前説

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こんにちは、ノイ村です。前回はレジェンドであるLinkin Parkについて改めて紹介してみましたが、今回はそんなレジェンド達の意思を継いだ、若手の海外ロック・アクトについて紹介出来ればと思います。本当は今年の3月に来日公演を予定していたのですが、コロナウイルスの影響により残念ながら中止。とはいえ、この時期が落ち着いたら間違いなくまた日本に来てくれるはずですし、絶対にビッグな存在になると断言出来るアーティストですので、これを機に知っていただければと..!

本編

安易に既存の枠に当てはめたがる人々への疑念と反抗を歌う

パンキッシュでポップな衣装を身に纏った、常にどこか落ち着かない仕草を見せるイギリス・ヨークシャー出身で1997年生まれ、現在23歳の青年。近年の洗練されたポップ・アイコンに慣れた人々がたじろくような存在感を放つ彼は、今やイギリスを中心に、多くの不安や苛立ちや息苦しさを抱える若者にとってのリーダーのような存在となっている。

本名、Dominic Richard Harrison。YUNGBLUDを名乗る彼は、2017年に音楽活動を開始したばかりのニューカマーだが、既にMachine Gun KellyやBring Me The Horizon、Imagine Dragonsといった人気ロック・アクトとコラボレーションを実現し、同様に多くのロック・アクトと共演するHalseyとは楽曲だけではなく交際関係にも発展していた。現代の海外ロック・シーンを語る上で彼の存在を無視するなんて、もはや不可能といってもいいだろう。ちなみに以前、Bring Me The Horizonの”Obey”について書いたが、YUNGBLUDはこの楽曲の後半に登場する赤髪のパンキッシュな青年である。その破壊的なパフォーマンスに驚いた人も多いだろう。

ピンクのソックスを好み、濃いめのアイライナーを引き、ステージ上ではヴィクトリア・シークレットのドレスを着用することもある彼は、その理由を「自己表現として、好きだから」とシンプルに答える。影響を受けたアーティストについても、祖父母の影響で聴いていたThe Beatles、Sex Pistols、Blondie、David Bowie、Queenから、自ら発見したArctic Monkeys、Linkin Park、N.W.A.、Bring Me The Horizon、Eminem、My Chemical Romanceと、世代やジャンルを超えた様々な名前が並ぶ。彼は性別や年齢、あるいはメンタルヘルスや音楽のジャンルなど、あらゆるカテゴライズを強く嫌う。「何か一つの物事に縛られたくない」という強い信念が、彼の音楽活動のコアにある。

2019年に発表された彼の代表曲であり「両親が常に正しいとは限らないだろ」と歌う”Parents”は、どうしても何か一つのカテゴリーに物事を収めてしまいたくなる古い価値観を持つ人々を挑発する楽曲だ。どこかシアトリカルな雰囲気を漂わせながら、小気味良いヒップホップ・ビートと重厚なギターリフのコントラストが光るトラックの上で軽快にメロディ・ラップを歌うYUNGBLUDのパフォーマンスが楽しく思わず肩を揺らしてしまう。

だが、開幕から「パパが頭に銃を当ててきて / 『もし男とキスなんかしたら撃ち殺すぞ』って言ってきたんだよ / だから奴をテープで縛って小屋に閉じ込めてさ / それから庭に出て親友とヤッたのさ(My daddy put a gun to my head. / Said,“If you kiss a boy,I’m gonna shoot you dead.” / So I tied him up with gaffer tape and I locked him in a shed. / Then I went out to the garden and I fucked my best friend.)」 というフレーズが炸裂する。これでドン引きした人もいるかもしれないが、彼は敢えてこういう歌詞の書き方をしている。価値観が相容れない人をどうにか説得するより、同じ価値観を抱く人々が共感したり痛快に感じられる楽曲を作りたいと考えているからだ。その方が楽曲としての強度だって上がるし、YUNGBLUDが強い支持を受ける理由も、この迷いのないスタンスにある。

「いつかきっと救われる日が来る」という祈りを込めて

YUNGBLUDが楽曲に込めるメッセージには、孤独やメンタルヘルスに苦しむ人々に向けられたものも非常に多い。それは本人も同様に苦しんでいるからであり、”Parents”のような挑発的で力強いメッセージを放つ姿からは想像もつかない姿がそこにはある。

来る新作に収録される予定の楽曲、”god save me, but don’t drown me out”では、深夜、どうしようもなく不安に駆られて全く眠れなくなり、必ず来るはずの朝を遥か遠くに感じてしまう、それでも自分を何とか落ち着けながら、いつか救われる時が来る事を信じて祈りを捧げる姿を描いた楽曲だ。syrup16gなどのオルタナティブ・ロックバンドを彷彿とさせる輝くようなギターストロークと、YUNGBLUDの喉から必死で絞り出すような、どこか苦しそうで、だからこそ胸に突き刺さる歌声が重なり合う本楽曲は、YUNGBLUDの楽曲の中でも特に美しく、感動的なものであり、個人的には2020年のベストソングの一つである。

YUNGBLUDの歌声を聴いていると、以前筆者が大好きだったMy Chemical Romanceのボーカリスト、Gerard Wayの姿が脳裏をよぎる事がある。実際に、YUNGBLUD自身もMy Chamical Romanceから絶大な影響を受けていることを公言しており、それが歌唱法にも現れているのだろう。そして、マイケミもまた生きづらさを抱える人々に対して、手を差し伸べるようなバンドだった。そしてYUNGBLUDはインタビューなどで「今度は自分がそれをやる番だ」と語っている。

“god save me, but don’t drown me out”はただ単に絶望的な楽曲ではない。不安の渦の中で、それでもYUNGBLUDはこう叫んでいる。「この不安定な心に自分自身を決めさせなんかしない(”I won’t let my insecurities define who I am.”)」と。サビのアレンジも、間違いなくライブで盛り上がるだろうアップリフティングな仕上がりとなっており、もし再びライブハウスに集まることが出来る日が来たら、間違いなく観客全員で飛び跳ね、ライブのハイライトを作り上げるはずだ。それはきっと凄く感動的な光景になるだろう。

目の前に迫る待望の新作『Weird!』へと繋ぐ新曲、”mars”

そんなYUNGBLUDの待望のニュー・アルバム『Weird!』が12月4日にリリースされる。既に前述の”god save me, but don’t drown me out”を含む多くの先行シングルが発表されているが、どれもYUNGBLUDらしい様々なジャンルの垣根を超え、現代に抱く生きづらさに寄り添うような楽曲となっている。それらを収めたアルバムのタイトルが「奇妙だ!」という意味であるのもまた、彼らしいユーモアであり、「奇妙」であることを肯定するメッセージと言えるだろう。

そして、本作が明らかに特別な作品になることを証明しているのが、最後の先行シングルとして発表されたばかりの新曲”mars”である。まずは次のミュージック・ビデオを見ていただきたい。既に多くのファンや、SNSなどでこの楽曲の存在を知った人々が、本楽曲が産まれたことに感謝するメッセージを送っている。一つの楽曲としても、力強いギターストロークと同時に歌い出すイントロ、そしてその後に待ち受けるバンド・アレンジも鳥肌が立つほどに格好良く、きっと『ロッキン・ライフ』の読者の皆様にも気に入って頂けるはずだ。もしかしたら見ていて辛くなる人もいるかもしれないが、その時には無理せずに再生を止めてほしい。

この楽曲で歌われるのは、17歳のある女性の物語である。当時、悲しい目をしながら、まるで他人を演じて生きているような感覚の中で生きていた彼女は、こっそり、憧れていた母親の結婚指輪を身につけて登校する。でも学校はそんな姿を受け入れてくれる場所で無いことを理解していた彼女は、すぐに指輪を隠してしまった。両親も決して味方ではない。毎朝起きるたびに、何かの本に書いてあったのだろう、昨日とは違う治療法を受けさせられる。上手くいかないと分かるたびに二人は困惑し、「何故もっとマシな男にならないのか」と嘆く。治療法が試されるたびに、彼女の心が削り取られていく。いつか認められる日が来ることを信じながらも、限界を迎えつつあった彼女は、一人そっと呟き始める。

「火星に生き物っているのかな?(”Is there any life on Mars?”)」

この地球上で、自分は生き物として認められていない。誰一人として理解などしてくれない。いっそ火星にでも行けば、異星人として認めてくれるのか?一体この世のどこに逃げる場所があるんだ?この世のどこにも救いがないことへの絶望が、呟きを叫びへと変えていく。そして、この話を語るYUNGBLUDは聴き手に問いかける。

「自分が無関係だと思っているのか? / ひどい恐怖を感じているのか?(”Do you feel like you’re irrelevant? / Do you feel like you’re just scared as fuck?”)」

この楽曲は、YUNGBLUDがライブに来ていたある女性ファンと交流したエピソードが元となって制作されている。ちなみに最終的にそのファンは自分の両親をYUNGBLUDのコンサートに連れて行き、彼のパフォーマンスやファンコミュニティに触れてもらったことをきっかけに、最終的には自らを”娘”として受け入れてもらうことが出来たそうだ。そして、この楽曲自体が、前述の通り多くの人々にとっての救いとなっている。YouTubeのコメント欄には多くの共感と、励まし合うような言葉が連なっている。

自身が影響を受けた様々な音楽を自由に自らの楽曲に落とし込み、時には破壊的に、時には祈るように歌うYUNGBLUDは、既存の枠に押し込めようとする人々に反抗し、枠に押し込められる生きづらさを抱える人には優しく手を差し伸べる。だからこそ、彼の存在は大きな注目を集め、急速に支持を拡大しつつあるのだ。そして、きっと日本にも彼の楽曲を必要としている人々が多くいるはずである。是非、これをきっかけに一人でも多くの人に彼の音楽が届いてほしいと、切に願う。

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