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今年のFM802 ACCESSキャンペーンソング「栞」はクリープハイプの尾崎世界観が書き下ろしたわけだけど、この曲、個人的にはすこぶるいいと思うわけだ。

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そこで、なぜ僕はこの歌がすこぶる良いと思うのかについて書いていきたい。

①歌詞とサウンドの物語性

本をモチーフにして人生の一幕を描いたこの歌。

本の中に挟んでいる栞を「後悔」のアイコンにして、何とも言えない心象を歌うわけだけど、その何とも言えなさが尾崎世界観っぽくてすごく良い。

主人公が、本の形をした己の物語に栞を挟んでいたことに気づくことで、歌詞の物語は進んでいくわけだけど、メロディーにある疾走感とともに、主人公は無理矢理に前を向き、後悔を捨てることはできないながらも、その後悔とともに一歩ずつ踏み出すような構成となっている。

そうなのだ。

この歌は歌詞がすごく物語的なんだけど、その物語はメロディーやサウンドとリンクさせながら進んでいくのである。

この歌の流れを大まかに言えば、こうなる。

イントロ⇒1Aメロ⇒1A’メロ⇒1Bメロ⇒1サビ⇒2Aメロ⇒2Bメロ⇒2サビ⇒Cメロ⇒3サビ⇒アウトロという流れ。

イントロはストリングスを強めに入れた春らしい爽やかな装いになっている。

このイントロには、この歌で出てくる全てのサウンド(楽器の音)が混ぜ込まれている。

Aメロに入ると多くの音は一旦フェードアウトして、バスドラと(たまにハイハット)、キーボードと、ミュートしてる(っぽい)ギターの音だけが控えめに鳴らされる。

Aメロはメロディーラインとしての起伏も少なく、サウンドもわざと起伏のない動きをしているかなーと思ったりして。

なぜなら、歌詞に出てくる主人公の物語もこの段階ではまだ動き出しておらず、主人公の心も平穏なのである。(今まで「忙しくて栞を挟んでいたことを忘れていた」と述べていることからもそのことがわかる)

A’メロでスネアと、ギターのカッティングとベースと、うぬうねした音が鳴っているシンセが入ってくるが、これは忘れていた「君」を思い出したことによる心の乱れを表現している(と勝手に思っている)。

Bメロに入ると、ストリングスと、ふたつのギターのガッティングが主張を強める。

今回のメンバーの中ではもっとも力強い歌声を披露しているsumika片岡の声と「まとまってたまるか」という意志の強いフレーズが重なることで、このフレーズの力強さが際立つようになっている。

おそらく、歌詞に出てくる「君」の記憶が大きくなればなるほど、バックの音が雑多になり、心の混沌が示されるのだ。

要は、君を思い出すことが主人公にとって、良くも悪くも色々とかき乱すわけである。

そして、サビに入る。(サビの話は一旦スルーする)

2番のAメロの最初のフレーズだけ、音数が少なくなり、一旦曲の疾走感がリセットされる。

なぜここだけ疾走感がリセットされるのか。

もちろん、楽曲の構成上そうした方が気持ちがいいから、というのはあるだろうが、ここのフレーズだけ、「後悔」をテーマにしたこの歌において、唯一過去を後悔していないフレーズになっている。

「初めて呼んだ君の名前 振り向いたあの顔」

これを思い出している間の主人公は、この瞬間だけは後悔なんて忘れて、絶対にニヤニヤしているはずである。

そのため、疾走感で前に進む勢いが落ちてしまうのだ。

もちろん、その時の思い出が良ければ良いほど、もうそれが戻ってこない現実を知って、それが後悔になってしまうわけだけども。

思い出している最中にそのことに再び気づいてしまうからこそ、あるタイミングで再び疾走感を取り戻し、曲は次のフェーズに進む。

ちなみに、このリセットポイントを若い衆ではなく、スガシカオに歌わせているのもポイントかなーと思っている(聴き手も少し気分が変わるし、なんか憂いが出てくるし)

似たような理屈は2サビ終わりのCメロにも当てはめられるんだけど(このときのフレーズも主人公は後悔のモードではなく別のモードに切り替わっているのだ)、このフレーズもスガシカオが歌っているのは、すごくポイントだなーと思ってる。

2サビで「ありがちで退屈などこにでもある続き」を思い出して「終わってから(それがすごく尊いものでもう戻ることはできないことが)わかっても遅い」ことに気づいた主人公は、悲しみのあまり、うつむいて地面に涙を流してしまう。

「地面に泣いてる」と斎藤宏介が歌うところが、すごくねっちこく、スピードを落として丁寧に歌っているけれど、これは主人公が弱気になって、疾走感を再び失っていることともリンクしている。(だから、一旦スローテンポになるのだ)

けれど、Cメロで主人公はリセットモードに入る。

だから、今までとは違うメロディーパターンであるCメロに入るし、起承転結でいうところの「転」のフレーズが用意されるわけだし、このメンバーにおいてのリセット職人であるスガシカオにバトンが託されるのも、そういうわけなのである。

結果、流した涙が地面に埋まってる希望という名の桜に対する水になる、という考えに至り、よしもう一度前へ進もうというモードに切り替わるのである。

「涙」という、普通のポップスならネガティヴに描かれがちな要素を、肯定的でポジティブに描いてみせる尾崎世界観の感性は流石というほかない。

主人公のモードが変わったところで、前へ向く決心がなされる。

だから、ここから先は疾走感を緩めることはしない。

Cメロ終わりにアウトロに入ることなく、そのままサビへ入るのはそのためだ。(たぶん普通のロックソングならここでアルペジオのギターソロが入っていたと思うんだけど、これを回避しているところもポイントなわけだ)

このように、サウンドと歌詞の物語性のリンクが強いから、この歌はすごく良いのだ。

尾崎世界観のソングライターも光ることながら、トオミヨウさんのアレンジ力もわりと秀逸だよなーと感じる。

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②ちょっと痛いしもっと居たい

1サビと3サビに出てくる「ちょっといたい もっといたい ずっといたいのにな」というフレーズ。

あくまでも個人的な主観であるが、この「いたい」は「居たい」と「痛い」がかかってるんじゃないかと勝手に思っている。

居たいけど、痛い。

そんな微妙な気持ちがこのフレーズに込められてるんじゃないか、と。

春なのにちょっとうつむき加減で、けれど、決して完全にネガティヴなわけじゃなくて、綺麗に咲いて散ってしまった後悔の思い出を胸にしまいこみながら、うつむいているからこそ見える地面の景色に希望を見出す、そんなちょっとした前向きな歌。

そういう微妙な心持ちが「いたい」の言葉に凝縮されているんじゃないかなーと個人的には思っている。

③声の使い分け

この歌は下記ボーカリストが参加している。

あいみょん/尾崎世界観(クリープハイプ)/片岡健太(sumika)/斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)/スガ シカオ

スガシカオの役割は前述したわけだが、印象としてはフレーズのポイントポイントに然るべきボーカリストを並べた感がある。

例えば、このなかで一番低音ボーカルの片岡健太が歌うと、そのフレーズだけは「叫び」になる。

そのためか、割り当てられたフレーズはすごく主人公の感情が強く出ているフレーズが多いように感じる。

一方、ハイトーンボイスのGENや唯一の女性ボーカルであるあいみょんは逆に感情をあまり出さないように歌っていて無色感が強いように感じるし、割り当てられたフレーズも、主人公の感情をどっちにもとれるようなフレーズが多いように感じる。

また、尾崎世界観はどちらという陽の要素の強いフレーズを歌っていて、斎藤宏介は陰の要素の強いフレーズを歌っているイメージがある。(だから、斎藤宏介はサビでしか歌わないのである)

まあ、この辺はただの僕の主観でしかないわけだけど。

ひとつ言えるのは、全員でハモったり、合唱するフレーズは作らず、あくまでも一人の主旋律につき、ハモりは一人までを通底させたことだと思う。

全員でコーラスしてしまったら絶対にこの歌の
侘び寂びや湿っぽさ、なによりこの歌のテーマである「後悔」という要素に水を指してしまったことだと思うのだ。

主旋律を歌うのは一人を通底したからこそ、この歌詞の物語はどこまでも色鮮やかに表現されたのだと思う。

まとめ

なーんて感想を書いてみたけど、これは僕の主観でしかないんだけどね。

「これが正解だ」みたいなノリで書いてしまったけれど、この考察こそが「嘘だよ。ごめんね〜」みたいなノリだったりするんだけどね。本当はね。

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