前説

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アルバムって二種類のタイプがあると思う。

とりあえず、良い曲をたくさん作ったからまとめて収録しましたっていう作品集的な要素が強いものと、ひとつの物語性なりメッセージ性なりがあって、そこを軸に構成したコンセプト的な要素が強いもの。

どちらが正しいとかはないと思うけれど、個人的には「アルバム」というフォーマットだからこその表現が見えていると、ぐっとくることが多い。

さて、SixTONESが「1ST」というアルバムをリリースした。

このアルバムは、先ほど述べたふたつのアルバムの形のどっちになるんだろうと思ってずっと作品を聴いていた。

もちろん、SixTONESは楽曲を提供してもらっているアーティストなので、どうしても前者の側面が強くはなる。

でも、単純に良い作品の寄せ集めというわけではない。

アルバムを聴きながら、そんなことを感じたのである。

この記事では、そこをひとつの切り口にしながら「1ST」の感想を書いていきたいと思う。

本編

多彩な楽曲たち

「1ST」は多彩な楽曲で構成されたアルバムである。

シングルとして事前にリリースされた「Imitation Rain」「NAVIGATOR」「NEW ERA」だけでも十分に多彩なのに、アルバム収録曲はそれ以上に多彩。

ポップ色の強い楽曲もあれば、ロック色の強い歌もある。

ヒッポホップやダンスミュージックの楽曲もあるし、ソウルフルなナンバーからボカロに接近した歌まで収録されている。

とはいえ、ひとつのアルバムで複数ジャンルにトライするということ自体は、日本の音楽シーンにおいて、それほどに珍しいことではないかもしれない。

少なくとも、SixTONESのアルバムでしかない試み、というわけではないと思うのだ。

ただし、SixTONESのアルバムにおける「多様性」で凄いと感じるのは、そのコミット具合。

というのも、ジャンルレスな音楽グループが色んなジャンルにトライしてしました、というような仕上がりの歌ではない。

どの楽曲も、その曲の核となるジャンルに深くまで入り込み、そのジャンルを研ぎ澄ませていく凄みがあるのだ。

一番わかりやすい事例だと思うので、通常盤のみに収録されている「うやむや」を挙げたい。

この歌は、2010年代後期のボカロシーンに目配せをしたアートワークやアレンジを施した一曲となっている。

で。

この歌ってボカロっぽい要素を自分たちの作品に放り込ましたというような感じではなく、卓越した技術と徹底的なこだわりを貫くことで、きちんとその「ジャンル」のど真ん中を撃ち抜くような説得力を持っているのだ。

具体的に言えば、アーティスト名を伏せてそのジャンルを好きな人にこの曲を聴かせたら、思わず唸ってしまうようなレベルなのである。

これって当然ながら簡単にできることではないし、そのジャンルのコアな部分まで表現として研ぎ澄ませるSixTONESだからこそだと思うわけだ。

その流れで言えば、「Dance All Night」も相当に面白い曲だ。

この歌はボーカルにオートチューンの加工を施して、サウンドの中にボーカルを溶け込ましているEDMである。

ボーカルの個性よりも、リズムの気持ち良さを全面に出しているのが印象的な一曲である。

同じダンスナンバーでも、「Special Order」は民族音楽のエッセンスが垣間見れる不思議な雰囲気の歌だ。

曲が盛り上がる部分ではテンポの部分で魅せていくのではなく、音圧の部分でメリハリをつけているところがポイント。

そのため、「Dance All Night」とはまた違った高揚感を生み出していく。

かと思えば、「Curtain Call」は音数少なめで、しっとりとした空気の中で、優しさと切なさを織り込ませていくし、「Lifetime」に至っては極限まで不要な音を削ぎ落とし、ボーカルとしての表現を楽曲のど真ん中に据えるアレンジになっている。

全楽曲、見せ場や魅力が違うのだ。

あくまでも他のジャンルを借りているだけのアプローチならば、曲の雰囲気は変わったとしても見せ場の部分まで変えることは難しい。

しかし、SixTONESの場合、どの歌もそこが変わっている。

ここがSixTONESの凄さだと思うし、妥協なくパフォーマンスを磨いてきたSixTONESだからこその魅せ方だと思うのである。

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アルバムに宿る物語

こういう書き方をすると、このアルバムは優れた作品を並べたアルバムなんだなあと感じると思う。

で、それは冒頭で述べた話で言えば、前者のようなアルバムと受け止められる気がするのだ。

もちろん、このアルバムにそういう一面があることは間違いない。

けれど、自分は「1ST」というアルバムを聴くに当たって、後者の部分も強く感じたのである。

どういうことか?

このアルバムは「1ST」というタイトルである。

そのタイトルにどういう意味が込められているのか、自分はきちんと把握していない。

ただ、STというのは=SixTONESなのだとしたら、1年目のSixTONESという意味合いもあるのかなーと思っていて。

だからこそ、このアルバムはSixTONESがメジャー・デビューをしてからの1年の軌跡を辿りつつ、その先に続く決意みたいものを落とし込んでいる作品であるように感じたのだ。

SixTONESのメジャーデビューといえば、「Imitation Rain」である。

ジャニーズJr.時代の人気曲からカードを切ることもできた中で、あえて静けさと激しさを内包するこの楽曲がデビュー曲としてリリースされた。

自分は、この<嵐が始まる前のような静けさ>から楽曲が始まり、やがて激しさが増して熱を帯びていくところに「ST」と重なるものを覚えた。

というのも、「ST」もまた冒頭は<嵐が始まる前のような静けさ>を持っている。

ここに「Imitation Rain」と通ずるものを感じたのだ。

“冒頭は静けさから始まり、やがてそこから誰にも負けない激しさと衝動と圧倒的なパフォーマンスで突き抜けていく”がSixTONESの始まりだったからこそ、SixTONESの「1」の軌跡を辿る「1ST」もそこをなぞるような形になったのではないか。

そんなことを感じるのだ。

だからこそ、「ST」のフレーズにはSixTONESの決意みたいなものを感じさせる要素が強いのかなーなんてことを思っていて。

そして、アルバムはそこを起点としながら、まるで6つの宝石がそれぞれの光っていくように、個性豊かな楽曲たちでアルバムが構成されていく。

これはSixTONESの音楽性の幅広さを提示するとともに、メンバーそれぞれの好きな音楽ジャンルや得意とする魅せ方も違っていることを示しているんじゃないかと思うのである。

運動が苦手なメンバーがいれば、それが得意なメンバーもいる。

歌うことが得意なメンバーもいれば、ラップなら誰にも負けないというメンバーがいる。

音楽なら何でも好きというメンバーもいれば、ロックが好きというメンバーもいるし、海外のポップスへの目配せが鋭いメンバーもいる。

それぞれにカラーがある。

ときに個々のカラーが輝き、ときにそのカラーが鮮やかに混じり合う。

様々なカラーで彩られた楽曲たちは、ある意味SixTONESそのもののカラーでもあるように感じるわけだ。

だからこそ、このアルバムを聴くことで、よりSixTONESそのものの魅力を体感できる。

やがて、アルバムは終盤に向かうに連れて、「1」から「2」に向けて、次なるSixTONESのモードに変わっていく。

そんな印象を覚える。

そこで、重要になるキーワードのひとつが「待ってろ、世界。」なのかなあと思っていて。

先ほど述べた「Imitation Rain」は、このアルバムだと9曲目に配置されている。

すべてのアルバム形態で共通となっている10曲をアルバム作品のひとつとして考えるのであれば、「Imitation Rain」は最後から2番目に配置されていることになる。

もし、「1ST」がSixTONESの一年の歴史を振り返るようなアルバムなら、デビュー曲の「Imitation Rain」は、もっと最初の曲順でいい気もするが、実態はその逆になっている。

なぜだろう。

そこで、ふと「Imitation Rain」という楽曲に想いを馳せてみる。

この曲はX JAPANのYOSHIKIが手掛けた歌で、YOSHIKIの作家性が発揮された歌となっている。

ただし、単純にYOSHIKIの持ち味を生かしただけの歌ではない。

この歌は音数をぐっと減らしており、意図的に世界のトレンドに目配せしたアレンジにもなっている。

また、世界的なトレンドに目配せしつつも、和のテイストを入れて、”世界標準でありながら日本の音楽のオリジナリティ”を根ざした楽曲にもなっているのだ。

きっとSixTONESは、将来的に海外へ視野に広げていくグループだと思うし、メンバー自身もその意志は強いと思っている。

だからこそ、「待ってろ、世界。」というコピーとともに「1ST」はリリースされたと考えている。

ただし、それは日本のリスナーにしっかりと聴いてもらい、そこで評価してもらってからこそ。

SixTONESは、あくまでも日本が土台にありつつの世界、という考えを持っているように思うわけだ。

「Imitation Rain」は日本の音楽性のオリジナリティを大事にしつつ、海外のトレンドに目配せした形になった理由もそこにあるのかなと思っていて。

あるタイミングで急に海外仕様になるんじゃない。

この時点で世界を目指しつつも、きちんと日本のリスナーに評価されることを大切にしているSixTONESだからこその意志がそこに詰まっているように感じるわけだ。

「待ってろ、世界。」というコピーに繋がるこのアルバムのラスト前の位置づけた意味は、そこにあるのかなーと勝手に思っている。

そして、そういう諸々を踏まえることで、本編ラストとなる「Lifetime」の存在感がより大きいものになっていく。

この歌は言葉が際立つアレンジになっていて、表現力の高い歌声を聴かせるバラードである。

個人的に印象的だったフレーズは、ここ。

ここから重なる Lifetime
君と超えてく Hard times
共に歩く理由は
いつでもここにあるんだ

あくまでも目指すべき世界は、日本のファンがいてこそであること強く意識しているSixTONESだからこそ響く言葉。

そういう言葉たちを優しくも、力強い歌声で歌い上げる。

世界を見据えつつも、日本のファンを何よりも大切に思うSixTONESの眼差しが、ここに詰まっているように感じるのである。

まとめに替えて

長々と書いてしまったけれど、言いたいことはわりとシンプルで。

「1ST」は単純に質の良い作品を集めた作品集に自分は感じなかったということ。

このアルバムだからこその物語とメッセージを感じたということ。

この2つである。

そして、その物語とはこれまでのSixTONESの軌跡と、これからのSixTONESの決意の2つの軸だったということである。

また、この物語を踏まえるからこそ、各アルバムごとに収録されている11曲目以降の色違いの楽曲たちがより輝くのかなーと思っている。

なんにしても。

SixTONESはすげえアルバムをリリースしたということだ。

高いレベルでパフォーマンスを磨き続けたからこそ、この境地に到達した。

そのことを強く感じる。

きっとSixTONESの音楽は、これから先、もっとたくさんの人に突き刺さる。

「1ST」を聴いて、そのことを強く強く感じたのだった。

関連記事:SixTONESの「ST」に痺れたという話

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