欠けた月の黒いところが照らす、隠した心の本当の部分

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童謡のような、唱歌のような、なつかしくて覚えやすいメロディと伸びやかな歌声が心地良い歌。

それがジャングルジムに感じた第一印象だった。

それと同時に、だいぶ昔、藤原基央がインタビューで「ジャングルシムを心の檻みたいに感じて」と発言していたのを覚えているのだが、この歌に出てくるのはまさにそのまんまだと感じた。

「檻」というとやや物騒な印象を受けるかもしれないが、ここでいう「檻」とは牢獄とか動物園の檻とかじゃなくって、大事な大事な心の聖域のような場所のような─

誰にも触れてほしくない・踏み込んでほしくない部分、自分の中で隠して守っていたい部分、そうせざるを得ない部分、友達にも家族にも触れられたくない聖域。

そういう大事な心の聖域のことではないかと感じる。

この歌の物語は回想シーンからはじまる。

「ここまでおいでって言ったのが
遠い昔の事みたいだ
灯りのついた公園で
ジャングルジムの中にいたよ
皆の前じゃいつも通り
おどけてみせた昼の後
一人残って
掌の鉄の匂いを嗅いでいた」
(ジャングルジム)

幼い頃遊んだ公園。

いつものようにみんなの前じゃ取り繕っておどけてみても本当の自分の心はジャングルジム(檻)の中にいて、まるで鉄の錆びたにおいが手に残ったように、ぽつんと取り残されている。

この歌詞を読んで真っ先に思い出したのが、2010年に発売されたアルバムCOSMONAUTに収録されている『透明飛行船』の存在である。

「精一杯精一杯
笑ったでしょうみんなの前
あの子の前取り繕って」

「多分平気なふりは人生で
わりと重要なスキルだと思う」

(透明飛行船)

─ 強がって笑っておどける癖は、小さい時から持ち合わせている技だということに、昔から藤原基央は気付いている。

透明飛行船で平気なふりして笑ってる”自分“はまさにジャングルジムの後半に登場する「どんな時でも笑えるし やるべき事もこなすけど」の時の”自分”だ。

これらの”自分”はみんなの前で取り繕う明るい”自分”、ジャングルジムの外にいる”自分”であり、陰と陽で言えば陽の”自分”である。

しかし、笑っておどけてごまかしている陽の”自分”は、いつしか透明飛行船でいうところの

「ずっと平気なフリにたよって
嘘か本音かわからなくって」

(透明飛行船)

という状態になり、ジャングルジムでいうところの

「あれから大人になった今
色々忘れた顔をして

たくさんの知らない人達と
レールの上で揺られる」

「行きも帰りも大差ない
自画像みたいな顔をして

転ばないように掴まって
あるいは座って運ばれる」

(ジャングルジム)

という、張り付いた顔で毎日を過ごす大人になっていく。

頑張って本音を隠して平気な顔で過ごす毎日をいつからか重ねていったら、陽の”自分”はいつのまにか能面のようにかたまった顔の”自分”になっていたのだ。

しかしながら、

「例えば最新の涙が
いきなり隣で流れたとしても

窓の外飛んでいく
電柱や看板と同じ」

(ジャングルジム)

このように、他人の涙なんかもう気にもしないだろうと思っていたのに

「それでもどうしてだろう
つられて泣いてしまいそうな

名前もわからないのに
話も聞いちゃいないのに」

(ジャングルジム)

このように、見ず知らずの人の涙につられ泣きしてしまいそうなほど繊細な心を持った”自分”が同時に存在している。

そう、どんなに頑丈に心の檻に閉じ込めて本当の”自分”を隠し持っていても、例えばその檻の鍵をあけるトリガーは「隣の他人が流した涙」だったりするのだ。

陰の”自分”と陽の”自分”、すなわちジャングルジムの中に閉じ込めた”自分”とみんなの前の”自分”、電車の中で見つけた泣きそうになった本当の”自分”と電車の中で無表情だった”自分”、そして月の明るい所と月の黒い所。

ジャングルジムは、これらの全てがシンクロする描写がとても美しい歌である。

そして、全てを対の存在として表しつつも「帰ろう」という呼びかけ声だったり「他人の涙」だったりですぐに戻される、意外なほどに脆く危うい表裏一体の存在であることも示している。

結局のところは、陽の”自分”も陰の”自分”もどんなに使い分けられても大事な”自分”なのだ。

さて、この曲の重要なキーワードは、何度か繰り返し歌われているフレーズ「欠けた月の黒いところ」である。

非常に繊細で脆くて、人が興味本位で簡単に触れてはいけない本当の”自分”を、同じく光の当たらない見えない存在である「欠けた月の黒いところ」だけが見守る。

そう、BUMP OF CHICKENがスポットライトを当てるのは目に見えて明るく照らされている場所ではなく、ふつうなら照らさないほうの場所。

心の鍵をかけた誰かの心のジャングルジムの存在をそっと肯定し、優しく照らしてくれるのだ。

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筆者紹介

ちょの(@nagitan2)

BUMP OF CHICKENを愛する千葉県民。 地味で臆病でマジメだと思って生きてるが、リア友にはトガってて大胆でおもしろ変人と言われる謎。ビールが好き。

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