルを引用したり、Machine Gun Kellyなどの若いミュージシャンがインタビューで影響を語ったりと、最近になってまた名前を見ることが増えてきましたね。
勿論、彼らはいわゆるレジェンドで、国内でも絶大な人気を誇る存在です。でも、だからこそ、彼らの名前は知っている。だけど実際の楽曲を聴いたことは無いという人も多いのではないでしょうか。今回は「ロッキン・ライフ」さんの力を借りて、改めて少しでも多くの人が彼らの音楽に触れることを祈りながら書いてみます。本当はキャリア全体を語りたいところですが、今回は20周年ということで『Hybrid Theory』を中心に語れればと。
前回記事:新曲が滅茶苦茶カッコよかったので、改めてBring Me The Horizonというバンドをオススメしたい
本編
世界中のラウド・ロックの”基準”となったハイブリッド・サウンド
1996年に結成されたLinkin Park。メンバーは、チェスター・ベニントン(フロントマン。主にメロディ・パート担当)とマイク・シノダ(主にラップ・パート担当。ギターなどの楽器も兼任)、ロブ・ボードン(ドラム)、ブラッド・デルソン(ギター)、フェニックス(ベース)、ジョー・ハーン(DJ)の6人構成。これまでに7枚のフルアルバムをリリースしてきたが、2017年以降、現在は活動を休止している。
Linkin Parkの最大の特徴といえば、そのハイブリッドな音楽性である。ロックやメタルだけではなく、ヒップホップやエレクトロニック/テクノなどの非バンド音楽からの影響も落とし込んだ彼らの音楽性は、当時は「ニュー・メタル」と呼称されるなど、それまでのサウンドと大きく異なるものだった。『Hybrid Theory』のリードシングルであり、彼らの最も有名な作品の一つである”One Step Closer”は、まさに『Linkin Park』を象徴する楽曲だ。今聴いても非常に激しい楽曲なので、是非ヘッドホンを使い、大音量で楽しんでいただきたい。前回のBMTH以上に激しいブレイクダウンも待っている。
ダウンチューニングされたギターの奏でるリフが不穏な雰囲気を感じさせる中、徐々にDJが打ち込みのビートを重ねていき、緊張がピークに達すると同時に一気にバンド・サウンドが大爆発する冒頭の圧倒的な格好良さ!ヒップホップ・ビートの影響下にある裏拍を強く意識したリズムは、思わず大きく飛び上がりたくなるような躍動感を与えてくれ、DJが鳴らすスクラッチなどのエフェクト音もアクセントとして効果的に機能している。20年経った今でも非常に中毒性の高い仕上がりだ。まさに各ジャンルの要素を一つの楽曲内で構築してしまった、ハイブリッドなサウンドである。
そして、丁寧に確かめるように歌うAメロから壮大に力強く歌い上げるサビ、そしてブレイクダウンでの血管が浮き出る様子が分かるほど壮絶なシャウトと、様々な声色を使い分けるチェスターのボーカルも本当に素晴らしい。ライブで常に大合唱が巻き起こるほどにキャッチーなメロディもLinkin Parkの魅力の一つなのだが、それをチェスターが歌うことで、Linkin Parkの音楽が完成する。彼の”声”は、Linkin Park、そしてファンにとっても、最も重要な要素だったと言っても過言ではないはずだ。
彼らのハイブリッドなサウンドは、2020年の視点で見ると決して珍しいものではないかもしれない。しかし、今のラウド/ロックシーンを構成するBring Me The HorizonやMachine Gun Kelly、ONE OK ROCK、coldrainといった非常に多くのミュージシャンが、当時のLinkin Parkに絶大な影響を受けている。もし彼らがいなかったら、今の音楽は大きく違うものになっていただろう。
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マッチョイズムとは無縁の、内省的な歌詞世界
ただ、筆者としては、Linkin Parkが真に偉大な理由は、このヘヴィなサウンドの中で歌っていた「言葉」にあると考えている。ライブではモッシュピットが破壊的に盛り上がる”One Step Closer”だが、実は歌詞のテーマは「対人関係から生まれる不安やプレッシャー」であり、決してポジティブな曲ではない。サビで歌っていたのはこのような言葉である。
“お前が言う全ての言葉が、自分を限界まであと一歩のところまで追い詰める。もう崩壊寸前なんだ。(Everything you say to me takes me one step closer to the edge. And I’m about to break.)”
“息をするための場所が必要なんだ。だって、もう自分は限界まであと一歩。もう壊れてしまう。(I need a little room to breathe. ‘Cause I’m one step closer to the edge. I’m about to break.”
緊張感のあるAメロは、徐々に追い詰められていく様子を表したもので、その声はサビで悲鳴と自暴自棄と相手への怒りが混ざった絶叫に変わる。多くの激しい音楽性を持つバンドが力強いメッセージを込めたり、リスナーを煽るような言葉を放つのに対して、Linkin Parkが描く歌詞はあくまで”弱者”の視点で描かれており、非常に繊細で、あと少しで壊れてしまいそうな脆さを抱えている。それは、まさに当時のチェスター自身を表したものでもある。彼はフロントマンではあるものの、非常に繊細な人物だったのだ。
『Hybrid Theory』に収録されている”Crawling”はそんなLinkin Parkの繊細で内省的な側面を象徴する屈指の美しい名曲だ。2020年の今であれば、もしかしたらこちらの楽曲の方がしっくり来るという人も多いのではないだろうか。
“自分の皮膚を這っている。この傷がどうしても治らないんだ。恐怖の中に落ちていく。混乱している。一体何が本物なんだ。(Crawling in my skin. These wounds they will not heal. Fear is how I fall. Confusing what is real.)”
“もう一度自分自身を見つけるために、自分の壁が閉ざされていく。自信はなくて、プレッシャーがあまりにも大きすぎるんだろうなと思う。こんな感覚は前にも味わったことがある。途轍もなく不安なんだ。(To find myself again, my walls are closing in. Without a sense of confidence.
I’m convinced that there’s just too much pressure to take. I’ve felt this way before. So insecure.)”
『Hybrid Theory』は全世界で3,500万枚以上という21世紀においてトップクラスと言っても良いほどの大ヒットを記録した。それは結果として、多くのバッシングや嘲笑を生むことになる。彼らの歌詞についても、「ロックなのに女々しい」とか、「貧弱すぎる」と揶揄されることが非常に多かった。だが、だからこそ、Linkin Parkの音楽は生きづらさを抱える人々にとって強く共感出来るものであり、多くの人々にとっての救いとなっていたのだ。その精神性は、やがてMy Chemical Romanceなどのエモ・ロックや、XXXTentacionなどのエモ・ラップへと受け継がれていくことになる。音楽性だけではなく、そこに込められた「言葉」も、今の音楽シーンに大きな影響を与えているのだ。そして、それは20年が経った今でも決して色褪せることはない。
残された者として、出来ること
あくまでこの文章は、『Hybrid Theory』20周年をきっかけに書いているもので、本来であればお祝いムードで締めくくりたいところだが、”今これを書く”ということを踏まえて、敢えてこの文章を最後に書いておきたいと思う。
冒頭で、「2017年以降、現在は活動を休止している。」と書いたが、その原因は、今はもうチェスターがいないからである。2017年7月20日、彼は自殺し、この世を去った。享年41歳だった。
直接的な原因は今も不明のままだが、彼は昔からメンタルヘルスの治療を受け続けており、当時、彼の親友が自殺してしまったことに強いショックを受けていたこと、アルコールや薬物への依存が再発していたことなどが語られている。また、そして、一部ではLinkin Parkの後年の作品の音楽性と、初期のサウンドを求め続けるファンとのギャップに苛まれていたのではないかという声もある。
当時、私は数カ月後に迫った来日公演のチケットを取っており、数年ぶりに彼らのライブを見れることを心から楽しみにしていた。そして、ニュースを聞き、ただただ悲しくて、もう何をすればいいのか分からなくなってしまった。世界中のファンが悲しみに暮れ、彼らに影響を受けた本当に沢山のミュージシャンが、追悼の言葉を寄せた。
あれから3年が経ち、今は何とか彼らの魅力を伝えようと、この文章を書いている。チェスターはもうこの世にいないが、彼の創り上げた作品はこれからも残り続けるし、作品について、バンドについて、彼らをまだ知らない人たちに語り継ぐ事も出来る。それが、残された側にとって出来ることなのではないかと、今は考えている。『Hybrid Theory 20th Anniversary / ハイブリッド・セオリー 20周年記念盤』は、そのために生まれた作品でもある。
また、もし、あなたの応援している人物が苦しそうにしていたり、辛い状況に陥っている場面を見たら、どうかその人の目に見える形で、寄り添ってあげてほしい。簡単に人を傷つけることが出来る現代だからこそ、少しでもそのような救いが増えていくことを、心から願っている。
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