Hakubiの「Error」、そして「もう一つの世界 (Alt. ver.)」の話
同じアーティストのフルアルバムを3枚くらい聴くと、「あの頃がよかった」とか「刺さらなくなった」とか、ついつい偉そうに口にすることがある。なぜかと言えば、インディーズの頃の作品の方が「濃い」と感じてしまったから。濃かった初期作品以降は、どうしても納期と締切の中で制作を続けた結果生まれたもののため、当時よりは「薄まった」と感じてしまうことがあるから。
いやね、確かに実態は知らない。
リスナーの想像と、アーティスト側の実態は乖離していることだって、あるだろう。
でも、実際の事情は脇において、単純にリスナーとしてアーティストの作品に触れていると、そう感じてしまうことは確かにある。ファースト、セカンドまでは名盤だけど、その後のアルバムは佳作って感じかな・・・なんて一丁前な御託を並べることもある。どれだけ美辞麗句を並べても、本音でそう思ってしまったのなら、それは仕方がない話だ。
だからこそ。
自分の中にある、そういう方式がぶっ壊れる作品に出会ったときのゾクゾク感は半端ない。
そして、今聴いている音楽に、それに似たゾクゾクを感じているものが、ひとつある。
それが、Hakubiの「Error」という楽曲。
「もう一つの世界」から感じた、Hakubiの終焉と再生
少し話を戻そう。
まず、「Error」の発表の数ヶ月前、Hakubiは「もう一つの世界 (Alt. ver.)」をリリースした。
Hakubiの初期の楽曲であり、大胆にリアレンジして話題になった。もともとの「もう一つの世界」はサブスクでも聴くことができるが、荒削りなバンドサウンドが印象的で、当然ながらストリングスは入っていない。
インディーズ時代のそれは、あえて言えば、すっぴんという感じ。
身ひとつで感情をさらけ出しているような凄まじさがある。
このインディーズ時代のものも、いい。
なんなら、Hakubiを好きにになった理由がそこにある、ってくらいに色んなものが詰まっている楽曲だ。
なので、「もう一つの世界 (Alt. ver.)」のがらっと具合は、本来であれば壮絶なものではあった。
本来であれば、だ。
確かに、すっぴんだったあの歌は、こういう装いに変わるのか、という衝撃があった。歌の中で描かれた景色はがらっと変わっていた。そもそも、Hakubiというバンド自体も、あの頃と大きく変わったし、変化のイメージはより強くなった。
そう。
大きく、変わったのだ。
曲の景色も、Hakubiというバンドも。
それは、絵に書いたよう、インディーズとメジャーの作品スケール違いでもあった。そして、本来、そういう違いは往々にして、冒頭に述べたような、当時の作品にあった「濃かった何か」を薄まてしまう危険性があった。
よくこういう変化って「ポップで聴きやすくなる。けれど、好きだった何かが薄まった」みたいな言い方で、表現される。
でも。
不思議と、「もう一つの世界 (Alt. ver.)」には、そういうネガティブなものは一切感じなかった。
というよりも、この曲を聴いて、自分は別の何かを感じたのだった。
あえて言えば、ある種の終焉と、ある種の再生を強く感じた、とでも言えばいいだろうか。
バンドとしての物語に引っ張られたような言い草だけど、そういうものと切り離したとしても、そう感じたのだった。
ああ、なんだか終わったし、始まったし、変わったし、変わっていないな、と。そういう独特の腑に落ち方をしたのだった。
インディーズ時代の曲にあった隙間には必要な音が埋まり、荒削りだったバンドサウンドは洗練されて、シャープさと躍動感、熟達した感動を生む。
ストリングスに似合うような音色になったギターの音色に、あの頃よりも表現力を増したサウンドとボーカルに、言葉では言い表せられない感動を覚えたのだった。
きっとあの頃の歌では「できなかった表現」が、そこにあった。
その表現は、リアレンジを施すことで、立体的になったように感じたから。
結果、豪華になったアレンジは薄めるんじゃなくて、見えなかったものを映すようにしてくれた個々tになったのだった。
ブラックライトで照らすことで、見えていなかったマークが浮かび上がるような感じ。
そして、勝手ながらに、そんな「もう一つの世界 (Alt. ver.)」に、ぐっとくる自分がいたのだった。
「Error」にさらに胸を打たれる自分
Hakubiの歌って、音楽に落とし込むネガティブとポジティブのバランスとか、温度感が自分的にしっくりくることが多い。
「Error」は、そういう意味で、自分にとってどストライクだった。
「Error」の冒頭は、わりとダウナーな言葉が詰まっている。
ラップっぽい気だるげなボーカルと、悲鳴のように轟音を鳴らすギターと、そんな音をどっしりと受け止めるベースの音色。
必要な場面でチョーキングされる、歪んだギターの音色も印象深い。
楽曲の中盤以降でやってくる、歌声を多重に重ねるコーラスの響きも絶妙。
そして、楽曲が2分になったタイミングで、歌の調が変わって「何か」がはっきりと変化したタイミングで、歌詞は覚悟を決めたように、今の意志を投影したようなフレーズを投げ込む。
「Error」もまた、終焉であり、再生の歌だった。そんな気がして、なんかぐっときた。
ただただ、その表現とその構成に、そう胸をうたれる自分がいたのだった。
実際のところ、どういう狙いをもって、どういう想いを抱いて、歌詞を書いて、サウンドを構成したのかは知らない。
でも、リスナーとして今のHakubiの温度感が溢れんばかりになだれ込む感じに、ドキドキしてしまう自分がいたのだった。
まとめに替えて:『27』というepの話
これら2曲は『27』というepに収録されてリリースされる。
『27』という作品自体はまだ全部聴けていないので、どういう全貌になるのかわかっていない。
が、片桐が27歳を迎えたタイミングだからこそ『27』というタイトルにした、という噂を耳にした。
つまりは、今の想いだったり感覚をその作品に投影したのだと推察される。
「もう一つの世界 (Alt. ver.)」と「Error」に触れて、終焉と再生を経たHakubiのepの最後の曲が「しあわせ」というタイトルなのは、なんだか良いなあと思う。
少なくとも2つの作品には、Hakubiらしいネガティブさがあって。
Hakubiらしい勇ましさがあって。
凛とした歌声でまっすぐにメロディーを紡ぎつつ、シンプルで芯のある演奏でサウンドを作るHakubiの今の形がある。
変わったけれど、変わらないものがあるHakubiの音楽。
作品を重ねても、薄まることなく、螺旋階段に登るように、あるいは下るように、独特の沼にハマってHakubiの音楽に惹かれ続ける自分がいるのだった。