日本中に広まった『紅蓮華』のパワー
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LiSAが2019年にリリースした『紅蓮華』という楽曲。この曲は、アニメ『鬼滅の刃』のオープニングテーマに起用され、紅白歌合戦でも歌唱されるなど、日本中でヒットしたと言っても過言ではないだろう。
きっと『LiSAといえば』で、この曲を思い浮かべる方も多いはずだ。
日本中を震撼させた『紅蓮華』の力強いメッセージは、歌詞だけでなくタイトルでもある“紅い蓮”にも込められている。『紅蓮華』の歌詞と同時に、“紅い蓮”が持つ意味に触れながら、この曲が持つ熱情を紐解いていこう。
泥水で育つ蓮は…
蓮は、池や湖の上で育つ『水性生物』に分類される植物だ。きっと、あなたが頭の中にイメージする蓮も、池の上に浮かんでいるだろう。
蓮という花は、その優美で可憐な姿とは裏腹に、育つ水が綺麗で清潔だと大きな花をつけないと言われている。
つまり、泥水を吸って育った方が、蓮は大きく立派な花をつけるのだ。
“泥だらけの走馬灯に酔う こわばる心
震える手は掴みたいものがある それだけさ”
“逸材の花より 挑み続け咲いた一輪が美しい”
『紅蓮華』がオープニングテーマを飾った、TVアニメ『鬼滅の刃』では、主人公 竈門炭治郎が家族を殺した「鬼」と呼ばれる敵や、鬼に変えられてしまった妹を元の姿に戻すために奮闘する姿が描かれている。
これらのフレーズからは、守れなかった家族や殺して来た敵の数々に、自戒を重ねる心情がうかがえる。
それでも戦い、進み続けていくという前向きな思いは、泥水を吸ったからこそ大きく育つものなのではないだろうか。
“世界に打ちのめされて 負ける意味を知った
紅蓮の華よ咲き誇れ! 運命を照らして”
「負けることで強くなる」
一言で表してしまうのは簡単だが、これだけだと誰かの受け売りのような、取って付けた薄っぺらさが拭えない。
しかし、『泥水で育った蓮は大きく立派な花をつける』と知ると、それだけで『紅蓮華』という曲の受け取り方が少し変化してこないだろうか。
歌詞の意味の、もう一つ奥まで知ることで、歌詞が持つメッセージは格段に深みを増す。
“戦場の女神”が歌う意味
蓮には、いくつかの花言葉が存在する。「神聖」「清らかな心」「雄弁」などが、蓮の花言葉だ。
加えて、花はその色によって異なる意味を持っている。
『紅蓮華』つまり紅い蓮にも、もちろん紅い蓮にしかない意味が存在する。『紅蓮華』は神話に遺る、ある神のモチーフとなっている。
『紅蓮華』はヒンドゥー教の女神の一柱である、女神ラクシュミーが身に纏っている衣として登場するのだ。
美と富と豊穣を司る女神であるラクシュミー。
そんな女神と同じ名を持つ人物が、歴史上に存在する。
それが、インド大反乱の指導者の一人であり『インドのジャンヌ・ダルク』とも呼ばれる、ラクシュミー・バーイーだ。彼女は、女性ながら武器を手に闘った戦士で、今でもインドの英雄の一人とされている。
戦いに生き、戦いの中で散った彼女の雄志は、『紅蓮華』の中にも宿っているように感じる。
“簡単に片付けられた 守れなかった夢も
紅蓮の心臓に根を生やし この血に宿って”
『鬼滅の刃』で、主人公 炭治郎は、「鬼」と闘う力を持つ「鬼殺隊」に入隊し、鬼の討伐をすることになる。
同じ「鬼殺隊」に所属し、散っていった命や果たされなかった願いを抱えた上で、炭治郎は強くなっていく。
つらい思い出や悲しい出来事を乗り越えて強くなっていくさま、というだけでなく命のやりとりの中でたくましくなっていく、という意味を「紅い蓮」が持つ意味から読み解くことができるだろう。
“人知れず儚い 散りゆく結末
無情に破れた 悲鳴の風吹く
誰もが笑う影 誰かの泣き声
誰もが幸せを願っている”
普通に生きる自由を求めて武器を手に取ったラクシュミーと同じように、炭治郎も「家族を取り戻す」という、ただ普通の幸せを手にするために、戦うという選択をした。それは、ただ強さを誇示するために戦うこととは全く異なる意味を持つ。
『誰かのために強くなる』
それは、どんな理由よりも人を強くする動機かもしれない。
『紅蓮華』の歌詞を書いたLiSAも、ラクシュミーのような強さを持つアーティストだ。
葛藤や苦悩を抱え、それを全て歌の熱気で昇華させるような力は、決して一辺倒に強いだけでは手にできないものだろう。
“どうしたって!
消せない夢も 止まれない今も
誰かのために強くなれるなら
ありがとう 悲しみよ”
LiSAというアーティストが強くある理由。
それは、一番近くで彼女の歌を待つ『誰かのために』あるのかもしれない。
彼女の歌を愛し、力をもらっている私達のために刃を振るう彼女は、どこまでも高貴で大きな華に映る。
泥水を吸った蓮が大きく立派な花をつけるように、LiSAが持つ華やかな強さの根底には泥の存在がある。
咲き誇る紅蓮の華が、ただそこに咲いているわけではなく、葛藤や苦悩を飲み込んで佇んでいるのだということを知るだけで、きっと音楽の聴こえ方は変わってくる。
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筆者紹介
ウチダサイカ(DĀ)(@da_saika_msc)
98年生まれ、東京在住。音楽コラムを書きながら、時々小説やエッセイを書いています。
note→ https://note.mu/mos_cosmohttps://note.mu/mos_cosmo
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