MVに映る“マリーゴールド”

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2018年にあいみょんがリリースした『マリーゴールド』。この曲は今や、誰もが口ずさめる夏のアンセムだ。

『マリーゴールド』の歌詞は、揺れ動く恋心を描くと同時に、終わってしまった恋への懐かしさも思わせる。この“奥行き”が、『マリーゴールド』の魅力の一つだと、私は思う。

私が一聴したときには、

“花畑の真ん中で、白いワンピースと麦わら帽子をかぶった女の子が微笑んでいる”

なんて映画のワンシーンのようにロマンチックな情景が思い浮かんだ。

しかし、『マリーゴールド』のMVを見てみると、マリーゴールドの花が登場しないだけでなく、何かの花が映るシーンすらない。

MVは暗い室内と雨の街であいみょんが歌っているシーンが続く映像となっている。

そんなMVの中で唯一と言っても過言ではないほど、“鮮やか”な色が用いられている箇所があいみょんの衣装だ。

暗い室内で歌っているときに彼女が着ているトップスの色は黄色。そして、雨の街をスケートボードで滑走しながら歌う彼女が着ているトップスはオレンジ。

黄色とオレンジ。これは、マリーゴールドの花の色と一致する。

『マリーゴールド』という曲を歌いながら、マリーゴールドの花に似た衣装を身に着けることに意味付けるとしたら、この曲はどんなメッセージを持つのだろうか?

二色のマリーゴールドが教えてくれる夏の恋の1ページを、これから紐解いていく。

黄色のマリーゴールドに似てる「君」

マリーゴールドの花は、「嫉妬」「悲しみ」など、基本的には悲恋の花言葉が有名だ。

その由来は、一人の女性が恋人のいる男性を好きになってしまい、嫉妬心に狂い、その後マリーゴールドに生まれ変わったとされるエピソードにある。

実際にマリーゴールドの花が持つ意味は、あいみょんの『マリーゴールド』のイメージとはかけ離れた印象を受ける。

しかし、悲しい意味合いを持つマリーゴールドの花だが、その感情の強さが転じて、強く深い愛を表す意味も持っている。

「変わらぬ愛情」や「可憐な愛情」、「信じる心」など、マリーゴールドの花が持つ良い意味の花言葉は、あいみょんの『マリーゴールド』のイメージに近いものかもしれない。

“風の強さがちょっと
心を揺さぶりすぎて
真面目に見つめた
君が恋しい”

『マリーゴールド』は、1番では「君」を現在進行形で愛する歌詞を、2番では「君」を愛してきた時間の厚みを思わせる歌詞を、それぞれ描いている。

冒頭のフレーズは、若い二人の等身大の気持ちを感じさせる。

言うなれば、制服を身に纏っていた頃の甘酸っぱい恋だ。大人よりもずっと豊かな感受性で、悲しいこともつらいことも受け取ってしまう若さだからこそ肥大していく恋心は、きっと思春期特有のものかもしれない。

“でんぐり返しの日々
可哀想なふりをして
だらけてみたけど
希望の光は

目の前でずっと輝いている
幸せだ”

大人になりきれないまま悩みや葛藤を抱える思春期だけれど、そんな中で「君」が輝いて見える。

聴いているこちらが面映くなるような真っ直ぐな想いが、このフレーズには込められている。

“麦わらの帽子の君が
揺れたマリーゴールドに似てる
あれは空がまだ青い夏のこと
懐かしいと笑えたあの日の恋”

小さいけれど色鮮やかな花をつけるマリーゴールド。そんな花に似てる、と感じさせる「君」は、どんな人なのだろう。

バラのような華やかさでも、スイトピーのような可憐さでも、ヒマワリほどの明るさでもない。そんな人物を想い浮かべてみる。

小さな花びらが身を寄せ合うようにして咲く、その形が麦わら帽子に似ているだけでなく、マリーゴールドの花が持つ意味も含めて考えてみると、「君」の姿が見えて来るかもしれない。

麦わら帽子に似た色を持つ、黄色のマリーゴールド。

マリーゴールド全体が持つ意味以外に、黄色のマリーゴールドには『健康』という意味がある。その意味で、黄色いマリーゴールドは敬老の日の贈り物などに重宝される花でもある。

『健康』という意味を持つ花によく似た「君」。健康的な肌で、健康的に笑う「君」。

それは、青春真っ只中の二人が年相応に恋をしている、そんな姿を想像させる。

オレンジ色のマリーゴールドに似てる「君」

“本当の気持ち全部
吐き出せるほど強くはない
でも不思議なくらいに
絶望は見えない

目の奥にずっと写るシルエット
大好きさ”

二人の恋には絶望がないこと。そして、季節がすぎても「君」をずっと覚えていることが、この歌詞から分かる。

“柔らかな肌を寄せあい
少し冷たい空気を2人
かみしめて歩く今日という日に
何と名前をつけようかなんて話して”

マリーゴールドの花は、夏から秋にかけて花壇を彩る。

そんなマリーゴールドの開花時期と重なるこの曲の描写は、夏の終わりを思わせる。夏に出会った「君」と肌を寄せ合って季節を超えたい。名前をつけて忘れないように、日々を大切にしたい。そんな想いが描かれている。

しかし、この二人が“夏”という季節を超えて、このまま愛し合ったのかどうかは、『マリーゴールド』の歌詞からは分からない。『マリーゴールド』という曲には、一夏の刹那の恋の、その先は描かれていないのだ。

“遥か遠い場所にいても
繋がっていたいなあ
2人の想いが
同じでありますように”

あの夏にいる「君」を思う曲である『マリーゴールド』。ノスタルジックな曲調とともに紡がれる歌詞からは、マリーゴールドの花が持つ「変わらぬ愛情」という意味を思い出させる。

MVでは、オレンジ色のシャツを着たあいみょんが、雨に打たれながら歌う姿が映されている。その姿は、街に降る冷たい雨とは対照的に、太陽のように明るく見えるだろう。

オレンジ色のマリーゴールドは、別名「太陽の花嫁」と言われている。その由来は、オレンジ色のマリーゴールドが聖母マリアの祝日に咲いたことにあり、オレンジ色のマリーゴルドはとても神聖な花とされている。

“「もう離れないで」と
泣きそうな目で見つめる君を
雲のような優しさでそっとぎゅっと
抱きしめて離さない”

『マリーゴールド』には、青空、雲のモチーフが登場する。

「太陽の花嫁」によく似た「君」が泣かないように、雲のような優しさで抱きしめる。太陽と雲は、決して触れ合えない距離にあるけれど、こうして愛を伝えることができるのだという「深い愛情」を感じることができるだろう。

『マリーゴールド』という曲は、今は誰もが知っている夏のアンセムとなった。

そんな名曲が名曲たる所以は、ただ甘酸っぱい恋心を描いただけでは証明できないだろう。

この曲は、近くで触れ合えた恋と、その先にある「触れられない君を愛する」という時間の経過を感じさせることで、一曲の中で濃密なノスタルジーを描くことにあるように思う。

“離さない
ああ いつまでも いつまでも 離さない”

そう思うと、このフレーズは「君」を離さない、というよりも、「君との恋の思い出」を離さない、と読み解くことができるかもしれない。

面映くなるほど真っ直ぐな愛を繰り返し伝えている『マリーゴールド』が、何度も「離れない」「離さない」という言葉を選んでいるのは、遠くにいる「君」に、この想いを確実に届けるためだと思いを馳せると、その切なさが胸に染み渡る。

筆者紹介

ウチダサイカ(DĀ)(@da_saika_msc)

98年生まれ、東京在住。音楽コラムを書きながら、時々小説やエッセイを書いています。
note→ https://note.mu/mos_cosmohttps://note.mu/mos_cosmo

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