クローバーに込められた願い
UNISON SQUARE GARDENが2009年にリリースしたアルバム『UNISON SQUARE GARDEN』。このアルバムの一番最後に収録されているのが、今回扱う『クローバー』という曲だ。
ユニゾンの歌詞は一聴して咀嚼しきれるものがほとんどない。
さらに、彼らのほぼ全ての楽曲の作詞を担当しているBa.田淵智也自身が、ユニゾンの楽曲の歌詞について意味や解釈を語る機会もほとんどない。
私は『クローバー』という曲の歌詞をどう解釈し、どう魅力的に伝えるかを考えあぐね、一つの結論に辿りついた。
私はこの記事で、私が私の中で思い描く『クローバー』について伝えていく。きっと、あなたの中にはあなたの思い描く『クローバー』があり、別の人には別の人が思い描く『クローバー』がある。
ただ一つの可能性として、私が思い描く私の中のUNISON SQUARE GARDENの『クローバー』を以下、伝えていきたい。
クローバーは、春から夏の間に群生する植物で、よく知られているのはシロツメクサという種類だ。クローバー全般の花言葉には、「私を思って」「幸運」「約束」「復讐」などがある。
また、クローバーの花言葉は、葉の枚数によって様々な意味が存在している。
その中で、今回の記事で特に注目したい花言葉が「約束」だ。この「約束」というクローバーの花言葉の存在を頭の片隅に置いたまま記事を読み進めていただきたい。
なくなってしまったら困るもの
結論から言うと、私は『クローバー』という曲を、“UNISON SQUARE GARDENから音楽へのラブソング”だと考えている。「音楽」というと大風呂敷な表現に感じるかもしれない。
しかし、おそらくこの記事を読んでくれているあなたは、音楽が好きで特別に音楽を愛している方だろう。
そんなあなたの中に群生している音楽への愛をぜひ見つめ直しながら、この曲を聴いてほしい。
“君がここに居ないことで
あなたがここに居ないことで
回ってしまう地球なら 別にいらないんだけどな”
『クローバー』のサビにあるこのフレーズは一聴すると、誰かへの想いを直球で伝えるメッセージとして受け取ることができる。
その「誰か」を音楽に置き換えて紐解いてみると、私は私自身の中にある、とある感情に出会った。
音楽が好きな人にとって、自分の好きな音楽は衣食住と同じくらい大切なものだったり、人生を支えてくれるものだったりするだろう。
私の中にも、そういう音楽は存在する。その音楽がなくなってしまったらどう生きていいのか分からなくなるくらい、愛しているものを心の中に持っている。
それは、真摯な恋愛感情に近い気持ちであるようにも感じる。
もし、自分の好きな音楽がなくなってしまったら。 その思いが、
“君がここに居ないことで
あなたがここに居ないことで
回ってしまう地球なら 別にいらないんだけどな”
というフレーズに込められているように感じた。大袈裟かもしれないけれど、そのくらい愛している。あなたもきっとそうだと信じたい。
“そっと抜け出したパーティも
大好きだったあの映画も
未来のパズルに続いてる
「また会おう」って言った フローリア”
続く歌詞にも印象的なフレーズが多く登場する。その一つ一つを紐解きながら、『クローバー』という曲をさらに読み込んでいこう。
「シンデレラ」と「アルキメデス」
『クローバー』の歌詞には、あるおとぎ話を彷彿とさせる表現がたくさん使用されている。
“12時 時計塔の下”
“そっと抜け出したパーティ”
“誰かが落としたハンカチーフ
魔法が、それには魔法がかかってる”
これらのフレーズから思い浮かぶのは、『シンデレラ』だ。魔法で着飾ったシンデレラが舞踏会へ出向き、運命の王子様に出会うストーリーは誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。
時計の針が12時を指したら魔法は解け、シンデレラは『灰かぶり』に戻ってしまう。
12時になり、舞踏会から立ち去るシンデレラは高揚感とともに後ろ髪を引かれる思いを抱いていただろう。
そんな思いで心躍る場所から離れる経験を、私は知っている。
きっと、あなたも何度も経験してきたはずだ。
お城の舞踏会とは程遠いけれど、大好きな音楽で体を揺らすライブハウスでの経験は、このフレーズに通ずるものがあるように感じる。
いつまでもここにいたいと思うほどライブハウスは楽しいけれど、音楽が鳴り止んだら日常に戻らなければならない。
まだ聴いていたいという思いと同時に、どうしようもなく高揚する気持ちが抑えきれなくて足取りが軽くなる。
そんな経験を、私は何度もしてきた。
ライブは舞踏会ほど格式ばったものではないから、ドレスではなく『ワンピース』を見に纏うシンデレラ。それは他でもない、私たち自身であるように感じる。
“アルキメデスが恋に落ちた 11月の約束の日
大人への境界嫌って 星空と手をつないだ”
さて、ここで少し本題から外れるのだが、アルキメデスという人物をご存知だろうか? アルキメデスは紀元前の数学者で、現在の数学や物理学に直結するような様々な発見と偉業を成し遂げてきた人物だ。
アルキメデスの生涯は正確には分かっていないが、その没年だけは詳細な記録が残っている。
アルキメデスは紀元前212年、戦争時にローマ兵に殺されている。殺される直前までアルキメデスは自らの研究に没頭し、没頭していたがゆえにローマ兵の言葉を無視してしまい、腹をたてたローマ兵に殺されたそうだ。
断片的な記録しか残っていないが、そのエピソードだけでアルキメデスはたいそう変わり者だったことが想像できる。
『クローバー』の歌詞では、そんなアルキメデスが『恋に落ちる』。それは一体どういう意味を持つのだろうか? 続けて考察していく。
“アルキメデスが恋に落ちた 11月の約束の日
大人への境界嫌って 星空と手をつないだ
そのからくりで時を止めた
まやかしじゃないその世界は
未来のパズルに続いてる”
比喩表現である『アルキメデス』を抽象化して、『何かに没頭する人物』に置き換えて解釈すると、歌詞の意味が少し見えてくる。
そんな人物が『大人への境界を嫌って 星空と手をつないだ』。これは有り体に言えば、人が成長していくにつれて様々な経験をし大人になっていく過程で、子供の頃に見ていたものが見えなくなっていく変化を憂う意味を持つ。
つまり、『つまらない大人』になることを嫌って子供のままでいることを選んだと考えることができるだろう。
また、『星空と手を繋ぐ』という表現をそのまま受け取ると、『宇宙の星と結びついて星座を形作る』というイメージも浮かぶ。
星座は、何百年も何千年も前から同じ形で空にあり続けるものだ。
“大人になる前の私が星空と手を繋ぎ、時を止める。”
それは、表現者として音楽を鳴らし続けていくことを選んだ人物の心情に重なるものを感じる。
音楽を愛しているのは、受け取る側の私達も発信する側のアーティストも同じだ。
彼ら自身も、私たちと同じように音楽を愛する『アルキメデス』であるのだと『クローバー』を聴くと実感する。
舞踏会のように心躍る煌びやかなライブでの経験。
研究室に籠る研究者のように孤独に音楽に耳を傾けた経験。
他にも色々な経験がパズルのように組み合わさって、また次の音楽が生み出される。
生憎私自身は楽曲を生み出す才能はないのだが、「きっとそうだろうなぁ」と共感できる思いがたくさんある。
身を寄せて音楽を愛せる日まで
『クローバー』の歌詞には、とても印象的な英文が登場する。
“You may know lover.”
これを直訳すると、「あなたはきっと恋人を知っている。」となる。“You may know lover.” のフレーズが『夢ならば』と同じ語感を持つから当て嵌められた英文だと割り切って解釈することもできるが、それではつまらないので少し考えてみよう。
“lover”という言葉にはいくつか意味がある。
調べてみると、「恋人」「愛人」「情婦」など、この曲の訳にしてはちょっと色気のありずぎる表現が並んでいる。しかし、その中で唯一色気とは離れた意味がある。
それが「愛好家」という意味だ。
「あなたはきっと『愛好家』を知っている。」
これだけではまだ、なんとなく意味が掴みきれない。そこで、ここまで解釈してきたこの曲の意味を考えてみよう。そうすると、“You may know lover.”のメッセージが見えてくる。
盲目に音楽を愛する『アルキメデス』から音楽へのラブソングである『クローバー』は、端的に言えば音楽の『愛好家』のための曲だ。
“You may know lover.”
音楽を愛し、その愛をさらに音楽で表現するアーティストへの『フローリア』からのメッセージなのではないかと思っている。
“君がここに居ないことで
あなたがここに居ないことで
回ってしまう地球なら別にいらないんだけどな
そっと抜け出したパーティも
大好きだったあの映画も
未来のパズルに続いてる
「また、会おう」って言ったフローリア
「好きだよ」って言ったフローリア”
繰り返し登場する『フローリア』という言葉。女性の名前のようなこの言葉は、そのまま『音楽』という存在のメタファーなのではないだろうか。
2009年当時にUNISON SQUARE GARDENがどんな思いで音楽を奏でていたのかを測り知ることはできない。しかし、音楽を愛し音楽を奏でる若き彼らが不安定な足場でひしと立ち続けるために、音楽へのラブソングを綴った心情を想像することはできる。
舞踏会のように心躍る煌びやかなライブでの経験。
そこではきっと「また、ライブで会おう」という別れの言葉がある。
研究室に籠る研究者のように孤独に音楽に耳を傾けた経験。
そこではきっと「好きだよ」という愛の言葉がある。
歴史的に見ても、音楽そのものを女性に当てはめて表現した曲はたくさんある。私はこの『クローバー』もその中の一つだと考えた。
その上でクローバーの花言葉である「約束」という言葉を思い出してほしい。
「また、会おう」も「好きだよ」も『フローリア』からの約束であるとするならば、この『クローバー』という曲は、こういう状況の今こそ聴いてほしい曲だ。ライブもできない、新譜も出ない。
そんな状況でも音楽は現状鳴り止んではいない。こんな経験も未来のパズルに続いている。「また、会おう」の言葉を信じることができる気持ちにさせられる。
「また、会おう」という約束をクローバーの葉に込めて、この記事の結びとする。
いつかまた、群生するクローバーのように身を寄せて音楽で踊れる日が来るように、四つ葉に願っては止まない。
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筆者紹介
ウチダサイカ(DĀ)(@da_saika_msc)
98年生まれ、東京在住。音楽コラムを書きながら、時々小説やエッセイを書いています。
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