スピッツの「めぐりめぐって」の歌詞と音の話

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スピッツの「ひみつスタジオ」が良いよね、という話を別記事でも書いたような気がする。

「ひみつスタジオ」の良さは、バンドとしてのスピッツが、バンドをやる楽しさを、より鮮明かつ音としてわかる形で表現しているところにあると思っている。

「オバケのロックバンド」も、バンドとしてのスピッツの面白さが形になった作品だっと思う。

関連記事:スピッツの「オバケのロックバンド」の歌詞と歌割りがえぐい件

そして、アルバムの最後の曲である「めぐりめぐって」も、バンドとしてのスピッツが、バンドとしての楽しさやワクワクをそのまま作品に落とし込んだ楽曲であるように思う。

なぜ、そう思うのか?

楽曲の感想を交えながら、書いてみたい。

「めぐりめぐって」の音の良さ

この歌には「秘密のスタジオ」というワードが入っている。

このワードはアルバムのタイトルにもなっている「ひみつスタジオ」と直接繋がるものである。

ところで、この言葉はコロナ禍になってリリースのあてもない中で、それでもスタジオでレコーディングをしていたときの活動を指したものになっている。

というのも、当時、外野から「何をやっているの?」と訊かれたら、「ひみつの活動です」と答えていたことがルーツになっているそうだ。

・・・ひみつの活動・・・。

むむむ。

では、そのときのスタジオって、どういう温度感でレコーディングされていたのだろうか?

本当の答えは当事者にしかわからないだろうし、もちろん色んな想いを抱えていたとは思うが、おそらくバンドとして音を鳴らすことは、きっととても楽しいものであった、ということは伝わる気がする。

それだけ、「めぐりめぐって」が鳴っている音って、バンドとしてのワクワクとか瑞々しさが、詰まりまくっているように思うからだ。

なぜ、そう思うのか、というのはちょっと説明が難しいが、なんというか、もしビジネスとしてバンドをやっている人が30年のキャリアを重ねて音を鳴らしていたとしたら、きっともっとバンドが鳴らす音は、湿っぽいものになる気がするのだ。

だって、もしそういう状態なのだとしたら、人によってはそもそもバンドメンバーと顔を合わせたくないと思うようになるかもしれないし、できれば一緒の空間で過ごしたくない、となるケースだってあるのかもしれない。

そういう状態で音を鳴らしたら、自ずとそういうテンションの音になる。

でも、スピッツの音ってそういう感じがないように思ってしまう。

補正もあるのかもないしれないが、それを差し引いても、きっとメンバー仲が良いのだろうし、本当にバンドを”楽しい”で続けるバンドであるような感じが、少なくとも音や作品からはビンビンに伝わってくるのである。

ひねくれてやろう、の打算はちょっとだけあるけれど、売れてやろうとか、ビジネス的にはこっちの方がいいだろう、みたいな打算が音や楽曲からは感じないというか。

・・・というのもあるし、バンド仲が悪いかったとしたら、きっと「オバケのロックバンド」のようなアプローチなんてしないだろうし、そもそもそんなアイデアすら出てこないだろうと思ってしまう。

・・・というのもあるし、同アルバムに収録されている「跳べ」は、今作でも最初期のレコーディングされた歌のひとつらしいんだが、この歌も「めぐりめぐって」と通じて、本当に楽しそうに、むき出しのバンドの音を鳴らしているのだ。

本当に「跳べ」と「めぐりめぐって」は、バンドが楽しそうに音を鳴らしていて、楽しそうな音をリスナーに届けるまでの道中に、不純で余計なものが一切音として紛れ込んでいない印象を受けるのである。率直にロックバンドの音が鳴っているというか。

俺たちはこういう音を鳴らすぜ、っていうのをビンビンに感じるし、上手いとか中毒性のあるビートに酔いしれさせたいとか、そういう欲求は一切見えてこなくて、どうよ!俺の音、めっちゃでかいでしょ!とか、なんかそういうシンプルな欲求しか感じない清々しさがあるというか。

つまるところ、このバンドの「楽しい」をどこまでも優先して楽曲にしてお届けるしている心地よさがあるのである。

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「めぐりめぐって」の言葉の良さ

この歌は一人称が特に出てこず、二人称としては「君」、そして「みんな」というワードが出てくる。

スピッツの歌って、独特の幻想空間と唯一性のある比喩を歌詞の中に投じるから、一人称にも二人称にも色んな想像を当てはめて歌を聴くことができる。

でも、「めぐりめぐって」の<君>は、割と率直にこの歌を聴いているリスナーを当てはめて聴くことができる。

そして、名指しはされない一人称には、スピッツというバンドそのものを当てはめることができる。

だからこそ、フレーズのひとつひとつを迷いなく受け止めることができるし、フレーズひとつひとつの煌めきを強く実感することができる。

このフレーズはこういう意味でしょ・・・みたいな考察を用意せずとも、ひねくれながらもストレートにその言葉の意味をメッセージとして受け止めることができるのだ。

<秘密のスタジオで じっくり作ったお楽しみ>は、まさにこのアルバムそのものを指した言葉であろうし、リアルタイムで気持ち良い音を鳴らしながらこのフレーズを聴いてしまうと、自ずとニヤニヤが溢れてしまうのである。

その他のフレーズも、率直に己の自己紹介をしている感があって、ある程度スピッツの音楽を堪能してきた人間だったりすると、やっぱりニヤニヤが溢れてしまうのである。

まとめに替えて

今のスピッツってなんでいいの?と訊かれたら、これを聴け、と答えたくなる。

だって、その答えのほとんどが詰まっている一曲だよなーと思うから。

ただ、あえてその「理由」を言葉にするなら、30年のキャリアを詰んでも、本当にピュアに「バンドってワクワクするんだぜ」を音でもスタンスでも体現しているバンドだから良いんだぜ、というのが回答のひとつの重要な要素になるとは思っている。

変態と爽やかを織り交ぜた、澄み切った歌声を持つ、不思議な嗅覚と美的センスを持ち合わせる草野マサムネがボーカルにいて。

余計な動きはしないで、棒立ちのまま切なくて細かなアルペジオを紡ぐ職人気質な三輪テツヤがギターにいて。

逆に誰よりも激しく動き、誰よりも激しく跳躍して、誰よりも激しく足を広げ、音数多めのベースを鮮やかに弾きこなす田村明浩がベースにいて。

作品の中の音としてスピッツというバンドとしても、どっしりと屋台骨として支える﨑山龍男がドラムにいて。

おそらく四人全員が、バンドとして、スピッツとして楽しく音を鳴らすからこそ、スピッツの音は今なお瑞々しく、そしてかっこよく響くのである・・・ということを実感するのだ。そして、それがそのまま、今のスピッツの良さに直結している。

「めぐりめぐって」は、そのことを改めて強く感じさせてくれる楽曲だし、『ひみつスタジオ』という作品そのものが、その事実を示してくれるアルバムだよなーと感じるのである。

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